知っていたの…
「流都ー!これはこっちでいいのか?」
「それは2階へ持ってってくれ」
「了解ー」
「健也の持ってるやつはこっちへ」
「はいはい」
GW明けの5月8日。
流都さんの友人3人が手伝いに来てくれての引っ越し作業。
おかげで段ボール17箱を運び込むだけの予定が、唯花の机やベビーベッドまで運んでもらえて。
「もう住めるね」
「だな。さすがとしか言えない」
手伝いに来てくれた方は、引っ越し業・運送業をしているとか。
本業なので、当然といえば当然なんだけど、手際良く進めてくれて。
おかげで、この家での新生活は、予想より早く始められそう。
「梓、冷蔵庫は11日だっけ?」
「そうだよ」
「来週から住む?」
「いいね。明後日、手続きに行ってくるよ」
「じゃあ今日はマンションで過ごす最後の休みだな」
「そうだね。
じゃあ私は、子供達迎えに行って、マンションでご飯準備して待ってるね。
お友達の分も用意しておくから」
「わかった、頼むよ」
今日は3人共、私の実家に預かってもらってる。
だから気にせず作業を出来て助かった。
新しい家から実家のマンションまでは車で5分ちょっと。
少しだけ今までより近くなった。
実家へ行くと、3人揃って昼寝中だった。
もう夕方だというのに。
「お母さん、もう少しだけいい?
夕飯準備してから迎えに来るよ」
「よく寝てるし大丈夫だよ。
引っ越しの方はどうなの?」
「うん、おかげで来週から向こうで暮らす。
ところで、お父さんは?」
今日は父も休みで、預けた時はいたんだけど。
「ちょっと買い物に行ってもらってる」
「そうなの。じゃあ私、一旦マンションに帰るから」
「起きたら連絡しようか?」
「お願い!」
ぐっすり眠る3人を残し、私は自宅へ向かった。
朝まで積んであった大量の段ボール箱が無くなった部屋は少しだけ寂しかった。
―――その夜は深夜まで、流都さん達は盛り上がっていた。
私は子供達をお風呂に入れて寝かせたりとバタバタしていたから、どんな事を話していたのかは知らない。
だけど、流都さんは久しぶりによく笑っていた。
「奥さん、ご馳走様でした!」
「いえ。こちらこそ、ありがとうございました」
「じゃあな、流都」
「助かったよ。また遊びに来てくれよな」
3人を見送り、私は片付けを始めた。
流都さんも手伝ってくれて、散らかっていたテーブルがあっという間に片付いた。
「ありがとう流都さん、お疲れ様でした」
「一杯行きたい気分だ」
「まだダメです!」
「わかってるって。冗談だよ」
流都さんは胃潰瘍で倒れて以来、禁酒中。
「ごめんね」
でも流都さんに元気でいてほしいから。
「梓が謝る事はないよ。でも病気して、いい事あったな」
「ないよ、いい事なんて。物凄ーく怖かったんだから!」
「梓が俺だけの事を考えてくれた」
「何言ってるの…」
「なぁ梓、今幸せか?」
「私は…幸せに決まってるでしょ。
こんな優しい旦那様がいるのよ?」
「俺はそんなに優しくないよ」
「謙遜しない。そういう流都さんは今幸せ?」
「俺は…梓がいてくれるだけで幸せだよ」
そう言って、流都さんは少し悲しそうに笑った。
「さてと、シャワー浴びてくるか。先に寝ろよ」
「ううん、待ってる。いってらっしゃい」
私は笑顔でバスルームに向かう流都さんに手を振った。
見送った後、私は流都さんと再婚してからの2年半を振り返っていた。
涼子センセの死、翔真との不倫、そして璃衣花と愛衣花が生まれ、流都さんが胃潰瘍になって…。
そんな2年半を過ごしたこの部屋とも、もうすぐお別れなんだ…。
「どうかした?」
「へ!?あ…流都さん…お帰り」
「何か考え事してた?」
「うん。再婚してからの事考えてた」
「色々あったな」
「まだたったの2年半なのにね」
「梓のプロポーズが、まだ昨日の事みたいに思ってるよ」
「やだもう!忘れて」
「絶対忘れない(笑)」
「………」
私はおもいきり膨れっ面で、流都さんを睨んだ。
「怒るなって。本当に嬉しかったからさ、忘れられないんだ」
そう言って笑った流都さんに、胸がズキズキした。
こんなに一途に私を愛してくれてる人を、裏切り続けてる。
その時、私は罪悪感でいっぱいになって、堪えきれなくなった。
「…何泣いて……」
「流都さん…ごめんなさい…ごめんなさい!!」
「落ち着けって」
「ごめんなさい…っ」
流都さんはひたすら謝り続ける私を、ただ抱き締めてくれた。
―――「やっと落ち着いた」
「…ごめんなさい、取り乱して」
謝った後、私はキッチンへ水を飲みに行った。
流都さんは立ち上がって、「…もう寝ようか」と言った。
「…何も聞かないんだ」
そう呟いた私に、流都さんは「聞かない」と、泣きそうな顔で笑った。
それで私はやっと気が付いた。
流都さんは…。
「…お休みなさい、流都さん」
「お休み」
流都さんは寝室に入っていった。
私も後を追い、寝室に入った。
流都さんはいつから知っていたんだろう。
考えれば考える程、わからない。
だって流都さんは、何も変わってない。
だから絶対に気付いてないと思ってた。
…流都さんは今、何を思っているんだろう。
そのまま私は眠りについた。
―――どんな時も朝は来る。
重たい体を無理矢理起こして、いつも通りに、朝ご飯の準備を始める。
その時、流都さんが起きてきて、いつもの笑顔で「おはよう、手伝うよ」と言った。
「おはよう。すぐ出来るから、ゆっくりしてて」
「俺の特権奪うなよ」
そう言って、私の隣にやってきた。
「じゃあ…目玉焼きお願いします」
「了解」
「…流都さん」
「何?」
「今夜、話したい事があるの。子供達が寝たら …」
流都さんの顔を見て決心がついた。
また同じ事を繰り返さない為に、ちゃんと話をしなければ。
「…わかった」
何も言われない事が、何より責められてる気になる。
…ちゃんと謝ろう。
許されない事はわかってる。
でも私はなかった事には出来ないから。




