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2話

 「あれ見て見て!」

 「あいつらか!」

 「そうそう!男の方は【勇者】のクラスをもっらたそうよ!そして隣の小さな子が……」

 「一気に聖騎士(パラディン)になったやつか!」

 「おおお―――」



 街を歩くと周辺から俺たちの話か聞こえた。多分冒険者会館の事だろ。

 この世界には回答の鏡という便利な物があって、それを使うと利用者に相応しいクラスを選定してくれる。ちなみに俺はこの世界でも勇者になった。元の世界に勇者をやったので特に何の気もないんだが……

 先日から隣の奴が相当に気分が悪かった。


 「どうして…、私が…、この身が…」


 ああ、また始まった。


 「世界を怯えた悪の頂点であるこの魔王が!なぜ神の手先に―――――!」


 うん。一応、魔王だったな… こいつ


 「落ち着け。今日は冒険者会館でクエスト受ける予定なんだから。騒がすなよ」

 「うぐぐぐぐぐぐぐぐ――――」


 リシアの文句を聞きながら俺たちは冒険者会館に入ってクエストを受けるため窓口に行った。


 「こんにちは。シンさん、リシアちゃん」

 「今日もよろしくお願いします。クロアさん」


 金色の短髪の店員さん。彼女の名前はクロアさんだ。先日から俺たちを正式に担当する事になった。相変わらず良い笑顔だ。


 「はい。私も冒険者の方を担当するのはこれが初めです。お互い頑張りましょう」


 ああ、癒される。


 冒険者会館では職員たちが一部の冒険者を担当する事が出来る。むろん、会館の職員さんたちに頼らず一人で活躍する冒険者たちもいるが、俺たちはこの世界については何も知らないので冒険者会館に管理を要請した。冒険者会館も初心者のものが突然に勇者や聖騎士(パラディン)になった事を珍しい現象だと見たのでクロアさんを俺たちの専属にしてくれた。


 「今回シンさんとリシアちゃんがするクエストは城外の初心者狩場に存在するスライムの退治です」

 「スライムですか?」

 「はい。最近スライムの数が増加し、近辺の村の農作物に被害が出ています。スライム自体は強くないですがほうっておくと被害がどんどん増えますので…」

 「ふん。スライムなどこの私が全滅してやる」


 いつの間にか元に戻ったリシアが腕組みをしながら自慢した。


 「はい、期待していますよ。リシアちゃん」

 「だから!ちゃんって呼ぶな!聞いて驚くな!私は―――」

 「聖騎士さんでしょう?」

 「くううううううううううっ!」


 こいつ。自分が聖騎士になった事がそんなにトラウマだったのか。


 「あ、そうだ。実は会館からシンさんとリシアちゃんに送る装備が来ました」

 「装備ですか?」

 「はい。冒険者会館は冒険者さんたちをサポートする機関ですので…、それに」

 「はい?」

 「リシアちゃんの格好を見ると…、なんて言えばいいのか…」

 「うん?なぜ二人そろって私の体を見るんだ?」


 なんか…、すみません。




 冒険者会館からの装備を着た俺たちはスライムを狩するために街を歩いていた。


 「なあ、シン」

 「うん?」

 「先から変な奴に見られてる感じがするんだが」

 「そうか?」

 「まあいいか」


 そういえば最近リシアは、教会側から騎士団の入団勧誘を受けている。ああ見えてもリシアは知力や魔法方面のステータスが高く測定されてる。まさに不足ない聖騎士だが、


 「ふん。教会だと?馬鹿か。入るわけがないだろ」


 と、拒否した。


 確かに前魔王が教会に入るなんて無理だ。

 いや、もしも入ったとしても後でこいつだ異世界の魔王だってことがばれたら面倒な事になってしまう。それだけは勘弁したい。

 

 その時。



 「助けてください―――!」


 人の悲鳴が聞こえた。

 俺とリシアがそこで見たのは倒れて意識がない男の子とその子供を抱いている少女だった。

 倒れた子の体を見たものの外傷は見い。


 「お願いします!弟を助けてください!誰か!」


 俺とリシアは見てるだけしか出来ない。元の世界で勇者と魔王だったとはいえ、今この世界では普通の人間になってしまったのが原因だ。


 「くそ」


 俺が頭を下げて嘆きをしてる中、リシアが声を掛けた。


 「あんずるな。あれを見ろ」


 司祭の服を着た者達が少女の隣に来た。

 そうか。司祭の姿を見るにはあの者たちは回復魔法も可能なはずだ。


 司祭たちの中で一人が少女に手を伸ばした。


 「シン。魔王の私が言う事もなんだが、ここは彼らに――」


 途中で声が聞こえた。


 「金を払えば君の弟を助けてやる」

 

 は?

 俺とリシアの表情が歪になった。



「少女よ。君の弟はいま悪魔に襲われてる。残念だが間もなく死ぬ。だが安心するが良い。神の御加護があれば必ず生きられる。さあ、君の信仰心を見せてくれ」


 狂った。あいつは司祭なんかじゃない。屑だ。


 「あいつら――――」


 すぐにでも飛び込んで奴らを飛ばそうとした俺をリシアが阻止した。


 「待て」

 「おい!今は」

 「待てと言った。二度言わせるな」

 「リシア?」


 リシアは


 「シン。私が何故教会の勧誘を無視したのか…分かるのか?」

 「それは――――」


 リシアは俺の返事を全部聞かずに少女のところに行った。

 その後ろの姿はまるで…



=====================================




 この世界は不合理だ。だが俺ははその不合理が好きだ。

 プリーストでありながら教会の司祭であるこの私は中途半端な奴とは全然違う世界の存在だ。

 俺がどんな事をしても、どんな行為をしても全てが許される。


 神の名の下に?違う――!!この俺が許すんだ!!


 今、目の前に倒れた人間を助ける事も神じゃなく!俺が決めるんだ!司祭としての責任感?そんなのどうでも良い!ただこいつらは俺を眺め、尊敬し、つきづき金を払えばいい。なにせよ、こいつらの命は金稼ぎための道具だから。


 だから俺はいつも司祭の姿でいなければならない。

 そう。何も知らない馬鹿な奴らを騙すために



 「おい」


 急にある少女が俺に声を掛けた。

 何だ?この娘。


 「まもなく死ぬ命を弄ぶ気分がどうなんだ?」


 気分?

 最高に決まってるだろ!

 自分より弱い奴らを弄ぶ快感!

 奴らの苦しい表情を見ると体が痺れる! それこそ天国だ!楽園だ!


 「貴様の表情。人間がするものではないな」


 は?


 「勇者よ。この虫はお前が守る範疇には入らない」


 だれに向かって話すんだ、この娘は。


 「つまりお前はもう人間ではない。と私が宣言しただけだ」



 急に空間がひねくれ、まもなく周囲が闇に囲まれた。

 そこに存在するのは俺と娘だけ。


 空間支配?いや、違う。これは空間支配よりもっと高等な、

 ならば目の前のこの娘は一体何者だ!



 「な―――――――」

 「口を開けるな下種」


 急に襲ってくる恐怖感。

 この娘はなんだ!何なんだ!


 「まもなく死ぬ命を弄ぶ快感か?」


 ひいいいいいいいっ―!!!


 「それは私も同感だ」


 殺される!殺される!殺される!殺される!殺される!殺される!殺される!殺される!殺される!殺される!殺される!殺される!殺される!殺される!殺される!


 恐怖が俺の体をどんどん支配した。


 死にたくない!そうだ!幻想だ!なにかの間違いだ!この娘は多分何らかの魔法を使って俺に幻想を見せているに違いない!そうだ!


 そう!俺は殺されない!そうだ。そうなんだ! 


 「いや、殺すわけないだろ」


 え?


 「だってお前は」




 「最初からなかったから―――――――――」


 消えていく。

 体が、感覚が消えていく。

 記憶もなにも全部が消えていく。自分の名前、年齢や全てが


 お、お前は……

 「私か?」


 少女は笑う顔で


「聖騎士だ」





=====================================




 何もない真黒の空間で一人の少女がいた。


 「私を待たせるつもりか?道化」


 少女しかない場所にもう一つの声が聞こえた。


 「いやいや、これは失礼。まさかこんな所であなた様みたいな高貴な存在がいらっしゃるとは今日は不幸と言えば不幸。幸運と言えば幸運でしょうね」


 リシアは気づいた。自分が今話をしている奴の本体はここにいないだと。多分本体は今、安全なところに居るはず。


 「それにしても貴女は実にすばらしい。一瞬だったんですが、貴女から神と同級の力を感じました。ぜひ貴女のことを知りたのはやまやまですが、今日は時間がないのでまたの機会にしましょう」


 そして声は消えた。


 「…面倒臭い」






=====================================




 俺はすぐ異変を気づいた。

 意識がなかった男の子が急に正気に戻した。そして

 司祭の一人の存在が消えた。でも周囲の人たちはそれを気づかない。こんな事ができるのは


 「シン、行こう」


 いつの間にかリシアが俺の隣にいた。


 「やっちまったのか」

 「不満か?」

 「いや」


 俺は簡単に言った。

 信じていたのだ。こいつは魔王でも、悪の支配者でも、決して

 命を軽く見ない。だと


 「お腹すいた」

 「スライムが先だろ。行こう」

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