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ごめんなさい

「流都さん、ごめんなさい!私…不倫してる」


「……」


流都さんは無言で、目を閉じた。


「謝って許される事じゃないのはわかってます。

だから…あなたの気が済むようにして下さい」


私はテレビの横の小さなチェストから、封筒を取り出し、机に置いた。


流都さんは中身を取り出すと、眉間に皺を寄せて言った。


「これは何?」


「見ての通り…離婚届だよ」


封筒の中に入っていたのは、私のサインが入った離婚届。


「私は浮気される辛さを知ってるのに、裏切りを責めたくせに、浮気した。

それは絶対許されない事だってわかってる。

だけど、あの人が好きで、流都さんも愛してて。

…離婚されても仕方がないと思ってる。

だから…」


ビリッ!


私の目の前で、離婚届はただの紙くずになって床に散らばった。


「なん…」


「何でじゃない!俺はこんな事望んじゃいない!!」


「でも私…!」


「俺はっ!…俺はもう後悔したくない。

情けないけど、お前を離したくない」


「…っ!」


流都さんは私を抱きしめた。


離れて座り直した流都さんは、涙を浮かべていた。


「…お前が家を出て行った日の事、今でも時々夢見るんだ。

見せられた写真にやましい事はない、と言い切れたのに、昔の事思い出して動揺して、何も言えなかった。

罰が当たったのかと思ったよ」


それから流都さんは大きくため息を吐いて、話し出した。


「梓と出会う前…まだ俺が高校の時。

その頃は本当に最低な男で。

付き合ってた子に浮気がバレて…というか、四股だったけど。

あの日の梓と同じように、浮気相手とキスしてる写真を突き付けられて。

目が笑ってない笑顔でどういう事?って言ったんだ。

最低な俺は開き直って、お前も数いる女の1人だって言った。

想像出来ると思うけど、思いっきり平手打ちされて。

何も言わずに走り去ったのが最後だった。

他校だったから、それで終わり。

俺も遊び相手が1人減ったくらいにしか思ってなかったから、その子がどんなに傷ついたかとか全く考えなかった。

だから、未遂だけど自殺図ったって聞いた時も、助かったんだってそんな程度にしか思ってなかった」


私は少し信じられない気持ちだった。


初めて出会った時は確かにチャラくて、構われるのが凄くうざかった。


かっこいいし、モテるし、きっと遊び人だろうなって。


だけど、仕事に関しては真面目で、そんな流都さんに私は惹かれた。


「あの時、その事思い出して。

何にも言えなかった。

また、取り返しのつかないようになったらって…。

でもそれが、別のトラウマになった」


「…ごめんなさい」


知らなかった。


私が流都さんの心に、大きな傷を負わせてしまった事。


「浮気してるって、知って知らぬふりをしてたんだ。…多分最初から」


「う、そ…!」


「梓を抱いた時、葬式から帰ってきたのに、線香の香りがしない上、いつも使ってるボディソープと違う香りがして。

すぐにピンと来た。

自分が同じ事してたからさ。

これも自分の過去の行いに対する報いかって。

…でも俺は、浮気される事よりも、梓を失うのが嫌だったから。

ずっと黙ってた」


恥ずかしかった。


自分はちゃんと隠せてると思ってたから。


いい気になってた。


それは全部、流都さんが知らない所で傷付いてくれてたからだったのに。


流都さんの言葉にどれだけの思いが詰まってたかって事を思い知らされた。


「恥ずかしい位、俺は梓に惚れてる。

他の男と会っても、ちゃんと俺の所に帰って来てくれる。

俺を愛してくれてるって思ってる。

それだけで俺は幸せなんだ」


もう泣かないって決めたのに。


涙が止まらなくなった。


こんなに深い愛に私は包まれていたんだ。


「だから絶対離婚はしない。妻は誰にも渡さない」


私をぎゅっと抱き寄せて言った。


「…もう終わりにする。裏切った私をまだ妻と思ってくれるなら…」


私は流都さんを選ぶ。


この手を離したくないと思った。


だけど、本当は辛い。


責められるよりも、許される事の方が何倍も苦しい。


その苦しみは流都さんの妻でいる限り、ずっと続く。


…もう1つの大きな秘密と一緒に。


それが私に与えられた罰だ。


「…じゃあ、会っておいで」


流都さんの言葉に私は拍子抜けした。


「へっ!?何言って…」


「だから、ちゃんと会って、後悔しないように話しておいで。ちゃんとお互い納得しないと、後々面倒な事になる」


「あ…そういう事ね」


さすがは経験者。


あったんだね、そういう事も。


「明日、役場行ってから、会ってくる」


「…本当にいいのか?」


「今更そんな事言って…。私の決意を揺るがさないでよ…」


「…ごめん、じゃあ俺、寝るわ」


「おやすみなさい」


流都さんが寝室へ行った後、私は破かれた離婚届を拾い、ゴミ箱へ捨てた。


この離婚届と同じように、私も捨てられると思ってた。


流都さんの気持ちを、私は全然わかってなかったんだって思ったら、泣けてきた。


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