24話
「影千代さん、なんでこんなことに……」
静まり返る。
何の音もしないこの場所でただただ、声が響いた。
「こんな――こんなに酷いことってありますか?」
言葉が返っていくことはない。
「どうしてこんなに酷い」
大きく息を吸った。
「こんなに酷いカレーが出来るんですか!?」
なぜか真紫色をしたカレーを目の前にして月夜は叫んだ。
「いや、俺が聞きたい。俺は全て市販のものを使って、今までとまったく変わらない、慣れ親しんだ方法でカレーを作ったんだ。そして完成するのは普通の、何の変哲も無い、ただのカレーのはずだったんだよ」
「じゃあなんでこんなことになったんですか!?」
「俺が聞きたいよ」
「昔は普通に料理が出来ていたじゃないですか!」
「だよな、昔は出来てたよな」
「何です? 爆発に巻き込まれて、瓦礫が頭に直撃したときにおかしくなってしまったんですか! そうなんですね?」
あの爆発によって施設は倒壊した。
そしてその倒壊の際に吹き飛んできたと思われる瓦礫が俺の頭に直撃した。別に直撃して気を失っただけで脳みそに異常はないと医者にも言われた。
まあ、俺も月夜も左腕が悲惨な状況だったためにそれ相応の治療を受けたわけだが。
「それとも、治療を受けたときに頭がおかしくなったんですか?」
「それは無いだろ」
あまりにも悲惨過ぎる腕を治すために、総理大臣クラスの人間しか受けることの出来ないような特殊な治療で、一般的な治療でも治すことが出来るところまで魔術を使ってもらったりしたが、それが原因だとは思えない。
というか、頭に何かしたわけじゃない。
「影千代さん。どうしてくれるんですか? せっかく完治祝いついでにクリスマスもしてしまうということだったのに」
今更ながらクリスマスと聞きなんとも言えぬ感覚が俺を包み込む。
あれから二ヶ月。
紆余曲折ありはしたが、まあ色々なことにとりあえずの解決を迎えた。肉体的な損傷も精神的な損傷も、普通でいられるくらいには治った。
「それにしても月夜に毒が盛られたってのが嘘で本当によかった」
それどころか大八木の被害者どうたらこうたらってのも全部嘘だったらしい。つまり、大塚さんが用意した大八木を倒す理由というものは、『月夜が死ぬと言う嘘』だったと言うわけだ。それをわざわざ俺が勘違いするように喋って、俺が勝手に大八木を倒すことに対して多少の気持ちを傾けたと言うわけだ。
まったく人が悪い。
「影千代さん、勝手に話を逸らさないで下さい」
『ピンポーン』
「一旦話は終わりだ」
「仕方がありませんね。それにしてもお客さんなんて珍しいです」
むぅと頬を膨らませながらもしぶしぶ、インターホンを鳴らした誰かのことへと話がシフトする。
「いや、違うだろ。ここには大塚さんしかこれないんだぞ? あの人ならインターホンを押して自分の名前ぐらい言うだろ」
「となると、敵襲?」
「の、可能性もあるな」
「じゃあ影千代さんが先頭に立って出てください」
「ああ、分かった」
結局俺が戦闘かよ。別にいいけどさ。
恐る恐るドアを開けると、そこには一メートル四方の箱が落ちていた。そして箱の上にはボイスレコーダーのようなものが置かれている。
「なんだこれ」
「箱とボイスレコーダー、ですね」
「とりあえず聞いてみるか」
俺が再生ボタンを押すと、声こそ変えられているが、何か懐かしさを感じずにはいられない声が流れてきた。
『メリークリスマス。元気かな? ボクはサンタクロースだよ。君たちにプレゼントを届けに来たんだ。いや、君たちにはプレゼント、ではなくてギフトだよ。のほうがいいかもしれないね。まあ、どっちだっていいんだ。せっかくのクリスマスプレゼントが無いなんてそんな酷いことは無いからね、プレゼントを持ってきたよ。ボクが知っている家とは造りが変わったから、玄関先だなんて芸のない場所になってしまったのは許しておくれ。ボクは色々な家にプレゼントを届けてこなければいけないからこれで失礼するよ』
少し時間が空いてこれでもう終わりかな? と思ったところで言葉が続けられた。
『おっと、忘れていた。ギフトは家の中に持ち込んだらすぐに開けるんだよ。いいね? これで本当にさよならだ、また来年を楽しみにしていておくれ』
「サンタさんの襲撃でしたね」
「だな。とりあえず家の中に持ち込むか」
「はい」
二人とも完全に驚きを通り越してよく分からない感じになってしまっている。
本当に何なんだ。なにかの悪戯ではなさそうだし、だからと言ってサンタなんて者はいないし。
「重いなこれ」
箱がでかいんだからそれなりに重いとは思っていたが、いろいろな意味で万全とはいえない子の体には重過ぎる。
「何ですかね? 重くて大きいものって」
「ふぅ、米とかじゃないのか」
とりあえず運び終え一息つこうかとコップにお茶を注いだときだった。
「開けますね~」
「変な物が入ってたら下手にいじるなよ」
「分かってますよ」
月夜が綺麗に施されたラッピングをビリビリとむちゃくちゃに剥がしていくと、中身は自分から飛び出してきた。
「女の子に対して重いは無いんじゃないかな!」
時間が止まる。
俺も月夜も完全に固まった。
しかし、ビックリ箱の如く飛び出てきて俺と月夜を驚かせた当人は、月夜の服の裾を引っ張った。
「まったくです。女の子に対して、重いだなんて、グスッ。サイテーです」
涙を堪えながら鼻水をすすったりしながら、いつもの調子で月夜は言った。
「俺は思ったことを言っただけだ」
「とりあえず、影千代さんは、あやまっでくだじゃい」
「そうだよ。まずは謝ってよ」
「いやだから……」
「かげぢよざん」
「影千代君」
二人はいつものように俺に「早く謝れよ」と目で訴えてくる。
「……」
「……」
「ごめんなさい」
そして俺は例の如く謝る。
これで普段の一連の流れ、と言うものは済んだはずだ。
「彩ぁ、彩がいます。生きてます。幽霊じゃないです。触れます」
「月夜ちゃん元気だった? サンタさんからのギフトは喜んでもらえたみたいだね」
「はい、大満足です。今までもこれからも一番嬉しいクリスマスになりました」
「よかったぁー」
二人を見て俺はなんだかとてもいい気分になる。
具体的にどんな気分なのか、どんな気持ちなのか、どうして気分がいいのか。と聞かれでもしてしまったら上手く答えることなど到底出来そうにないが、とりあえずいい気分だ。なんだかとてもとてもいい気分だ。
としか言いようが無い。
というわけで、24話でした。
至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。




