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接ぎ木の如く

「なあ、これがあれになるのか?」

「一つとして同じものは無いが、そうだな元も同じ木だから似ている。こっちは実から育ててるからまだまだだな」


 古里から『取り木』を貰った鉢と、野山で集めた種から育てている『実生』の鉢を眺めながら二人の青年がのんびりと語り合う。

 情緒も風情もあるし、景色として切り取る事ができたなら令嬢達が挙って奪い合う事だろう。

 しかし未婚の若者の休日の過ごし方としては、少々疑問を呈したいと周りは思っていたりもする。


 何故なら金色の髪を靡かせながら佇む青年の一人が国王陛下。

 そして銀色の髪を後ろで括っている青年も、知る者からすれば国の貴族の頂点にいる青年だ。

 特に国王陛下に対して早期に『ご成婚』と『嫡子』をと願う者が多いのは、王国という体制からすれば間違いではない。


 しかも数ヶ月前に隣国を制圧してしまった事で色々と立場もある筈の人物。

 ゼノンに対して文句を述べる者は少ないが、侍る事が出来なくて不満に思う者もいる。

 ゼノンとウィンの関係を知らない者は『実家は名門貴族だが、落ち零れの次男が幼馴染という情けに縋っている』『宮庭の手入れをさせてもらっていているだけの無能』『実家の力だけで城にいるだけ』などと陰口を叩く。単純なやっかみ、妬み謗りという感情はどのようにしても出てくる。

 その陰口でさえ全てウィンの手元に報告書が届いているなどと露とも知らず。


 二人は普段向き合っている様々な雑事から逃れる為にこそ、この静かな時間を過ごしていた。


 そんな事を知らない、又は気を回せない貴族は王に近づきたいが、宮庭に出入り可能なのは王族と王の認めた者以外は許されない事に歯噛みする。

 そして『娘を是非に!』『王に紹介を』などという彼等のお願いに対してウィンは『本人次第ですので』と取り合わないので更に妬みや恨みは積み重なる。

 だがウィンからすれば、ゼノンが首を縦に絶対振らないのを知っているからこその対応だ。

 二人を良く知る宰相が言えども『その気は今は無いな』で済ませる国王に、それこそ宮庭管理人如きに頼んでどうするのだと逆に問いたかった。


 一部では王妹殿下をウィンに嫁に取られる可能性を危惧している者もいるのだが、それこそ大きなお世話である。

 そのような大きなお世話の原因は、現在のバスティス王国に公爵家が存在しないからだ。

 この王妹殿下争奪戦のライバルになり得ると考える貴族からは、敵視どころか殺意をもって対応される。

 公爵家が仮に存在しても、頂点にいる貴族は守護五爵家に変わりは無い。

 しかし、国王の血統を持つ家というのは、継承権を持つ可能性である。

 己の権勢を高めたい貴族が、王家に令嬢を嫁がせる、王女を嫁にと貰いたいと望むのが必然であると、あらゆる歴史が証明している。


 そうした諸事情があってこそ、この場に二人が敢えて余人を交えずに、のんびり過ごすと彼らは気づけない。

 欲に眩めば目が見えなく為る物だ。



 そもそもである、国王という存在の結婚とは戦略に近い。

 相手は国外の王家、つまりは隣国などの王女との婚姻となる。

 同格の相手から嫁を取るのだから公爵家が無いのなら、国内では守護五爵家しか有力候補はいない。

 それを宰相などは無駄と知りながらも、その方面の話を進めていたりする。

 彼こそは、呆けた狸か目ざとい狐であった。


 そんな同盟関係を強固にする為の結婚が時折問題を引き起こす。

 結婚による血縁関係を盾に、他国が内政干渉を行ったり、継承権に口を出したりする為だ。

 現在、バスティスに問題を引き起こしているのもこうした婚姻が生んだ事案だった。

 侵略してきたフローレンラント王国を撃破した上での併合なのだが、現在進行形でネルトア国という国から抗議が為されていた。

 フローレンラント王は戦死し王太子も処刑されたのだが、親族である公爵家の娘が王家の養女になった後に、隣国ネルトア国へと嫁いでいた。

 そのネルトア国からの抗議の趣旨とは、王位継承権を主張し、旧フローレンラント国領土を求めるという。

 駄目で元々、多少の無茶な要求や恥知らずと思われても、領土を主張だけで取れればという思いが見え透く主張だろう。

 言いがかりに近い事だが、馬鹿な内容でも平然と主張されるのが王国間の外交だった。

 強気の主張をしつつ、引き下げる代わりにじゃあこれでと遣り合うのが恥とは考えられていない。

 一部領土の割譲かもしくは有利な条件をつけての同盟締結などを狙っているといった所だろう。


 ゼノンが結婚や、そんな様々な雑事から逃れ、唯一静かに過ごせる最後の聖域に逃げ込むのも理解が出来るウィンであった。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 カッコンッと響いた鹿威しに合わせて、二人の侘びた空間に一人の知的な青年が割って入った。

 宮庭に入れるだけでその身分の高さが伺える。

 普段は二人から腹黒狸の切れ長狐と言われている彼だが、今日は狩人として現れた。


「陛下? ああ、やはり此処に逃げ込んでいましたね」

「おい、今日は休じ「暫く休日があるとお思いで?」っ!?」

「ゼノン、頑張れ」

「おいウィン貴様俺を売るのか!」

「宰相閣下お勤めご苦労様です」


 現れた青年はこの国の宰相を務めるアレス・ロッド・テレンス。

 そして二人の幼馴染でもあり、守護五爵家の一つ杖爵(ロッド)の一人。

 更に云えば、真面目で堅物に見えて狸とも狐とも言われる元悪戯仲間の参謀である。


「うむ、しかしなウィン……王と二人で語らうのを悪いとは云わんが、こうなんとか」

「なんとかとは?」

「いや、せめて茶会にするとか」


 周りを見渡す限り、静かな風景だけが広がっている。

 そこには華は存在していない、せめて王妹殿下だけでも連れて来いと言うのである。

 そうすれば、少しは色々と捗るものをと思うアレス。

 ちょっと行けば、花が咲き乱れ、女性とお茶を楽しむ如何にもな庭園がある。

 彼の言いたい事は『青春しようとしないのお前?』である。


「アハハハ、宰相閣下こうして庭園を眺めながら茶を楽しんでいるではないですか」

「プッ、無駄だアレス、ウィンに煌びやかな茶会を求めるな、それなら俺は此処にいないだろ」


『侘び寂び最高! 煩い令嬢がいても落ち着かん』とウィンが返し、ゼノンが同意する。

 雑事から逃れて、そこで態々雑事に構う筈がある訳が無いだろうにと主張しつつ、笑顔で答え話を逸らそうとゼノンは頑張ってみた、全く無駄な努力だったが。


「フゥ……まあ良いですよ、じゃあ仕事に行きましょうか?」

「心の安らぎを!」

「フローレラント王国を合併して色々と忙しいのですよ! 逃がしません」


 ゼノンもここに長時間篭れないだろう事は承知の上と諦めた。

 だが、仕方が無いと諦めても、安らぎたかった思いが次なる一手を生み出す。

 こうなったら楽しむまでよ! と彼は手持ちの札を切る。


「おい、元はと言えばウィンの手柄だよな? じゃあこいつも……」

「ふむ、まあ一理ある意見ですな、ウィン知恵を貸してくれ」


「ゼノンおま!」まさかの裏切りに遭ったウィン。

「ククク、死なば諸共よ」悪い顔をしながら道連だと笑うゼノン

「アレスも乗せられてんじゃねえ」と正論を述べるが相手は狸であり狐。


「まあ、幼馴染同士で真面目な議論を交わすのも悪くないでしょう?」


 見事に話しに乗っかってしてやったりという涼しげな顔。

 まさかこいつ最初から狙って!? とウィンが悔しがるがもう遅い。


「誰だこいつの立ち入りの許可を出した奴!」

「親父の代から……」


 虚しげに二人が呟いたが、仕方がないという笑った顔が其処にあった。

 抵抗を諦めた二人が宰相に伴われて悪巧みという議論を交わすのは数分後の事である。

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