シオレティカル
「振られたーっ!!」
「またかよ……今月入ってもう三人目だぞ」
「だってだって、『思ったより重い』って、そんなのひどいよー!」
「そりゃ、あんなに好き好き言ってりゃあ……」
「五十キロも体重ないのによ!?」
「体重の話かよ!?しかも地味にサバ読むなっ!!」
「『琴音ちゃんがチョコ食べてるときの幸せそうな顔見てるとこっちまで幸せになれるよ』って言ってくれてたのに」
「で、毎日食いすぎるわけか」
「こくり」
「わかったなら彼氏がいない時はお菓子禁止な」
「もしもし日向君?あ、突然、ごめんね、えと、なんか、声、聞きたくなっちゃって。なんか、あなたのこと、すごく、気になっちゃって、それで、その、よかったら、私と、お付き合いしてもらえないかなぁ……なんてごめんね急に!!でも、どうしても抑えられなくて、今、伝えたくなっちゃった。好き、なんだ……え、本当!?付き合ってくれるの!?やったぁありがとう日向君、好き!!うん、うんうんわかったー、じゃあまた明日ねー」
「……」
「……チョコ」
「出すわけねぇだろアホかっ!?」
「むー、いいもん日向君に食べさしてもらうもん」
「最悪だな相変わらずっ!!」
あれから数ヶ月(でようやく退院することができた俺がいる)。
結局、鳳凰寺瞬が言っていた、静音の願いとやらがなんだったのかは不明なままで。
でもきっと瞬のことなので、今現在存在しているここは、静音の願いどおりの世界なのだろう。
とりあえず、結論から言ってしまえば、誰も、幸せにはならなかった、のだろう。
誰も選べなかったし、選ばれなかった。
もしかすると、静音の願いは、皆で不幸を分かち合うことだったのかもしれない。
まず俺は、琴音も静音も、どちらも選ぶことができなくなっていた。
そもそもどこまでが琴音の仕業で、どこまでが13の仕業だったのかも分からずじまいだ。
何も知らされることなく、そんな状態で今を生きていかなくてはならなかった。
琴音は、13に関する記憶、つまりあの一連の事件に関する記憶と、俺への想いを忘れてしまっていた。
これも13の作戦なのか、それとも静音の願いなのか、やはり俺は知らない。
これらの記憶が今後戻ることがあるのかないのか、とにかく琴音も俺のことを選んだり、選ばれたりする、ということができなくなっているわけだ。
まぁ、それで。
髪を伸ばし、誰に縛られることもなくなった琴音のモテっぷりは半端じゃなく、ついでに黒い部分が多分に残った琴音に普通の男の精神が耐えれるはずもなく、最長一週間という記録を残したままである。
もちろん一週間というのは、付き合っていられた最長記録と、別れてから次別の男と琴音が付き合うまでのフリー期間の最長記録だ。
どんだけとっかえひっかえ男を釣っているのかって話だが。
キスもまだしたことがないらしい、ということは余談。
それで、静音。
静音は、もういいだろう。
言うまでもない。
自分から、一番に選ばれることを辞退したのだ。
俺と、琴音と三人で生きれる未来を選択するために。
目の前で大好きな姉が死んでいる姿や、瞬に惨殺される姿を見てしまった静音が、そういう意味では普通に立ち直れるはずもない。
それでも、頑張って、気丈に振る舞っている。
――ちなみに静音と瞬はまだ付き合っている。
と、いうか。
「ただいま瞬くんっ」
「おかえり静音っ」
いちゃこらしていた。
全然うまくやっていた。
いら。
「おい瞬てめぇ毎度毎度どっから湧き出てんだよ心臓に悪いだろ」
「ちょっと柴山君、瞬くんのこと悪く言わないでよ」
「いいよ静音、そう怒んなくてもさ」
「だって、瞬くんのこと悪く言われたから」
「ありがとう。でもあんくらい怒るようなことでもないだろ?」
「うん、ごめん」
「いいって、ほら笑ってくれよ。俺が静音のそういう顔苦手なの知ってるだろ?」
「うー……瞬くんのいじわる」
「好きだよ、静音」
「……わ、わたしも、その、ごにょごにょ」
「聞こえないなー」
「もーっ!!私だって瞬くんのことすきなのわかっててそんなのずるいっ!!」
「あはは、やっぱかわいいなぁ静音は」
「ん……私も、好き」
「うん、静音、目、瞑って?」
「ん……」
そう言って人前で堂々とキスをするバカップルの一人が自分の好きだった人なら皆さんどう思います?
あーもうわかってるわかってますよ振られたくせに未練たらたらですみませんねぇ本当に。
くそっ、警察も早くこの元殺人鬼を捕まえてくれないかしら。
俺が本気で探せば証拠の一つくらい……無理か。
「……どうやったら静音たちみたいに長続きできるのかしら」
「言葉が出ねぇよ」
「皆付き合うとすぐにキスしようとかエッチなことしようとかそんなんばっかり」
「お前が誘うような態度とってるからだろ」
「そんなことないわよ。だって好きな人にボディタッチするのは当然でしょ?」
「好きな人にキスしたいと思うのも同じじゃないのか?」
「キスは全然違うわ。まぁエッチなことをするのはまたちょっと次元が違うとして、キスってやっぱり、こう、好き、じゃなくて、そう、愛、なの」
「愛ねぇ……」
「瞬くんだって静音とキスするのはクリスマスまで待ってたし。出会って数日やそこらでキスする男なんか静音に認めてもらえるわけがないって」
「どこまで本気なんだか」
「エッチなこともこないだの静音の誕生日に初めて、って言っていたし」
「ちょっと待てぇっ!?」
うん?
え?
嘘だろ?
はは、琴音は冗談が上手いなぁ全く。
「かわいかったわよ静音。顔真っ赤になってて」
「なんか色々ちょっと待てぇっ!?」
「え、なに?」
「いやもう色々あるが!!あるけども!!とりあえず好きだった人が自分の知り合いとそういう関係になったという事実に対する正しい反応はなんだっ!?」
「泣けば?」
涙を零す俺。
「そしてお前はなぜその最中の静音の表情とか知ってんだよ」
「監視カメラ付けたので」
自宅なのかホテルに忍び込んで設置したのか、どちらにせよ狂気を感じる。
しかもあの瞬のことだ、監視カメラの存在くらいすぐに気付いて、なお撮らせたはずだ。
いや、むしろ……!!
「その映像コピーして瞬に渡しただろ!?」
「うん」
「やっぱり!!」
「欲しい?」
「いるぅっねぇよ!!」
「どっちよ」
「いるっ!!」
「いるんだ……まぁあげないけどさ……」
「頼む、いくらだ」
「えぇー……じゃ、七万」
「……円?」
「ドル」
「やっぱり!!」
こうして、結局俺たちは何かを犠牲にして、ここにいる。
皆が皆、何かを犠牲にして、そのぶん何かを得て、生きている。
きっと、だけど。
たぶん、だけど。
13はそれを、伝えにきてくれたのかもしれない。
「ありがとう、13」
「へ?13?ドルの話?」
「いいや。俺の、好きだった女の子の話」
琴音は不思議そうに俺を見ている。
伝える気がないので俺はそれ以上何かを言おうとはしなかった。
けれど。
そのとき。
「……バカ」
と、声が、聞こえた気がした。
「……え?」
「ん?どうかした?」
「い、いや、なんでもない」
「んー?まぁいいや、それで、13って、外国の子?アメリカにいた頃の彼女さんとか?」
「ま、今度な、話してやるって」
「えー、今聞きたいよー……」
とりあえず、今回の事件で俺が得た最大の教訓は。
二股は身を滅ぼす、ということらしい。
当たり前だ。
いや、俺は二股なんかしてないけどな。
あー彼女欲しい。
少女は言った。
「みんなが、今を生きれるようにしたい」
それは、願い。
誰かの、願い。
当たり前な、願い。
奇跡に近い、願い。
誰もが願い、
誰もが誓う、
青春は、今。




