ロジーナ、帰宅する
ロジーナは目を覚ました。
頭を動かし辺りの様子を確認する。
部屋にはロジーナしかいないようだった。
スッキリとした爽快感がある。
ロジーナはゆっくりと身体を起こし、頭を振ってみた。
頭痛は消えていた。
手を目の前に出し、試しに意識を集中する。
ふっと魔力が手のひらに集まる。
ロジーナは魔力を元に戻すと立ち上がった。
足元にも何の不安も無かった。
大きく伸びをすると、室内を軽く見渡す。
窓に目をとめ、近寄るとカーテンをめくった。
空が白んでいる。
ロジーナはハッとして机の方を振り向いた。
そこには何もなかった。
ロジーナは机に向かった。
ロジーナは椅子の背もたれに手をかけると、深いため息をついた。
一度目を覚ましたときは、確かにここにクレメンスが座っていた。
だが今は少しヒンヤリとした机と椅子があるだけだった。
ロジーナはベッドの前に戻り、布団を整えると机の方を見た。
「ありがとうございました」
ロジーナは深々とお辞儀をし、部屋を出た。
ロジーナは薄暗い廊下をゲートの設置された小部屋へと向かって歩いていた。
角を曲がったところで、前方に人影が見えた。
腕を組んだクレメンスが壁に背をもたれかけて立っていた。
「大丈夫そうだな」
クレメンスはロジーナの気配に気がつくと、声をかけた。
「はい。ありがとうございました。ご迷惑をおかけして、すみませんでした」
ロジーナは深々と頭を下げた。
「迷惑、か……」
クレメンスはつぶやくように言うと、「フフフフ」と嗤いながら、ロジーナに背を向けた。
「弟子とは、師に迷惑をかけるものだ。ロジーナ。困ったことがあったら遠慮せずに、いつでも私を呼びなさい」
そう言い残し、館の奥へと去って行った。
「師匠……」
ロジーナはクレメンスを見送り、しばらくそちらの方を見つめた。
そして一礼すると、小部屋の扉を開け、クレメンスの館を後にした。