マイホーム
退院後私を待っていたのは、想像以上の慌ただしい毎日だった。
朝起きて、洗濯と朝ご飯の支度。
準備中に璃衣花と愛衣花が起きてきた時は、流都さんと唯花にミルクを飲ませてもらってる間にさっと終えて、バトンタッチ。
ミルクを飲んで、満足して機嫌のいい間に洗濯物を干して、片付けをする。
唯一の救いは、璃衣花も愛衣花も夜泣きをあまりしないで寝てくれてるので、私も休める。
それでもダブルでぐずって夜中まで寝てくれない日はあって、そんな時の朝は辛い。
でも、流都さんが夜のご飯を作ってくれたり、片付けをやってくれるから、私は楽をさせてもらってる。
唯花も、洗濯物畳んでくれたり、私を助けてくれる。
かなり私は恵まれてる。
これ以上ないほど幸せだ。
―――璃衣花と愛衣花が生後2ヶ月になったある日の事だった。
「ええっ!?家を建てるって!?」
「…驚いて当然だよなぁ。でも、いいタイミングかなって思ったんだ」
「じゃあ…その事を相談に行ってたの?」
「ああ。今はまだりいもまいも小さいけど、いずれこのマンションでは手狭になる。
実は梓から、双子を妊娠したって聞いてから、ずっと考えていたんだよ」
それは、お義父さんが持つ土地を、流都さんが相続し、そこに家を建てようという話だった。
突然で驚いたけど、流都さんがそこまで考えてくれていた事が嬉しかった。
「最近は家賃払ってるのと同じ位の額でローンが組めるらしいし、貯金もあるからいいかなって」
「そうだね…」
「山北って後輩が建築士だから、相談してみようと思うけど…梓はどう思う?」
いつもながら、流都さんって顔が広いっていうか…友達の幅広いっていうか…。
「流都さんの思い、よくわかったよ。私も庭付きの一戸建ては夢だから」
「じゃあ…」
「もちろん、賛成です!」
大きくなったら、自分の部屋が欲しくなる。
璃衣花と愛衣花はまだ赤ちゃんだけど、子供の成長はあっという間。
まだまだと思っていたけど、唯花だってもう3年生。
これはちょうどいい機会だ。
だけど、賛成と言いながら、私の心は複雑だった。
子供達と優しい旦那様がいる、この幸せな毎日に、いつか終わりが来ると知っているから。
自分の城が出来てしまったら、余計に辛い。
でも…流都さんの望みを壊せない。
叶えてあげたい。
そう思ったら反対なんか出来なかった。
―――1週間後。
流都さんがアポを取り、山北さんに会う事に。
双子の赤ちゃんがいると知って、山北さんは、マンションまで来てくれた。
「今日はわざわざ来てもらってすまない、山北」
「いえ。小さいお子さん抱えて、事務所まで来てもらうのは大変でしょう?それに大事なお客様ですから」
「ありがとう。紹介するよ、妻の梓だ」
「初めまして、梓です」
「こちらこそ、お世話になります。
山北壮平です。
流都さんには大学のサークルでお世話になったんですよ」
山北さんは丁寧に頭を下げた後、名刺を机に置いた。
「こっちが三女の愛衣花、梓が抱いてるのが、次女の璃衣花だよ。
唯花は今日は、友達の家に遊びに行ってるんだ」
「聞いていた通りで、可愛いなぁ〜」
「梓に似て、美人だろ?」
急に言われて、私は嬉し恥ずかしで真っ赤になった。
「やだ、流都さんってば!」
「ノロケごちそうさまですっ」
「もう!」
和やかな雰囲気になった所で、本題に入った。
―――「すまないな、結構無茶を言ってしまった」
2時間の打ち合わせを終え、山北さんは持ってきた資料を片付け始めた。
「いえ、それを叶えるのが、僕達建築士の仕事ですよ」
「やっぱりお前に相談して正解だったよ」
「ありがとうございます!
今日お伺いした希望を踏まえて、設計図を直してきます。
出来上がったら、ご連絡します!」
「山北さん、宜しくお願いします」
「はい!今日はこれで失礼します」
山北さんは深々と頭を下げて、事務所へと帰って行った。
「我が儘聞いてくれて、ありがとうな」
「ううん、そんな事ないよ。流都さんが言わなかったら、私が言ったもの」
流都さんが自分の為だけに、たった1つ言った事は、書斎を作る事だった。
1人で静かにのんびり休める場所、仕事に集中出来る空間を、私も作ってあげたいと思っていた。
だからその希望は大賛成。
こんな家にしたいという希望は全て伝えた。
後は設計図が出来上がるのを待つのみ。
「親父に少しだけ感謝しないとな」
「そうだね…あ!ね、流都さん。
ご両親に会いに行かない?
りいとまいに会わせてあげようよ」
流都さんの実家は、T市のはずれにある。
今住んでいるここは市の中心部なので、車で30分程で着く。
だけど、流都さんのお兄さん家族と敷地内同居している事もあり、特別な用がない限り、実家へ行かない。
なので、お義父さんお義母さんが璃衣花と愛衣花を見たのは、出産の翌日にお見舞いに来てくれた時だけ。
唯花にもおじいちゃんおばあちゃんに会わせてあげたい。
「明日行くか?りいとまいも、外出出来るようになったし」
「うん!そうと決まれば…」
私は璃衣花をベッドに寝かせて、早速電話した。
お義母さんは「楽しみに待ってるわ!」と喜んでいた。