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13の理論  作者: 安藤真司
3/21

パスト

「で、お前は俺に具体的にはどうしてほしいんだ?」


とりあえず日が沈んできたのでカフェにずっといるわけにもいかず。

その辺のホテルでも13用に借りるかと思っていたのだが、13は家に来るとのことで、つまりそれは大学の寮的な場所であり、さすがに無関係な人間を入れるのは無理なんじゃ、と思っていたのだが。

Chris(クリストファーの愛称、数少ないこちらでの俺の友達)に聞けば、

『Say “She is my lover! ” Everything will do!!』

(訳すと、『彼女は僕の恋人だ!』って言っとけば問題ないさ、くらいだろうか)とのことなので、俺は13を安心して寮的我が家に連れて行った。

そして予想通り建物の入口にて管理人に13のことを聞かれたのでこう答えた。


「She is my lover!」


なぜか管理人と13の両方にグーで殴られ、めちゃくちゃに罵られたのだが。

13がうまく説明してくれたので(気のせいか俺への弁明自体はなかったように思う)、無事家に13も泊まれることになった。

閑話休題。


「んー、まずその前に、お前、ってやめて欲しいかも。13って名前で呼んでよ」

「13って数字だけど、本名なのか?」


13は少し難しい顔をして、なぜかそのまま俯いてしまった。

何か聞かれたくない理由でもあるのだろうか。

俺の個人情報はべらべら喋っていたくせに。


「あんまり、言いたくないかな」


ようやく返ってきた答えはどこか俺を非難するような口ぶりだった。

何故なのかは皆目見当がつかないが。

少しだけ重くなった空気に耐えかねたか、13が出し抜けに明るくなった。


「っていうか由紀人私のこと年下だと思ってるみたいだけどタメよタメ。あんまり子供をあやすような口調で接しないでよ」

「ところで13、ひょっとして服はそれ以外に持ってないのバッ!いってぇな何で服の枚数で怒るんだよなんかしたか俺!?」

「まっ、my loverとか、絶対ないんだからぁっ!!!」


あ、ものすごく『なんか』してました俺。

反省。

そうかタメなのか。

頭の隅に叩き込んでおき、再び閑話休題。


「それにしても、なんだってまた俺のところにきたんだ?いや他の奴でもよかったのかな。まぁいいか誰でも。何が理由でわざわざ過去に来たんだ?」


真面目に質問してみたが、またしても13は暗い表情を浮かべ、しかし今度はすぐに俺のことをまっすぐに見て。

決意に満ちたような。

悲しみに満ちたような。

喜びに満ちたような。

俺には計り知れないほどに多様な感情が渦巻いた何かを隠しながら、ゆっくりと応えた。


「私はね、由紀人。未来に過去を奪われたの」

「――」


言葉が出なかった。

理解ができない。

理解が追いつかない。

理解が及ばない。

理解が、不可能。

何。

言ってんだ。

コイツ。


「だから、過去を、取り戻しに来たの」


カコヲトリモドシニキタ?

オレニソレヲテツダエトイウノカ?

コノオレニ?


「それで、本当は、由紀人、私は――」

「ふざっけんなよ!!」


俺は我も忘れて怒鳴った。

未来に過去を奪われたから取り戻しに来ただと?

なんだそりゃ。


「13!!」

「お前は俺のことをよく知ってるよな!!」

「ならわかるだろ!?」

「俺は!!」

「過去に未来を奪われてんだよ!!」

「取り戻したいさ!!」

「でも、そんなことできない!!」

「俺の一生をかけたって取り戻せない!!」

「もう俺の未来は返ってこない!!」

「どれだけここで頑張っても!!」

「俺の未来は!!」

「永遠に!!」

「なのに!!」

「なのにお前はっ!!」



「だったらやめちゃえよ人生」



ひどく心に突き刺さる声。

まるで機械音声かのように冷たい声。

その声の主、13が今までとは打って変わって、もはや別人のように、俺以上に怒りを露わにして、こちらを睨んでいる。

俺の怒りが一瞬にして引いてしまうほどに、それは怖いものだった。


「未来に希望持てないなら死ねば?」

「今に嫌気がさしてるなら死ねば?」

「過去にとらわれてるなら死ねば?」


淡々と語る13が怖い。

嫌だ。

もう、これ以上、俺の中に、踏み込んで、来るなよ。

自分の弱い部分と、向き合わせないでくれよ。

もう、俺自身を、傷つけないでくれ。


「未来を変える勇気がないなら死ねば?」

「今を変える勇気がないなら死ねば?」

「過去を変える勇気がないなら死ねば?」


13の顔を見ることすらできないまま、

俺は負け惜しみのように、


「未来なんて変わっても観測できないだろ。今だって、瞬間瞬間を生きてるんだから変わってもわからないさ。それに過去は変わらないだろ。こんな僕の過去でよければ、過去を失くした君にさ、いくらでも差し上げるよ」


と吐き捨てて、逃げた。

布団を頭からかぶり、目をつむり。

まるで一枚の布団が、自分と世界を切り離してくれると信じているかのように。

そうしてどれだけの時間が過ぎたか、眠気によって薄れゆく意識の中、13が小さく、


「ばか」


と呟いた、気がした。

気がしたが、俺は、何も返事をしなかった。

できなかった。


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