アイウィッシュ
「ごめんね静音。つらい思いさせちゃって」
『起動条件は、あなたの強い想い』
「お姉ちゃん、なの?」
「私は、そうだね、琴音だし、琴音じゃない、かな」
『過去及び未来を現在とリンク、同調』
「お前、13、か?それとも、藤崎琴音、か?」
「両方」
『完了。13を、放出』
まるで時間が戻っていくかのように、荒れた部屋は元の藤崎家へと修復されていく。
そして13の死体だったモノ、と、突如そのすぐ隣に現れた藤崎琴音とが、混じりあって一つになった。
まるでそこには初めから一人しかいなかったかの、ように。
「一応、久しぶりだね、由紀人。それに初めましてだね、静音」
「13……さん?お、お姉ちゃん、は、どこ?」
「大丈夫、琴音はちゃんとここにいる、ううん、私はちゃんとお姉ちゃんだよ」
そう言って自身の胸に手を当てる13。
何が起きてんだよこれ。
藤崎琴音は、どこだ?
どこにいる?
「静音、本当にごめんね。でも大丈夫、安心して?さっきのひどい光景なんてすぐに忘れられるから……ね?」
13はこちらに歩み寄り、静音の頭を優しく撫でた。
俺は反応できずに静音の体を支えたまま動くことができなかったが、ひとまず幸いなことに、ようやく静音も心が安定してきたのか、焦点が定まってきた。
俺の支えを離れて13に思い切り抱きつき、頭を埋める。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん……」
「よしよし。ほら由紀人、ぼけっとしてないで静音の制服を拭くのと着替えの用意をして」
「断る」
「はぁ、何言ってるの大丈夫?この状況で静音見てどこに断る要素があるの?」
「お前の目的は何だよ、琴音を返せ」
「だから琴音は私だって。それに私の目的、なんてどうでもいいでしょ。大したことじゃないし、今私がこうして動いているのは決められたとおり動いているだけだよ。由紀人と同じにね」
「意味わかんねぇよ琴音はどこだよ13っ!?」
声を荒げる俺を、13に抱きついたまま顔だけこちらを向いてきた静音が諌めてくる。
「私もだけど、ゆきとくんも落ち着いて?……13さん、えと、どういう、ことなんですか?」
「いつも通り話していいよ、静音」
「あ、うん、わかった」
「それで、そうね。どこから話そうかしらね。あ、由紀人、静音を支えてくれる?まだ震え、収まってないし」
「あ、あぁ」
13から静音の体を優しく渡される。
小さく弱々しい体を俺はまたしっかりと受け取る。
13は家の中に戻る。
「あのね、私は、13は、主役じゃないの。由紀人の感覚からすればむしろ主犯って感じかしら?どっちでもいいけど、とにかく主役はこっち、藤崎琴音。私たち三人、琴音と、静音と、由紀人の三人が琴音の願いどおりの関係になるようにって生まれたのが私。だから私は、琴音の願いのかたまりってことになるのかな」
「……お姉ちゃんの、願い?」
13、なのか、琴音なのか、両方と言っていたその人が、俺を見つめる。
どこまでも、真っ直ぐに。
「由紀人は覚えているはずだよ。あの詞を一言一句、忘れるわけがないもん。ほら、記憶を呼び起こして?」
そんなことを、そんな風に言うから。
俺は思考する。
深く深く。
思い出せ。
どこだ、どこにいる。
どこに藤崎琴音がいた。
出会った時、琴音は言っていた。
迷ったときは、お互いに、思いださせてやるんだ。
それが、友達としての俺の役目のはずだから。
今まさに琴音は迷っているのかもしれない。
なら、俺が道しるべになって、琴音を助けないと。
『私の名前は藤崎琴音!!』『君と友達になりたいんだけど』『あなたはここにいる』『私は、あなたの事が好き』『過去も未来も、あなたのいる今の為に変えてやる』
――俺の、いる、今の、為に?
『柴山君にとっても』『静音にとっても』
『一番でいれたら』
「――っ」
こんな所に、いたのか。
こんな風に、想いを吐露してたのか。
なんで、なんで俺は言われた瞬間に気付いてやれなかったんだよ。
そうだ。
藤崎琴音が。
完璧超人だとでも思っていたのか俺は。
そんなわけないだろうが。
琴音は琴音で、ただの一大学生の、女性でしかない。
俺は馬鹿だ。
大馬鹿だ。
でも、お前はもっと馬鹿だよ、琴音。
こんなことのためにさ、過去も奪って、未来も変えて、今を捨てて。
そうまでして、変えたかったのかよ。
「そうまでして、変えなきゃいけなかったのかよ……琴音ぇっ!!!」
俺は、13を睨む。
13の内に潜む、琴音を睨む。
「ゆきと、くん、どうしたの?」
静音が弱々しくも俺を気遣う。
もうどうしようもないくらいに、琴音の思い通りになっているのかもしれない。
そんな恐怖を感じながらも、俺は、言わなければならない。
琴音が傷つけたくなかった人が、一番傷ついているという現実を、言葉にしなければならない。
『それが私の願いだから』
「柴山由紀人にとっても、藤崎静音にとっても――」
悲しそうに、今にも泣き出しそうなほど切ない表情でなおも笑う13に、琴音に、俺は突きつける。
「一番でなくなることが――」
「そう、私の願いだよ、柴山君」




