1話
青い。
本当に雲ひとつもない、まぶしい天気だ。
こんな日には家出ゆっくりと昼寝をするのが一番――――
「じゃないいいいいいいいい!!お前これからどう―――」
ポイン。
「うん?何だこれ」
手の感触を感じながら自分の隣で寝ている対象を見た。
柔らかな感触。そこには布一枚もない少女が寝ていた。背は小さくて力を入れると簡単に壊れるそうな細い体。そんな小さい体に比べて胸は多少ある。あんまり大きいのではないが、小さくでもないそんな胸。少女の長い黒い髪が裸の重要場所を隠していて、その姿はある意味興奮される。
「いや…、誰だ?」
魔力は感じない。ただの少女か?まずは状況を把握するのが先だ。
一応勇者だ。この光景を誰かに見られると人生の黒星が出来てしまう。っていうかここは一体何所なんだ。
「おい。馬鹿」
「うん?」
「いつまで俺の乳房を触れてるつもりだ」
隣を見ると。少女は眩しい黒い眼で俺を見ていた。ふむ、じっと見るとかなりの美人だ。そして俺は今その美人少女の胸を触っている中だった。
「はあ、まさかお前がこんな変態だったとは」
「え?俺を知ってるのか?」
「何を言う。まさか、今さらこの身を覚えないとは言わんな」
「あの…、誰ですか?」
…………
…………。
空気が止まった。いや、時間が止まったようだった。
だれかこの雰囲気をどうかして欲しい。
「はあ?馬鹿なのか!?今までこの身をさんざん傷つけながら今更何を言うんだ!」
「いえいえいえ!俺ってそんな変体ではないし!本当に知らないんだよ!」
「うん?」
俺の反応に違和感を感じた少女は自分の顔を触った。
「あ、悪い。この姿を見せたのは初めてだったのか。俺、いや、私は魔王だ。魔王リシア・ルディンハイム」
「ええええええええええええっ!!」
いや、いやいやいや!あの魔王が! いつも馬鹿な事で騒がしたあの馬鹿王が!目に前のロリだと―――――!!
「おい、お前今、何気なく酷い事考えたな」
「いや、おかしいだろ!今までは男の姿をした奴が急に『女です。よろしくお願いします』っと言ってる状況でじっと居られるかよ!」
「そう言っても私はお前が知っている魔王だ。まあ、元の世界では事情があって男の姿でいたが、今は魔力が急に減って本来の姿に戻っただけだ。あんまり驚くな」
いや、性格さえ変わったような気がするけど…。
「そんなのどうでも良いから。お前の上着一つくらい出せ。さすがにこの状況で街中を歩くのは無理だろ。いや、お前が欲しいならこのままでも構わないが」
俺は自分が着ていた上着を一つ抜いて魔王、リシアに渡した。
こいつがあの馬鹿魔王だとは…、信じられない話なんだが目の前の状況がそれを証明した。
「あ、そうだ。勇者よ、いや、異世界まで来て勇者、勇者するのも何だな…、」
「シンで良い。シン・アクマン。俺の名前だ」
「ほう、ようやくお前の名前を知った。うむ、良いだろ。お前には私の名前を呼ぶ権利を与えよ。喜べ」
服を着たリシアはシンに透明色の小さな玉を渡した。
「これは?」
「聖剣」
「はい?」
うん。落ち着け。落ち着くんだ。勇者たる者、どんな状況でも冷静さを忘れてはならない。
深呼吸をしている俺にリシアはもう一つの玉を見せた。
今度は先の玉とは違って黒い玉だった。
「これは?」
「魔剣」
「……」
「……」
リシアの顔を見ると彼女は俺の視線を回避した。いや、回避するな。否定するな。
「あの、魔王さん」
「?」
「これ、本当に聖剣と魔剣?」
ごくごく。
「……」
「あはははは…」
「ははは…」
「はは……」
「馬鹿かてめえは――――――――!!」
「お、落ち着け!勇者たる者、どんな状況でも冷静……」
「その限度があるんだくそ魔王が!!」
「私も魔力が減るとか、魔剣が玉になるとかそんなのぜんぜんしらなかったんだ!!」
。。。。。。。。
。。。。。。。。。。
====================================
何時間がたったのか分からないが、俺はようやく自分の立場を理解した。
魔王、リシアと話し合ったものを総合してみると
1.俺の聖力やリシア(魔王)の魔力が急激に減った。
2.聖剣と魔権がある意味、ゴミになった。
3.この世界をなに一つも分からない。
4.なにより現在、持ってる所持金がない。
……。
「「最悪だ」」
ここに自分たちの現実に絶望した勇者と魔王がいた。
俺とリシアは駄目息をした。
元の世界で勇者になる前は色んな事を経験したが、今の状況はハードルが高い。元の世界に返る事はともかく、これからどうやって生きること自体が問題になった。だったら
「行くとするか」
「それって?」
「まずは人が多く集まってる所を探すのか一番の目的だ。こんな世界に来た以上、情報を知ることが一番急先務だから」
「さすがは元勇者」
なんだか、元勇者の単語が気になるが今は無視する。
「この道を見るには街道がちゃんと整備されている。多分、この道を歩くと町が見つけるはずだ」
そうやって歩くと、坂の向こうに町が見えてきた。いや、町というより城が見えた。城を発見した俺たちは入り口で軽い検問を受けて入る事が出来た。途中でリシアを見てる警備員の頬が赤くなったが、関係せず入った。
「ったく、ここの警備員たちは一体何だ。あんな軽い検問は初めてだ。あれじゃ狼に羊の番をさせる方がましだ」
いや、その点に関してはお前のその格好にも問題があると見えるが…、
「うん?なんか話す事でもあるのか?」
「いや、何も…」
これ以上考えたら負ける気がした。
「な、リシア」
「うん?」
「なんで異世界に来たかったんだ?」
「暇だから」
……。
あ、そう。
俺は街の人たちに色んな事を尋ねた。どんなものでも良い。まずは情報だ。
時々周りの人たちが俺に送る視線が痛かったが我慢した。
うん。金が入ったらまずこいつの服を買おう。
見つけた場所は冒険者会館。
この世界はクラスという概念が存在するらしい。剣を使う剣士とか、魔法を使う魔法使いとかがある。その規模は俺が元にいた世界よりも厖大だった。
「シン。街中を歩きながら気づいたが、この世界は人間以外の種族もあるらしいな」
「ああ、って言うか全部始めて見た。本で呼んだ事があるが実際見るのは…」
耳が長い種族。尻尾がある種族など色んな種族が見えた。無論、その中には普通の人間もいた。
「では私はどんな種族に入るのかしら」
「人間だろ」
「ほう、私は魔王なんだが」
「今はどう見てもただの半身全裸の人間だ」
「くううう」
俺は冒険者会館の正門を開けた。
中には色んな人たちがテーブルで会話したり、会館の店員たちにクエスト受けていた。ぼっとしてる俺たちに女性の店員さんが来た。
「冒険者さんですか?なにか御用でも?」
良い笑顔の店員だった。金色の短髪がとても似合う。
「あ、俺たちは遠い場所から来た者で、冒険者になりたくて来ました」
よし。俺が考えてもナイスな反応だ。
「そうですか。ではよく来ました。ここは冒険者会館で、いろんな冒険者たちを育成する機関です。そしてご自身に相応しいクエストを受ける事も可能です」
「いや、まだちゃんとしたクラスもないので」
俺は即答した。
クエストと言ってもクラスもない冒険者が出来る依頼なんて本当に少ない。あるとしてもその補修は他のクエストよりも少ない。
「それならご安心してください。最近の冒険者会館ではご自身に合うクラスを探してくれますから」
「クラスを?」
「はい。自分に眠ってる能力を覚醒し、一瞬でその能力を上げることです。そうですね、たとえば検査で出たステータスを基本として利用者に向いてるクラスをシステムが教えることです」
ほう。それは便利だ。
「では、その検査をしたいですが…、手数料は…」
「ただですので安心してください。では、行きましょうか」
優しい店員さんの案内を受けながらリシアと俺は会館内を歩いた。
案内された場所には多くの人たちが居て、皆が検査を受けている。
「ここは冒険を始めてする方々だけじゃなく、色んな人たちが来ます。自分がどれだけ強くなったかを確認する人もいますから」
なるほど。だから余計に高い装備をしてる奴も居るのか。
「では始める前にこの紙に名前とかを記入してください」
どれどれ、名前と年齢……まあ、簡単な項目だけか
俺は記入書に自分の名前や年齢を書き始めた。俺の隣ではリシアが自分の名前と――――――――――――うん?
リシアの紙には
======================================================
名前: 魔王
年齢: 700歳以上
======================================================
俺はリシアの紙を奪った後,容赦なく破った。
「ああ!何するんだ。シン!馬鹿!阿呆!」
隣で俺を罵倒するリシアを無視して俺は店員さんに笑顔で話した。
「すみません。紙が急に居なくなったので、もう一枚貰いたいんですが」
「は、はい」
優しい店員さんから紙をもう一枚貰った。
「良いから、魔王とか実際年齢とか記入するな!」
「は?魔王たる私が魔王を名乗る事にだれが異議をする!まさか、お前は私の名前を他の奴らが勝手に呼ぶ事を許せと言う気か?」
「はい、この馬鹿の分も含めて全部書きました。よろしくお願いします」
「ああっ!シン!貴様――――!!」
あははは、と努めて笑う店員さんが俺たちの書類を見ながら機会をシステムをする。
「ふん。ではそのシステムというやらを確認してもらおうか」
何だか自慢になってるリシア。まあ、一応、元の世界では魔王をやってたから、たとえ弱くなったとしてもそこそこのステータスは出るはずだ。
「では、シン・アクマンさんからこちらへ」
俺は窓口の前に立った。
「これは回答の鏡です。この鏡の面を手の平で触れると右の画面にシンさんのステータスやお勧めのクラスが出ます。では準備はよろしいですか?」
「はい」
手を広げて鏡の上に置いたら鏡から光が出て全身を巡った。そして光は間もなく消えた。
「はい。終わりました。えっと、シンさんは…」
「何か問題でも?」
「高い体力で、筋力が他の方より強いですね。前衛に相応しいステータスです。」
「そうですか」
俺は画面のステータスを見た。
確かに体力と筋力が他の能力より高い。まあ、同然と言えば同然だろ。
「お勧めのクラスは…、え?」
「クラスは何ですか?」
画面を見るとそこには慣れた単語が書いていた。
【勇者】
「ふむ、システムとやらもなかなかだな」
俺の隣で腕組みをしている魔王、リシア。三人の中で店員さんだけが戸惑った。
「勇者って…、初めて見ました。いや、見たことがないです」
周辺からも騒めきが聞こえた。その場にいる冒険者たちが急に視線を集めたのだ。
「いいから次はこの私だ。早くしろ」
「は、はい。で、ではリシアさんも鏡に手を」
「うむ!」
鏡に光が出て、リシアの体中を巡った後消えた。そして続ける店員さんの驚いた表情
ステータスを見ると能力の中で精神的な分野が非常に高かった。でも、店員さんが驚いたのはステータスではない。
「ク、クラスが……」
まさか、魔王とかが出たのではないだろうな!
でもおかしい。
店員さんが驚いたのは理解できるが、何だか…、リシアの奴も驚いている。
「おい、一体何が――」
あ――――。
画面を見て口を閉じた。
==================================================================
[名前]リシア・ルディンハイム
.
.
.
.
.
.
[クラス]聖騎士
==================================================================
【聖騎士】。
リシアは自分を指で指しながら俺の顔を見た。
俺はリシアの肩を軽く弾きながら
「現実だ…。【前】魔王。」
俺はこの異世界で勇者に、
そして魔王は聖騎士になった。