再会
私、平坂梓はスーパーのパート社員として働くシングルマザー。
その日は、いつもは17時きっかりで上がる私が、
店長に頼まれた仕事の為に、18時過ぎまで残業していた。
「はぁ〜終わったぁ…」
書類の山を片付け終えて、大きく伸びをした所に店長がやってきた。
「お疲れ様、平坂さん。」
「あ、店長!お疲れ様でしたっ」
「急に頼んで悪かったね。お子さん大丈夫だった?」
「はい、今日は元々母とスイミングスクールに行く日なので問題ありません」
小学校1年生の娘、唯花は週2回スイミングスクールに私の母と通っている。
その日は母が学校まで迎えに行ってくれるので、私は私でのんびり出来る。
「そうか、今度お詫びにご馳走するよ」
「いえ、そんな…悪いです。仕事ですし。
では今日はこれで失礼します」
嫌な感じがする。
私は話を切り上げて一礼し帰ろうと店長に背を向け、ドアに手をのばした。
その時だった。
バンッとドアを押さえるように店長の腕がのびてきて、私は壁に押し付けられた。
「きゃっ」
「平坂さん…そろそろ僕の気持ち、知ってるんだろう?
応えてくれよ…」
密着している店長のハァハァと荒い息遣いが耳に入る。
それがとてつもなく気持ち悪かった。
「冗談…やめてくださ…んっ」
私の言葉を遮るように強引に後ろを向かせて、キスをした。
「やめてください!!」
ドンッと店長を突き飛ばして、私は逃げるように事務室を出た。
それからは自分史上最高の記録が出たって思うほど走って走って、店を離れた。
「…やっちゃったなぁ」
間違ってスイミングスクールと逆方向に走っちゃうなんて。
私何をやってるんだろう…。
そう思いながら、とぼとぼ歩き始めた。
店の近くは通りたくない。
遠回りしなきゃな…。
―――店長が私に気があるのはうすうす気付いてたし、
社内でも何度か噂されていた。
そのおかげで、古株のパートさんから、
意味の分からない意地悪をされたこともある。
だけど、私はもう恋愛をするつもりは無い。
離婚したときそう決めた。
男はいつも裏切る。
最初から期待などしてはいけないと。
もう裏切られるのもたくさんだ。
だから、知りながらも知らないふりをしてきた。
まさか、こんな形で表現されるなんて。
明日からどんな顔をして出勤したらいいんだろう…。
働かなくちゃ、やっていけないし…。
すぐには次の仕事も見つからないと思うし…。
はぁ…。
私は大きくため息をついて、その場にしゃがみこんだ。
その時だった。
「あの、大丈夫ですか?」
男の人が声をかけてきた。
「すいません、大丈夫で…嘘……」
謝りながら、立ち上がって私は驚いた。
ドクンっと心臓が跳ねる。
その男の人は…私が大好きだった人。
―――そして私の心を壊した人。
もう2度と会わないと思っていた。
なのにこんな形で再会するなんて…。