ロジーナ、薬物を盛られる
<登場人物>
ロジーナ・・・上級魔術師。
クレメンス・・・師範魔術師。魔術師協会の会長。ロジーナの師匠。
視界がぐらりと揺れた。
脳内にモヤがかかっていく。
いけない。
ロジーナはあわてて立ち上がった。
ガチャン
立ち上がる際に引っかかったのか、グラスが床に落ちた。
ガラスの破片が散らばり、中に入っていた液体がみるみる広がった。
いつもの状態のロジーナならば、すぐに謝り、グラスの破片を片付けようとするはずだった。
しかし、今のロジーナはグラスのことなど構ってられなかった。
意識を失う前にここから逃げなくてはならない。
それしか考えられなかった。
周囲の状況に気を配る余裕がないくらい、急激に意識が薄れていくのを感じていた。
ロジーナは本能的に部屋の出口に向かい歩き出した。
脚に力が入らない。
早く逃げなくては……。
残った意識を総動員して魔力を練ろうとした。
脚から意識を動かした途端、膝がガクッと折れた。
身体がゆっくりと傾いていく。
反射的に床に手をつき上半身を支えたが、その腕の力もどんどん抜けていく。
なんとかしないと……。
焦るのは気ばかりで、身体は鉛のように重く、動かなかった。
魔力を練ろうにも、頭の芯がしびれたようになり、意識を集中することができない。
助けて……。
ロジーナの言葉は声にならなかった。
師匠……。
ロジーナは意識を失った。