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ギフト  作者: 菓子の木
3/25

3話

 目を覚ますともう夕方だ。

 となるとそろそろ、飯よこせと月夜が騒ぎ出すに違いない。

「夕食はまだですか」

 やっぱりな。

 そしてこう続くはずだ。

 今日は少し遠慮してくれると嬉しいな。

「今日は少し遠慮してくれると嬉しいな」

 ほらビンゴ。

 この会話を食事時になるたびに聞かされていればさすがに覚えてしまう。

「ところで寝た振りの影千代さん。早く起きて影千代さんからも、わたしの食事を用意するように言ってください」

「大塚さんこいつに食べ物を恵んでやってください」

 即座に起き上がり俺からも頼むことにする。

「まあ、もちろん用意はしてあるんだけど、本当に良く食べるよね」

 苦笑いを浮かべながら大塚さんは言った。

「わたしが食べるのは仕方がないのです」

「そういう体質かなにかなのかい?」

 月夜は無機質なものと俺の少々の血液を口にすることで、無機質なものを作り出すことが出来る。

 例えば手のひらサイズの金属から拳銃を、鉄パイプから刀を、布から服を。

 というこの能力のおかげで食欲がえらい事になっているのだと俺は信じている。そうでもしないと、こいつの食欲のせいで無駄にかさむ食費に目を瞑っていることなど到底できないからな。

「まあそんなもんです」

「わたしは何でも食べれますからね」

 えっへん、と偉そうに腰に手を当てて胸を張る月夜に俺は殺意を抱かずにはいられない。

「調子に乗るな」

「何でも食べるのは本当です」

 少しむくれた表情で俺に突っかかってくる。

 まあ事実ではあるが、わざわざ偉そうな態度をとる必要はまったく無い。そしてこいつは、一体どれだけの食費がかかっているのかを理解するべきだ。

「例えばそのソファでも食べれるのかい?」

「薬と足かせがなければ余裕です」

 再びの得意顔。

「へえー、それって能力の類か何かなの?」

「そうです。けどわたしの作ったものは影千代さんにしか使えません」

 まあ、作った本人である月夜も使えることには使えるんだが、こいつが作ったものを自分で使うと性能が六割程度しか発揮されない。

 唯一問題なく使えるのは、服ぐらいだ。

 とはいってもすぐに糸がほつれたりするけど。

「じゃあ僕が使ったりするとどうなるんだい」

「そもそも使えません。影千代さん以外の人間がどんなに頑張ったところで無駄な努力にしかならないんです」

 銃器なら引き金が引けず、刀なら鞘から抜けず、そのうち勝手に錆びて朽ちてしまう。それもたったの数分で。

 もちろん例外もある。

 例えば家を建てたとしよう。そうすると、その家は普通の家として機能する。まあ、そんなでかいものを建てたら、俺の血液が一体どれだけ必要になるのか分かったもんじゃないから、やらないけどな。

「所長、お食事をお持ちしました」

 ハキハキと気持ちいい声の青年が食事を持ってきてくれたようだ。

 うん、扉を開けてとても驚いてるよ。運んできた食事の量はそこそこの人数分だもんね、そりゃ驚くよ。

 実際はたった三人でその量を食べるなんて知ったら。

 いや、一人で食べると言ったほうがいいのかな。

「ご苦労様」

「は、はい!」

 驚きを残したままの表情でこの部屋を去っていった。

「彼、驚いてましたね」

「仕方ないさ」

「早くいただきましょうよ」

 こいつの頭の中には食べることしかないのだろうか。

 実際七割ぐらいはきっと食べることで構成されてるんだろうけどさ。

「今日も美味しそうですね」

 そう言って勝手に食べだす月夜が始めに手を付けたのは今が旬の秋刀魚の塩焼きだ。最近値が上がったと聞いていたが、きっとそんなことを知らない月夜は何のためらいもなく秋刀魚を丸呑みした。

 まるでオットセイかなにかのように。

 オットセイが秋刀魚を食うのかどうかという部分が謎ではあるが、俺にはオットセイそのものにしか見えなかった。

「そんなに焦らなくても……」

「大塚さん、こいつにとって丸呑みは当たり前なんですよ。焦ってるわけでも急いでるわけでもなく、これが普通なんです」

「もう何回か見てるけど、全然慣れそうにないな」

「安心してください、俺も最近慣れたところです」

「二人とも何してるんですか、早くしないとわたしが全部食べちゃいますよ」

 そんなことを言いながらもまったく食事の手を止めることしない月夜。

 もういいよ、全部食ってろ。

「本当に気持ちの良い食べっぷりだ」

「食べっぷりは、ですけどね。特に会計時の気分の下がり方は凄いですよ」

「まあこれだけ食べればすごいことにもなるよね」

 大塚さんは、はははと笑いながら実際の会計時の様子でも思い浮かべたのだろう、少しだけ表情に影が落とされた。

 まったく何度俺が泣きそうになったことか。

「影千代さん、そんなんだとお腹空きますよ」

 そんな俺たちのことなどまったく気にせずに食べ続ける月夜が、箸を止めることなく、俺に声を掛けてきた。

「夜抜いたって大丈夫だろ」

「夜は満腹になって気持ちよく寝るのが正しいんですよ」

 聞いた事ねぇよ、むしろ夜は摂取カロリーを控えるべきだと聞くことのほうがほとんどだ。まあ今夜にここを出ることを考えると、多少は食っとかないときつそうなのも事実だけど。

「まあそうだな、食っとかないとな」

 大事な場面で空腹のせいで気をとられるとか嫌だしな。

「二人とも、食べるのはいいんだけど、ちゃんと薬も飲んでくれよ」

「飲みたくないですね、不味いですから」

「まあ確かに不味いよな、あの薬は」

 俺も月夜に続いた。

 きっとこの流れで薬を飲まずに夜を迎えようということだろう。

「そう言わないでくれよ、薬なんて大概が不味いだろ?」

「そもそも薬を飲んだことがないから分からないです」

「良薬口に苦しとは言うけども、これは良薬じゃないのがより飲む気力を奪ってるよな」

「影千代さんの言うと通りです。わたしたちにとって有害でしかないこの薬を飲むことに対して前向きには絶対になれそうにないです」

「そんなこと言ったって飲んでもらわなくちゃ困る」

 少し大塚さんの声色が変わったのを敏感に感じ取り、すぐさま素直に従う方向に修正をかける。

「まあ飲みますけどね」

 クッソ、結局飲まされる破目になっちまったな。

 でも、下手に抵抗してこの人に疑われるよりはマシか。

 結局飲むことになってしまった薬の味は、やっぱり不味かった。


というわけで、○話でした。

至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。

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