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ギフト  作者: 菓子の木
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2話

 テレビの向こうではなにやら俺たちについて議論がなされている。

 大塚さんもわざわざこの番組をつけたまま席を外すなんてことをしなくてもいいのに。

『先生、ギフト所持者と魔術師の違いというのはどのようなものなのでしょうか?』

『魔術師と言うのは、自らの魔力を操り他の物質に変換する者のことですが、ギフト所持者と言うのは、ギフト、つまりは神や妖怪、悪魔などの力を借り受けた者達のことです』

『どれくらい力の差というものがあるのでしょう?』

『具体的には分かりませんが、一般的な魔術師が子犬、ギフト所持者がライオンぐらいの差はあるでしょうね』

『魔術師ですら各国の自衛隊に所属することが義務付けられていると聞きましたが、そのギフト所持者と言うのはそういった義務が無いのでしょうか?』

『国が把握しているならあるはずです。しかし、ギフト所持者の数が少ないですからね、そう簡単に情報を得られないと言うのが実情です』

『なるほど、そのように力を持った人間が集落を丸ごと地図から消してしまうと言う事件を起こしてしまったことについては非常に残念ですね。先生ありがとうございました。では、次のニュースです』

「嘘ばっかりですね」

「そうだな」

 別に嘘ばっかりって事はないが、少なくとも俺が事件を起こしたと言うのは嘘だ。

 俺はいまだになんでこうなったのかを理解していない。仕事を終え、帰ってきたら襲われて気が付いたらここだったからな。

「わたしたちが国のために働いてきたと言うことも知らずに、こんな汚いところに放り込むなんてサイテーです」

「そんなこともないんじゃないか? 随分と待遇いいと思うけどな」

「そうですか?」

「ああ、だってほら俺たち所長室にいるわけだしさ。もちろん行動の自由を奪われているとはいえ、ふかふかのソファに座ってテレビ見れてるだけ良いと思うぞ」

 行動の自由を奪われているといったって、俺たちの能力を封じ込む薬を飲まされて、その上で魔力が一定以上出されると激痛の走る足かせをはめられているくらいだし。

 いや、十分すぎる拘束か。

「それに俺たちは普通にお茶をすすって煎餅食べてるしな。随分と待遇はいいだろ」

「そうは言っても世界に十数人しかいないギフト所持者ですよ。それに対してこの待遇は酷くないですか!」

「それを言ったら犯罪者にこの待遇は良すぎないか?」

「それは、まあ、そうですけど……」

 言い返すことが出来ないのか、月夜は視線を泳がせた。

「それとさ、ギフトであるお前がそれを言うとなんか変な感じだな」

「う、五月蝿いです」

 頬を赤らめながら月夜は俺を睨んだ。

「いやー、待たせたねぇ」

「いえいえ、というか俺たちは囚人なんですから気を使わなくてもいいですよ」

「いや、影千代さんはもっと威張ってるべきです。こんな風に拘束されていること自体おかしなことなんですから」

「そんなこと言わないでおくれよ」

 実に申し訳なさそうな表情を浮かべる大塚さん。

 いやだから俺たち囚人が所長に気を使わせてどうするんだよ。

「これでも頑張ったほうなんだからさ」

 本当だよ、囚人が所長室でまったりと煎餅食べてるとか聞いたことねぇよ。

「いやまだ足りませんよ! せめてシャワールームが欲しかったです」

「男女の囚人が四六時中同じ場所にいるだけで随分とすごいことだと思うぞ、それも所長室だしな。その上シャワールームは高望みしすぎだ」

 ドラマや情報バラエティーなんかの受け売りだけど、普通男女の囚人は別々の場所に収容されるらしいからな。

「いやです、いやです、お風呂に入りたいです。ゆっくりとお湯を浴びたいです」

 駄々をこねる子供のように足をバタつかせて俺たちを困らせる月夜。

「風呂ぐらい我慢しろよ、俺たちの昨日の晩飯はなんだった?」

「ラーメン三杯、餃子六皿、レバニラ、それと炒飯がえーっと」

「もういいもういい、そんだけ食わしてもらってんだから風呂ぐらい我慢しろ」

「お腹が空きました。今日は和食が食べたいです」

 おい!

 いつものことながら自由だなお前は、自由すぎるなお前は。

「今日もあんなに食べるのかい?」

「もちろんです」

「(影千代君、どうにかならないのか?)」

 大塚さんが小声で俺に耳打ちをしてきた。

 ごもっともな意見ですよ。でもね、

「(死ぬまでどうにもなりませんよ、これは)」

「二人でなにを話しているんですか?」

「いや、なんでもない。和食だね、分かった用意しておくよ」

「本当にすいません」

「いやいや気にすることはないよ」

「影千代さんなんで謝ってるんですか?」

 月夜が心底不思議そうな顔で俺の顔を覗き込んできた。

「お前が食いすぎだからだよ」

「人は食べなきゃ死んじゃうのです」

 そんなことも知らないんですか?

 そんな言葉が聞こえてきそうなほどに得意気な顔をこちらに向けている。

「お前は人じゃないし、食べる量が多すぎるんだよ」

「わたしは人間みたいなもんです」

「吸血鬼もどきが何言ってんだ」

「もどきは余計ですよ、わたしは吸血鬼です」

 人間みたいなもんなのか、吸血鬼なのかはっきりしろよ。

「日に当たっても燃えなくて、十字架を見ても触っても何も起こらずに、にんにくたっぷりの餃子を美味そうに食ってるやつが吸血鬼か?」

「で、でも力を使うとき血液が重要になってきますよ」

 月夜の精一杯の反論を一刀両断する。

「俺の血限定だけどな」

「いいじゃないですか影千代さんの血限定でも」

 まあそうなんだけどね、吸血鬼って言ったら色んな人の血をすって回るイメージが強いからさ、やっぱり違和感がすごいんだよ。

「二人とも、一旦そこら辺にしてとりあえずこれ飲んどいてくれるかな、少し出てくるから」

 そう言って大塚さんは錠剤を二つずつ、計四つ机の上に置いた。

 この薬が俺たちの能力を押さえ込む薬らしい。そしてこれがかなり厄介。能力を押さえ込まれるくらいならまだいいが、飲んだあとは軽く気を失う。

 その気を失っている時間と言うのがかなり怖い。

 なにせなにがあっても気付かないんだから。

「分かりました」

「ちゃんと表に二人監視を付けておくから、脱獄なんて考えないでくれよ」

「大丈夫ですよ」

「甘いですね、わたしたちにただの人間が敵うわけがないというのに。それと、覗かないように言っておいてください」

「どうしてかな?」

「わたしと影千代さんが、人には言えないあんなことやこんなことをしてるかもしれないからです」

「ははは、分かったよ」

 なぜこいつは余計なことばかり言うんだ。いや本当に余計すぎるだろ、なんで俺たちがそんなことをする仲みたいにしてくれてんだよ。

 俺が一人であれこれと考えている間に大塚さんは出て行ってしまう。

「はあ」

「さあ影千代さん、人には言えないことをしますよ」

「なんだよそれ」

「今回は人目がない状態で、二人っきりです。することはもう一つしかないですよね」

 二人っきりで、人目のない場所ですること……はっ、まさか!

「いや、あのなそういうことはだな、もっとこう、雰囲気のある場所でと言うかな、いやそもそも俺はお前みたいな銀髪幼女なんか好きじゃないわけであってだな」

「影千代さんが想像していることをしたいのならわたしは拒否しませんが、今そんなことしている場合ですか? わたしが言いたかったのは、せっかくのこの機会に薬を飲まずに薬を廃棄しようと、そう言いたかったんですよ」

「……はい、まさにその通りでございます。何でも言うことを聞かせていただきます」

 恥ずかしい、なんて失態を犯してしまったんだ。

 でも俺は仕方ないと思うんだ、だって俺は本来学校に通っているはずの高校生だからね。高校生なんてこんなもんでしょ?

 少し、本当に少しだけそんな妄想をしてしまったって仕方がないんだよ。

「では影千代さん、ここから脱出します。今日中に」

「はい?」

「そのための方法を考えてください」

「お前も考えろよ」

「影千代さんはわたしの言うことを聞いてくれると言いましたよ」

「そうは言ってもだな」

 まあ、今薬を飲んでいないだけあって、あと一時間もすれば普通の人なら相手を出来るくらいには魔力も戻ってくるだろうし、月夜のほうも簡単なことなら出来る程度に能力も回復するだろうけど、足かせをどうにかしないことには始まらない。

 と言うかこんなもんはずせるわけがない。魔力を使えば激痛が走り、外そうにも鍵が必要だが、鍵の在り処を俺は知らない。

 いやそもそも、ここから脱獄する方向で話が進んでるけど、俺無実だから下手に脱獄なんてして本当に罪を犯すのはまずいような気もするし。

「なあ月夜、俺たちが脱獄する必要性ってあるのか」

「もちろんあります。嘘であれ集落を壊滅させたなんてことにされてるんですよ。間違いなく死刑にされますって」

「どうにかなるんじゃないのか、腕のいい弁護し雇えばさ」

「はあ、影千代さんは馬鹿ですね。集落を一つ壊滅させることの出来る人間ですよ? わたしたちを問答無用で死刑にすることぐらい可能でしょう」

「俺たちを消そうとする人間なんているわけがないだろ?」

「はあ、影千代さんは本当に馬鹿ですね。悪人にとってわたしたち以上に消したい人間はいないでしょう?」

 主に悪人をとっちめるのに警察や国の人たちでは動きづらい場合に、俺みたいなのに仕事を回してきてたからな。そりゃ悪人どもからすれば、上手いこと警察が手を出せないようにやってきたのに、俺がそれを全部ぶち壊しちゃうんじゃ困るか。

「それに、死刑にならなくともここで囚われている事は相手にばれているんです。そのうち殺されますよ」

 確かにそれは困る。

 というか、今攻めてこられたら勝ち目なんて屁ほどもない。なにせ俺たちがちょっと人気の少ないところに入ったとたんに俺たちを気絶させたからな。

 今思えば毎日飲んでるこの薬を、粉末状にすりつぶしたものを大量に撒いたんだろうけど、そこからの記憶がないからな。

 実際起きたらここにいた感じだし。

「って言ったってなあ、そうだ、お前鍵作れないのか?」

「影千代さんはわたしに激痛を味わえと?」

「そうは言ってないけどさ」

 これを素手で壊すのは無謀だし、何かでこじ開ける技術もない。

 はてどうするか。

 足かせが外れるときといったら、トイレに行くときに足かせを外して腰に縄を巻かれるときぐらいか。

「さすがに今から一時間もたったら大塚さん帰ってきちゃうよな」

 今すぐに決行なんてわけにも行かないし、となると、夜遅くに大塚さんが帰って、看守の人たちが軽く夢の世界を見始めるころになったらが良いか。

「影千代さん、寝た振りしてください。帰ってきますよ」

「分かった」

 耳を澄ませば外で看守と話をしているのが聞こえる。

 目を瞑り、その場で体の力を抜く。

「そろそろ気づいてくれないかな」

 そんな言葉が俺の耳を振動させて、俺は純粋に寝てしまう。

というわけで、2話でした。

今日は一話しか投稿するつもりがなかったのですが、ボリュームが足りない(個人的感想)ような気がするので、2話も投稿しちゃいます。


3話は2日後の11月3日の投稿予定で、以降は隔日投稿となっていく予定なのでお時間が有ればよろしくお願いします。


至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。

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