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13の理論  作者: 安藤真司
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キラー

13に家での注意事項を伝えて、俺は病院のベッドでの数夜に想いを馳せていた。

病状は秘密だ。

俺の威厳がなくなる危険性があるからな。

しかし入院いうものは初めて経験するが、やっぱつまらないものだな。

やることないし。

昼間寝たせいで夜全然寝れないし。

少しお金にモノを言わせて病室を他の人と分けたのがよくなかっただろうか。

でも個室のほうが気が楽だし。

絡まれるのも嫌だったし。

お医者さんにも最低限の挨拶以外あまり会いたくないし。

そもそも階段から盛大にずっこけたんですよー、とか嘘ついてるし。

ばればれみたいだけど。

などと考えていたら、いきなり病室のドアが開いた。

とっさに目をつむって、寝た振りをする。

あれ、なんか見回りかな。

今の具体的な時間はわからないが、少なくとも患者の就寝時刻は過ぎているはずで、ならばお見舞いということもなかろう。

であれば。

当然お医者さんか看護婦さんか、だと、思うんだけど。

目を薄く開いて、部屋に入ってきた人の姿を確認する。

すらっと背が高く、黒いコートを着た、男、だろうか。

つまり、とにかく、こいつ。

病院の人間じゃ、ない。


「おい誰だお前!?」


と、威嚇しようとするが、そもそもなんたら骨を折っている俺、今立てないんだったな。

寝ながら言っても迫力に欠ける。

がしかし黒いコートの男は、きちんと俺の声に反応したかのように。

右手を俺にむけて突き出してきた。

左手も俺にむけて突き出してきた。

両の手は突き出されると同時に人間の手の形状を失い、というか、なんだ。

元から腕が機械で出来ていたかのように。

小さな機械がお互いに組み合わせを変えながら。

全体として人間の手だったものが。

ただ巨大な金属のかたまりへと肥大していった。

何が起きているのか、はっきりとわからない。

結果だけみれば、人間の手ぽかった何かが実は機械で出来てました。

機械が金属音を出しながら部屋中を覆い尽くして、俺に鋭利な刃をあちらこちらから向けていました。

以上。

なんだこれ。


「13を上手く丸め込んだね。ゆっきー」

「でももう終わりだよ」

「君が死ねば」

「未来も過去も現在も」

「僕らに戻ってくる」

「さよならだよ」


どこか冷たい声色で、その男は短く語った。

まるで昨夜の13のようだ。

そうか、こいつが未来か。

13の敵。

でもなんで俺狙ってんだ。

しかもゆっきーてなんだ。

13を丸め込んだ、って、なんだ。

まるで13が元々はお前らの仲間みたいじゃないか。

なわけあるか。

まぁでも、なんでもいいか。

俺ここで死ぬみたいだし。

結局俺の未来なんてこんなもんだったか。

初めからたいしたことない人生だったんだろうな。

少しだけ残念だ。

はぁ、とため息をついて、なんとなーくぼんやりしてみる。

冷静なんじゃなくて、現実味がなさすぎるだけだ。


死ぬ実感がわいたところで、恐怖なんてあるわけない。

「……何か探しているのかい?」

「んー、打開策とか落ちてないかなーって」

「そうかい、最後に言っておきたいことは?」

「ねぇよばか」

「……」


その言葉を最後に、全方面から俺めがけて鋏やら鋸やら、多大な量の金属のかたまりが押し寄せてきた。

もちろん俺は動くこともできない。

これらの機械どういう仕組みになってるんだろうな、とか頭の中で考えながら。

最後の瞬間を迎えた。

はずだったのだが。

部屋中に響いた音は、ガシャァン、という、金属と金属のぶつかる音だった。

もちろん俺の体を突き抜けていればそんな音が鳴るはずもない。


俺はまだ寝たままである。

しかし今、

俺と機械共の間には一本の機械仕掛けの剣と、それを持つ人間が立っている。


…………。

まぁ一人でどうやってあの肥大した機械の、それも全方位からの攻撃を防御したのか全くわからないが。

とにかく俺は無傷でここにいる。


「死にそうなときは目を瞑れっての。死体が目を開けてたら気分悪いだろ?」

「こういうわけがわからない状況でそんな普通の反応、できるほど俺の精神は強くない」

「なわけあるかよこんな非現実を前に余裕かましてるような奴、普通どころか狂ってる」

「その非現実に何のためらいもなく関わってくるような、そんな奴のほうがよっぽど狂ってると思うけどね」

「感謝しろよその狂った精神のお兄さんのおかげで、お前は今生きてるんだからな」

「何言ってんだか助けに来るなら俺が関わる前に、潰してくれないと意味がないな」

「半年ぶりだな頭脳君」

「半年ぶりだよ手足君」


と、このくらいにしておこうか。

決着がつきそうだ。

喋りながらも未来人との戦闘に取り掛かっていたこの片手剣使いくんは、うねうねしていた機械をばっさばっさと切り捨てて、もうなんだか見ていられないくらい一方的にやっつけていた。

ここまでひどいとなんか相手を応援したくなるよね。

不思議。


「で、お前だれだ?」


その未来人に向けて我が友人が質問する。


「っ誰だ、とはこちらの台詞だ!お前は、お前なんて存在僕は知らないぞ!!」


え、今なんて?


「おいおいまじかよこれでも結構有名人なんだぜ俺、今日本の警察が必死に探してる政治家連続殺人事件の犯人、まぁシッポもつかめてないらしいが……ありゃ俺だ」


えぇっ、その事件知らない。


「そんなことはどうでもいい!僕らは!この男を殺さねば!未来を奪われる!なのにどうしてだ!この時間帯この時刻に柴山由紀人以外の人間がいるっ!?」


えぇっ、ゆっきーって呼んでくれない。


「俺はこいつの手足だよ、それ以外に意味はないどうぞよろしく、なっ」


そう言って片手剣を何もない空間に向けて勢いよく振るった。

すると、何もなかったはずの空間に見知らぬ人影が浮かび上がり、しっかりとこの剣を受け止めていた。


「おっと、あんたはこの下っ端よりもだいぶ強いな……何の準備もない今は戦いたくねぇな」

「ふん……我々の調査も完璧ではなかったのか……いや、未来の優位性を考えれば、何か問題が生じたのならばそれは13の仕業と思うしかあるまい……」


えーと、なんだ、もう帰りたい。


「お前ら何者だ?」

「未来人だ、そこにいるゆっきーを殺しに来た」


あ、やっぱりゆっきーて呼んでくれた。


「そうかい、俺はさっき言った通りこいつの手足だ、こいつが頭脳として道を作って俺がその上を歩く、そんな感じだな……あぁ最近巷で話題の『アメリカンジャックザリッパー』、へへっ良いネーミングだよなメディアも馬鹿にできねぇ……こりゃ俺だ」

「お前かよっ!!??」


はい、待ちに待ったツッコミ。

お待たせ。

つーかお前かよ。

巷で話題どころか恐怖のどん底だよ。

もう夕方以降女の人一人で外で歩かないレベルだぞ。

つーかお前なのかよ。

はぁ、とため息ひとつついて、俺は未来人に尋ねる。


「おい未来人」

「なんだゆっきー」

「ほんとにこいつのこと知らないのか?」

「知らんよ……こちらからも質問だ」

「なんだ未来人」

「13をどう思う」

「かわいい」

「…………」


あれ、なんか間違えたか俺。


「おしりは少しきゅっとしてて安産とはいかなそうだな」

「お化粧もすっげー丁度良いし」

「ぶっちゃけ一目惚れしました」

「実は我慢できなくって今朝少しだけいやほんの少しだけブラジャー越しに胸を」

「相変わらず変態な俺の頭脳さんよ、先方はとっくにいないぜ?」


いないのかよっ!?

なに言わせてんだよ!?

全く、とんだ無礼者だなあいつら!?


「いやぁ、さすがに最後のは俺でも引くぜ……」

「え、待ってよ本当に引かないでよ事実だけど」


事実だった。


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