ハッピーバースデー 一直
「2月13日 7時のニュースです」
昨晩、日付が変わるのと同時に「お誕生日おめでとう」を言ってくれたから、今朝はいつもと同じ。
恭は鼻歌まじりで朝食を作っている。
いつもと同じように朝ご飯を食べ、いつもと同じように玄関を出るときにKISSをして。
「う、ん、一直さん、…もう、遅れる」
「誕生日だから、と・く・べ・つ」
「誕生日じゃなくても同じじゃない、はい、もうおしまい! 」
いつものように出社した。
珍しく外に出ている恭は、直帰なんだよね。しかも少し遅くなるかもしれないって、昼前に連絡があった。
さて、どうしようかな。
1人寂しく外で食事? していたら、きっと甚大の言うように、「誕生日に1人寂しく食事なんかしててごらん。不倫狙いの女どもがたかってくるわよお~」かな? この案はダメか。
残業? していたら、また甚大が言うように、「誕生日に残業? しかも恭はおらず。きっと不倫狙いの女どもが、差し入れの嵐して強制的にお持ち帰りされるわよお~」 かな? これもダメ。
じゃあ、やっぱり仕事で疲れた奥さんのために、夕飯を作るとするか。
方針が決まれば、もう迷うことなく仕事に集中していった。
「今日は恭、直帰でしょ? しかも遅くなるかもって言ってたわね。アンタどうすんの? 不倫狙いのオンナたちの餌食かしら~、きゃーこわい」
「うるさいな、甚大。今日は定時で帰って夕飯作って待ってるよ」
「あらあー、素敵。これぞダンナの鏡ねえ。アタシの彼にはとうていかなわないけど」
「はいはい」
そろそろ就業時間が近づいてきてあれこれ言う甚大と、こちらもいつものような、たわいのないやり取りをしていると、タイミング良く恭から連絡が入った。
〔なんだかすごーく早く終わっちゃったの! ラッキー。
だから、先に帰って美味しい御飯作って待ってるね! 何が食べたい? 〕
俺は少し微笑みながら返信する。
〔何でもいいよ〕
すると、プウッとふくれた顔が見えるような返事が来た。
〔もう! いっつもそうなんだから一直さんは。
いいわよ、私の好きなものばっかり作っちゃうから! 〕
最後にプリプリマークがついている。俺は本格的に可笑しくなりながら、了解の返事を返しておいた。
好きなものはいくつか伝えてあるし、何でもいいと言うのが一番やっかいだって知ってるけどね。
俺は本当に何でも良いんだよね。大事なのは、恭と一緒に食べること。
急に機嫌が良くなった俺の携帯を、後ろからのぞき込んでいた甚大が言う。
「あら、まあ」
「そういうこと。今日は定時で帰らせてもらうよ」
「はいはい、お幸せに」
帰りに恭の好きなスイーツでも買おうかな、と思ったあと、ふと、今日が自分の誕生日だと気がついた。さすがにケーキ、買ってあるよね?
ちょっと苦笑いしてエントランスからエレベーターに乗り、いつもと同じように玄関の扉を開けた。
すると。
「お帰りなさいませ、旦那様」
玄関で三つ指をついて、深々と頭を下げている恭がいた。
そして、顔を上げてニッコリ笑い、
「お誕生日おめでとうございます」
と、少しはにかんだように言った。
「ふふ、びっくりした? 良かったー、先に帰れて。1回これ、やってみたかったのよね~、! って、え?! なに? 一直さん、どうしたの? 」
俺は鞄を床に落とすと、迷うことなく恭をお姫様だっこした。
「恭がスイッチ入れたんだからね」
「え? え? 」
そのまま寝室に行こうとする俺を、足をジタバタさせながら恭が言う。
「え? だめよお。夕飯、すっごく頑張ったのよお」
「火をつけたのは、恭の方」
「ええーーーーーーー?! 」
頑張って作ってくれた夕飯は? 大丈夫、ちゃんと次の日の朝食になったから。
ハッピーバースデー 一直さん。末永く恭ちゃんとお幸せに。