9話
「大八木を止めなくていいのかよ」
若い男が言った。
「止めんでよい。この国の軍事力は、やつの軍隊によってまかなわれている部分が多いいのじゃ。下手に刺激して裏切られてしもうたら、この国の大半が海に沈んでしまうんじゃぞ」
年寄りが言った。
「いくらなんでもあれはやりすぎだ、それ相応の罰があってしかるべきだろうよ、じーさん」
若い男が言った。
「この国にとって大八木の率いる軍隊がこの国の最大の防衛手段なのよ? 他国にでも寝返られたら困るわ」
女が言った。
「大塚、君はどう思っとるんじゃ? 『元ギフト所持者』としての意見を聞きたいのぉ」
「長老、今はただの刑務所の所長ですよ」
優しい笑みを浮かべ大塚は言った。
「ふっ、ただの刑務所の所長ですって? どうしてそんな立場の人間の一声で、脱獄犯の捜索が打ち切られてるのかしら」
敵意を込めた声で女は言った。
依然変わることのない笑みを浮かべ大塚は言う。
「何のことでしょうか?」
「おっさん、今もなんか企んでんだろ」
若い男はニタリと笑みを浮かべる。
「僕は何もしていないよ」
「よいから黙っておれ、でどう思っとるんじゃ、大塚よ」
年寄りが、杖を大理石の床にうちつけ周りを黙らせる。
「飼いならせないなら、どれだけ強い番犬でも無意味だと思いますよ」
大塚は決して変わることのない笑みを浮かべたまま、感情のこもらない冷たい声で言った。
というわけで、9話でした。
至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。