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戦役

改稿部分を別話として投稿させて頂きます。

 ウィンの兄であるレオンハルトが軍を率いれば、フローレラント王国戦など問題では無い。

 しかし、愚直ともいえる生真面目な兄の事を知るからこそ、ウィンは様々な手段を用いて準備を怠らなかった。

 以前に行った、諜報部所属貴族に対しの行動もその一つ。

 結果として、罪状があった一般職員と、下級貴族までは証拠によって一掃された。

 しかし、ウラノス侯爵の息が掛かった連中は、諦めが悪かった。

 確定とも言える証拠を見せようとも、容疑を否認する。


 ウィンならば更にそこから情報を読み取るなり、戦争の情報を掴んでいるなどを織り交ぜて威したり、微妙な反応を見ながら徐々に心を折って罪を立証するのだが、兄のレオンハルトは真面目が故にそうした方法に長けていなかった。

 最悪の場合は有無を言わさずに牢に放り込んでから、取調べをするのが常道なのだが、騎士としての矜持によってレオンハルトが迷った所で容疑者の貴族が国外逃亡を図る。

 結局、兄はその対応に追われる事になってしまう。


 そこに敵国侵入の報が齎される。

 、万が一にも他に手を打たれていたら……とまで考えたウィンの作戦は見事に的中してしまう事となった。



 明らかに見計らった上での侵略行為である事は裏からの情報で掴んでいるが、表は兄の領分。

 確定情報に近い形で前もって情報は流していても非常になりきれないレオンハルトには生かしきれなかったという結果だけが残る、だがウィンはそれも兄だと認めている。

 『兄さんは優しすぎるから困る、そして其処がいい所だからな』とウィンは常に思っているのだ。

 裏本家当主と言えど犯したくない領域があった。


 これ幸いと戦功を立てるべく、日頃から守護五爵家を疎ましく思っている老将軍達もが兄の邪魔をしていた事も要因だろう。

 兄が軍を差配すれば、自分が手柄を立てる機会が無くなると、国難にも関わらず有能な大将軍を引き摺り下ろそうと画策したのだ。

 老害将軍だと常日頃から思っていた連中だったが、やはり性根まで腐っていたようだ。

 だが餅は餅屋が卸すべきであって、慣れぬ者にはそうは問屋が卸さない。

 あえて言えば狸がどこまで狸なのか、読み合いの上でウィンが一枚上手だったという事だ。


 一報が齎されて即、国王陛下であるゼノンの招集がかった。

 我こそはと張り切りだす老害が王宮に詰め掛けたのは言うまでもない。


「今回の侵略に対し我が国は全力をもって当たる、よって議論は無い」


 売り込もうとする将軍や貴族が論議を始める前に、ゼノンは確定事項を述べる。

 既に命令は発せられており、軍を含めた各部署はとっくに動いていた。


「これは決定事項である。既に国軍には命令を発し、本日中に先発隊の出立が可能だ。他補給物資なども、既に連絡が済んでいる。差配担当の宰相は王都にて物資集積まで待機。王都守護担当はレオンハルトに一任とする。後顧の憂いの原因を排除せよ」


 兄は逃亡した貴族の一件の担当であるが故に下手な重用を避けなければならない、ならば王都守護の名目で兵を残し引き続き売国貴族を締め上げてしまえと命じたのだ。

 ここで老将軍達は若干の不満を抱くが、レオンハルトが国軍を任されなかったのだから不満は述べれない。


「今回の戦役では私自ら国軍を指揮する。国軍精鋭部隊を我が指揮下とし、魔導師団からは通達した部隊が先発、近衛は1隊が我が指揮下で働け、残りはレオンと共に治安維持と国防に従事せよ。剣爵、盾爵、弓爵の守護爵とその兵員、そして私が率いる国軍精鋭部隊を先発隊とする、一時間で出立、遅れるものは置いて行く。尚、将軍達には準備が出来次第、私兵を率いて各方面の砦に向かってもらう。それ以外の諸卿らには私兵を準備し次第、補給兵と共に出立せよ。集合地点は後ほど伝える。

 アレス宰相、補給部隊の統括を宜しくな、レオン、王都の守護、並びに各砦の差配を任せるぞ、解散」


 反論を許さず、既に手配されていた内容をもって、一気に強権発動を通達。

 全軍の掌握を示し即時出発の号令を掛けた。

 国王陛下自らが軍を率いるのであれば不満を述べれる者など居ない。

 まして、急報から一日も経たずの行動では意見さえ出来ない。


 そして無論、老害であり己の欲に溺れていた者が向かうのは砦である。

 そこにに残る兵など数も知れているが、防衛も必要な事である為に絶対断れない命令。

 要は、態の良い厄介払いをしたに過ぎないのだが、私兵を率いろと言う点がウィンらしい策だった。


 そして事態はウィンの指摘通りに進みだす。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 国境の砦を落とす事に成功したフローレラント王国軍はそこで一旦停止していたが行軍を再開。

 進路を南南東へ向け、フィリア領への進入を開始した。


 5日後、街道を只管ひたすら移動したバスティス王国軍が現れたのは戦場ではなく、フィリア領の北東に位置するウラノス領に現れた。

 進軍経路はフィリア領とは反対側の地点からの進入。

 誰もがフィリア領に注視していた事によってバスティス王国軍の行動は予想しえなかった。


 直接フローレラント王国軍に対しに移動するとなれば考えられない進軍である。

 フィリア領に向かうには王都から西進しウラノス領の南を通過するのが最短ルート。


 侵略されつつあるフィリア領へバスティス王国軍は急進すると誰もが考えていた。

 実際、魔導伝令兵は周辺貴族に集合地点の連絡を終えており、その地点とはフィリア領の領都から少し離れた砦とされていた。

 完全な偽装と言うわけでもない指令である、敵軍を足止めするに最適な砦が選択されているのだから。

 実際にフィリア領軍や周辺貴族の到着により砦の防備は完璧。

 そこに注目がいくようにと仕向けられていた。



 バスティス王国軍がウラノス領に到着する1日前。

 侯爵軍に遅参に関しての詮議召還についての内容が伝令として走っていた。


 バスティス王国軍がその場に居ないにも関わらず動向を把握していたのはウィン達の活動によるものだ。

 そして態々詮議召還の伝令を走らせたのも意味がある。

 バスティス王国軍の現在地を誤認させる為だ。

 伝令が向かったその日、深夜の間に一気に進軍し、ウラノス侯爵領の領都外壁へと到達。

 王国軍の旗を靡かせた軍に慌てた兵たちを先触れの兵たちが抑えて接収し、詮議召還に関する返答の使者が出る間も無くウラノス侯爵の城門へ迫った。


 自軍をウラノス侯爵家の城門前に待機させたゼノンは次の手を打った。

『詮議の件の内容は既に伝えたにも関わらず、未だ返答は聞いてないが如何した』と更に問い合わせたのだ。

 自国の軍の余りの速度と事態の進行についていけないウラノス侯爵は後手に回り続ける。

 そして問い合わせを入れた、当のゼノン自身は、他の守護爵と共にウラノス領軍の宿舎へと赴いた。


 そしてこう宣言した「さて、バスティス王国の勇敢なる兵士諸君、現在フローレラント王国軍が侵略をし、同胞を危機に貶めようとしている。君たちはそれを許せるのか! 私は我が国民を襲うフローレラントを許さない! 侵略行為にだまって手を拱きはしない! 同胞を見捨てる事はありえない! 君たちの力を貸してくれ!」


 歓声に包まれ、鬨の声が沸き起こる。

 ゼノンの国王としての矜持、志、思い、それが兵たちを鼓舞した。

 ウラノス領軍の国軍への接収は成功。

 ウィン達はこの行動の間に、陰謀に関わっていたウラノス侯爵配下の貴族や騎士などを捕縛している。


 敗北を認め、そして城から逃げようとしていたウラヌス侯爵が、ウィンによって捕縛されたのは当然の結末だった。

 ウラヌス侯爵は、ウィンの持ってきたフローレラントとの共謀の証拠を見せられて最後を悟った。

 正式な判決などは後日の申し渡しとなり、蟄居を申し渡されたが、実際は王都の地下牢へと送られた。

 ウィンはその護送の帰りに老害将軍の下へと伝令にも走っている。

 無駄に苦労をする男と思えるが、万が一にも怪しい動きをしていないかの確認の意味があった。

 戦争であり、念には念を入れる為にと、本人がやる事に意味がある仕事だった。


 ゼノンは侯爵軍の一部を近衛騎士の一人に任せ、ウラヌス領都から離れた砦に派遣。

 残りはそのまま国軍と同行させる為に別の騎士を派遣し統括させた。


 城門前の待機で1日の休息を取った王国軍は、即日進軍を再開、ウラノス領からの進行を開始する。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 フローレラント王国軍の指揮は王太子が取っていた。

 王太子といえど、既に齢は40を過ぎていたが、未だ現フローレラント国王が退位しない。

 今回の侵攻作戦は現王の発案だが、実質の手柄を立てるべく自ら名乗り出て動いていた。

 次期国王の親征であるとして全軍を率いての進軍。

 配下の貴族を使った謀略も成功し、調略した相手国の貴族は予定通りに我がほうの味方。

 戦場にバスティス王が現れたときこそが己の輝かしい時代の到来だと意気込んでいた。


「これで、やっと私が国王に! 誰もが認める王となる、無駄に欲がある我が父など私に比べれば……」


 ブツブツと天幕の中で己に語りかける姿は恍惚としていた。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 一方、進軍し続けるバスティス王国軍……。

 敵軍の支配地域から微妙な距離となる少し手前。

 その地点まで進んでいたが、裏からの敵軍の情報は皆無だった。

 それは伏兵や斥候の存在など居ないという事。

 余りにも無残である、例え想定と違う方向であろうと斥候は広範囲で広げるべきものだ。

 ウラノス侯爵を信頼しての行動故かもしれないが、命のやり取りが行われる行為の中では愚かでしかない。


 無駄とも思えるほどに、ウィンの進言が採用されているバスティス王国軍との違いは大きい。

 ウラヌス領からの進軍速度まで考慮にいれて進言がなされている。

 更には、ウラヌス侯爵の私兵を装った裏の者が書状を届けるなど当たり前。

 近づく前に食料等を先発隊として編成させて届けたりもしていた。


 支配地域にはいっても、全く行軍速度を上げる命令はされなかった。

 逆に通常の歩行速度を守るように命令されたバスティス王国軍は徐々に進軍する。

 結果として、信じられない距離まで、敵軍の背後へと接近する事に成功した。

 その距離凡そ700m。


 大音声で掛けられた号令は何故か「合流っ! かけあっーし!」であった。 

 バスティス王国軍は全軍にて背後から侯爵軍の旗を掲げながら突撃を敢行。

 味方であると勘違いし、油断し困惑していたフローレラント王国軍を急襲した。


 数回に渡り訪れる確認の使者、贈り物の数々に食料などの手配。

 自分たちに擦り寄ろうとする調略相手が必死なのだとばかり王太子は思っていた。


「何が起きたのか報告せよ、兵士の喧嘩にしては騒がし過ぎるぞ!」


 笑顔を浮かべる踊り子の女性を囲み、食事をする王太子は不機嫌に配下に怒鳴りつけた。

 天幕を出た近習が慌てて戻って来たが顔色が悪い。


「なんだ、如何した?」

「殿下、大変で御座います」

「陛下と呼べと言っておろうがっ!」

「それ所では御座いません、敵が!」

「なに!?」


 キャァという悲鳴と共に女性達は逃げ出す。

 勿論ウィンの配下であるが彼女たちの任務は監視。

 もう役目が終わったとばかりに最後の任務をこなしていく。

 一目散に女性が逃げ惑う事で天幕は更に混乱に陥いり、その騒ぎは波及する。

 半裸に近い踊り子姿の女性が天幕から出てくるのだ。

 そして、騒ぎながら逃げろとばかりに走り去れば兵士も動揺し、全軍が混乱するのに時間は要しなかった。


 背後からの突撃に加え、何度も送られた使者によって陣張りは全て筒抜け。

 一気呵成に本陣へと突撃したのは、剣爵、フレイ・ソード・レヴィティ。

『攻めの赤剣』と若くして呼ばれバスティス王国軍王剣士団長であり、戦場があれば特攻し敵軍を壊滅させる猛将としられている。ウィンの幼馴染でもあり、よきライバルとフレイは思っている。

 戦闘力はあるのだが、訓練で負け続け、チェスでも惨敗し199敗という記録で止まっている青年……ではあるが、王国軍の攻めの要であるには違いなく、今もその力を存分に発揮し、フローレラント王太子の天幕に一番乗りを果たした。


「見つけたぁ! その首頂戴する!」


 戦場における彼の基本が特攻であり、切込瞬刹の方針である。

 捕らえろよと言っても忘れる事など常識とさえ仲間から思われており、間違いではなかった。


「ドアホォ!」という一声と共に兜越しに後頭部へと打撃が入る。

 でなければ王太子はこの場で死んでいただろう。

 まだ必要であるので殺させる訳にはいかなかった。

 浸透勁を流用した一撃だったので、それなりにダメージはあったようだ。


「あ!」

「あ、じゃねえよ、捕獲だろうが!」


 そもそも戦死の誉れを与えるつもりなどウィンには無い。

 それゆえの捕獲なのだ。


「ウィンに言われるなんて……屈辱だ!」

「……何度俺が忠告して助かってると? あれかお前の家に報告しようか、ああ?」

「ごめんなさい、落ち着きました」


 基本的に戦場で人が変わるのは当然だが、これは酷い。

 ウィンからすれば毎度の事。

 手間隙も大した事ではなかった。


「ほら、そんな事言ってるとベンさんに怒られますよ、仕事仕事」


 そう言って王太子を縄で縛り上げていたのはアロン・ボウ・キロン。

 軽めの性格なのだが、空気を読める男で、卒が無い。

 ウィンの優れた方の弟分だった、優れてないのは勿論フレイだ。

 締まらない雰囲気になりつつもこうして捕縛は完了した。



 大量の捕虜と伴にフローレラント王太子まで確保し、奇襲作戦は圧勝をもって終結した。

 例の小太りの貴族は戦場で散っていた事も記載しておこう。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 一気に瓦解してしまったフローレラント王国軍は建て直しの暇を与えられないままに逃走する。

 一戦において最高責任者の不在と実質の貴族軍首脳陣達が揃って捕縛された事が響いていた。

 私兵のみを連れて残った貴族たちは逃げ出し、この時点でフローレラント王国軍の壊滅した。


 王太子などは謂わば戦争の正当性を証明する為だけに捕縛しているだけの存在。

 先の戦闘での最も価値があったのは軍首脳部の貴族の捕縛だったといえよう。


 そこでウィンはゼノンへと更なる進言を行う。

 『やってしまえ』と言うわけだ。勿論献策に既に予想されていた範疇であった。


 捕虜にした兵士や騎士などを砦などに収容を命じたゼノンは、主力部隊のみでの侵攻作戦を宣言。


「ここにきて、鎧袖一触でフローレラントからの侵略者は打ち滅ぼした。だがしかし、此度の戦争はかの国の国王が発したものであると判明した。今後もかの王が居る限り我らの国に平和は訪れないだろう。よって、これより瓦解した敵軍の追撃を開始する。我ら精兵なるバスティス王国軍ならばそのまま敵王を必ずや打ち倒せる。私たちは愚かなる王に鉄槌を下す、我に続け!」


 馬上からの宣言と共にマントを翻したゼノンは、付き従うフルフェイスの騎士達と共に駆け出す。

 勝利に沸いている兵士たちは歓喜の声を上げながらその後を追い、国軍は一匹の獰猛な獣になり国境を越えた。


 殿を持つ敵兵も存在せず、敗残兵が雪崩れ込むよりも先にバスティス王国軍はフローレラント王国の王都へと攻め込んだ。

 国軍が壊滅している状態で、残るは少ない近衛の一部だけだった王城は、戦闘というのも憚られる程呆気なく落ちた。

 抵抗したのが一部の貴族の私兵のみであれば致し方ないだろう。



 侵略行為と謀略、調略などの罪状が述べられ、王都の中心地の広場においてフローレラント王と王太子、一族と関係貴族の処刑が行われた。フローレラント王国の歴史が費えた瞬間を市民たちは見守った。


 ここに、侵略軍を物ともせず打ち滅ぼし、更に敵国を制圧するという歴史的な大勝利をもって反撃した王が生まれた。

 略奪の禁止を徹底し秩序をもって攻め込んだゼノンを王都の市民は歓迎し、新たな王の誕生を喜んだ。


 貴族達に召集の命が下され、『腹黒狸切れ長狐』宰相によって各々の能力を見極められ、罪科を調べられた上で処遇が決定されていく、粛清と呼ぶのが生ぬるい嵐が吹き荒れるのはまた後日の話。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 ゼノンの傍らに常にいる護衛者、そして助言者のフルフェイスの騎士は近衛の鎧を着ていた。

 その為に、そこにウィンが居たなどと、誰も気が付かないまま戦争は終わった。


 そして現在、城の宮庭の茶室で、二人は茶を点て、寛ぎの空間にいた。


「うむ、悪くないな」

「作法なんて美味く呑めばいいんだよ」


 ウィンは正座もできるがゼノンと共に胡坐をかく。

 そして澱みない手つきで茶を差し出していた。


「貴族同士ならこうは行かないがな」

「ハッ、茶の作法なんて知らんだろうから問題ないさ」


 ゼノンは貴族を招いての茶会など面白くも無いといった風に告げる。

 それに対し、貴族は優雅に堅苦しくお紅茶でも飲んでろと言いたげなウィン。


「それで、今度の褒美だが」


 今回は正式に褒美を渡すからなとゼノンは示唆する。


「別にこれ以上宮庭は弄りようがないしな」


 宮庭を褒美として当たり前になっているのもどうかと言われそうな返答。

 だがそれもそうかと笑うゼノンは良い褒美があると告げた。


「嫁なんてどうだ」

「いらんわ、お前が先に結婚しろよ」


 痛いところを突かれ薮蛇になったゼノンはグヌと唸ったが、褒章は与えなければ気がすまない。

 実際に彼の褒美が一番の問題で、宰相達などからも頼まれている。


「何か望めよ、アイツらからも頼まれてるんだ」

「そういわれてもなぁ、あ!」

「何か思いついたか」


 ウィンの無欲を知るだけに望むならいいぞ。

 いっそ妹でも構わんけどなんて内心では思いつつゼノンは聞きに入る。


「休みでも良かったんだがそうも行かないのが俺だからな、米用の土地をくれ」


 だが、ウィンは所詮はウィンだった。


「……米はこのハギの材料だったか」

「まあそうだ、古里の地方で栽培してるんでな、似たような気候のところを頼むよ」

「わかった検討しておくが、それ出来上がったら俺にも食わせろよ」

「食わせるのは構わないけど、領主なんぞやらんぞ、掟だからな」


 先回りして留めておかないと、領主にするとか嫁を探してきたなどと言いかねない。

 それからも暫く二人は言い合いをしながらも、決め事などを話し合っていた。

 結局、碌な褒美も決まらないままに終わったのは言うまでもないだろう。

 そうして茶室の時間は流れていく。



 今日も只管ひたすらにチョキッチョッキッと、白亜の城の宮庭の一画で管理人の植木鋏の音色が聞こえていた。

 たった一人にも関わらず、宮庭を花で満たしている青年は、心行くままに盆栽を眺めている。

 激務から逃げ出した友が、城を抜け出したいと言うのを待ち構えながら。

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