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ギフト  作者: 菓子の木
19/25

19話

「そろそろ覚悟を決めましたか」

「あと三分ほど時間をくれ」

 俺は押し切られる形で例の施設に来てしまったのだが、少々気分の落ち着けるという名目の下、近くにある喫茶店に居る。

 実際は俺がびびってるだけであることは言うまでも無いことだろう。

「一応最後に作戦の確認をしますけど、とりあえず彩を助けてから大八木をこそこそ殺すということでいいですね」

「あのー、月夜さん。甘いもの食べたくない? 三つなら好きなものを奢ってあげるよ」

「すいませーん、このパフェを三つ下さい」

 俺が話し終えるよりも早くにメニューを確認していた月夜は、俺の言葉が切れると同時に店員を呼んだ。呼ばれた店員はぎょっとした表情を見せが、すぐに丁寧に対応へと当たってくれる。

「サイズはいかがしましょうか?」

「一番大きなやつでお願いします」

「かしこまりました」

 再び目を見開き、スタスタと去っていく店員を見送って、月夜は俺に笑顔を向けた。

「で、影千代さん。一体どんな話をしようとしているのですか?」

「何が」

「何かお話があるから珍しく太っ腹な提案をしてくれたんですよね」

「まあ、そうなりますね」

 無駄に鋭かった月夜の勘によって俺の企みは看過されてしまう。まあ、別に大した事じゃあないんだけど。

「早く話してください。わたしの頼んだものがくるよりも早く」

「ええっとだな、正面突破じゃだめかな」

「いいですよ」

「そうだよな…………えええええええ!?」

「どうしたんですか」

「いや、いいの? 正面突破だぞ、結構危険だぞ、なんなら大八木に会うまでにかなりの深手を負うかもしれないぞ?」

「別にいいですよ」

「そんな簡単に俺の意見に賛同してしまうのは良くないんじゃないかな。うん、良くないよ、自分の命に関わることだぞ?」

「わたしが死んだら影千代さんもどうせ死んじゃいますよ。その逆も然りですけど。それを分かった上でのことなら別にいいです」

「そ、そうか」

 確かに俺は提案をした。

 ただ、こんなにあっさりいくとは思っているわけがない。そのせいで、本来嬉しいはずのこの状況に正直納得がいかない。もう少し抵抗をして欲しかったものだ、いや抵抗しろよ。

「ところで影千代さん。わたしからも一つ提案があるのです」

「なんだ」

「今から運ばれてくるものの値段は五万円。それが三つです」

 十五万円だな。

 ん?

「けれどわたしは影千代さんに言われたことに素直に従っただけなのです。だからわたしを怒っても筋違いもいいところです」

「お待たせいたしました」

 運ばれてきたのは二十人――いや三十人前はあろうかという巨大なパフェである。

 パイナップル、りんご、さくらんぼ、イチゴ、グレープフルーツ、ぶどう、みかん、栗、梨などなどのフルーツと、約十種類のアイス。フレーク類もかなりの量入っている。それだけではない、プリンやゼリー、クリーム、板チョコもたんまりと盛られている。それに留まることを俺は期待した。心底期待していた。

 しかし、カラメルソースとチョコレートソースの入ったソースポットを持ってきやがった。

 正直十五万円にはそこまで危機感を覚えていなかった。何せ月夜に好きなものを好きなように食え、といえばこれぐらいすることを覚悟していたからだ。しかし、即効でメニューを確認したときに、『五分で完食出来たら御代はタダ。もしも失敗すれば十倍!』

 そんな言葉が書いてあるのを見て、俺は店内に流れるBGMが死の音色にしか聞こえなくなった。

 いくら三つで十五分あるとは言え、一つ当たり二、三十人前もあるのだ。そして失敗したら、百五十万円。

「おい、月夜。失敗したらお前明日から一週間食事抜きだからな」

 いや、それでも足りない。

「やっぱり一ヶ月抜きな」

 普段月夜が食べる量は五人前ほど、これでも十分多いが、月夜の胃袋の構造は良く分からないもので、五人前も食べれば十分問題ないらしいのだが、実際は百人前ほど入ってしまう。

 ただ、昔百人前食っていたときは三十分ほど掛けていた記憶がある。

 つまり、今回少なくとも六十人前はあるこのパフェを食べるに当たって前回と同じスピードではギリギリ間に合わないのだ。

「じゃあ、準備はいいね? よーい、スタート!」

 店員の掛け声によって食べ始める。


 ――十五分後。


「そこまで! 残念だったね。あと一口だったのに」

 店員の嬉しそうに笑う顔が腹立たしくてならない。

「くっ、なんて強敵……わたしには、わたしには倒せない」

 うなだれる月夜の頭を軽くはたき、俺は怒鳴る。

「おい! 百五十万だぞ! どうしてくれるんだよ! なあ!」

「えっと……大八木を倒して一億を手に入れて一気にプラスにするしか」

 目を泳がせながら月夜は言った。

「お前な、今現在百五十万も持ってるわけ無いだろ!」

「お客さん、それは困りますね。うち、現金しか受け取れないんですよ」

「……下ろしてきてもいいですか?」

「どうぞどうぞ、代わりにこの子はここにおいていってくださいね」

「はい……」

 ニコニコと笑う店長と思しき男の顔を俺は一生忘れることは無いだろう。

 

「月夜、やれるんだろうな」

「もちろんです」

 あれから俺は大金を払い、現在は月夜に動き回っても吐くことが無いかの確認をしている最中である。

「絶対に大八木殺すからな」

「ええ、もちろんです」

 今回の大損害は今日の大きな利益で取り返してやる。

「行くぞ」

「はい」

 俺は事前に作らせていた月夜特製の日本刀を握りなおし、検問所のようになっている入り口の前に姿を現す。

「貴様! 何者だ!」

 入り口に立つ兵士がそう口にした。

 しかし俺は一言も言葉を返さずに兵士の首を落とした。

「ひぃっ」

 隣にいた兵士は隣で首だけをなくしたまま立ち尽くしている男を見るや否や、そんな情けない声をあげ、地を這って逃げだした。きっと腰でも抜けたのだろう。

 これで突入には成功。

「ふう、やっぱりこれで正解だったな」

「そうですか?」

「ああ、この方がある程度体も温まるし、張り詰めた緊張感のままあいつの前に立てればいくらかはマシだろうし」

「まあ、わたしたちの体力は奪われますけどね」

「仕方ないだろ」

 どうやらもう次の兵士たちが続々と集まってきた。

 月夜は自らの手に日本刀と回転式拳銃を作り出し、準備完了の意を俺に伝える。

 俺も自らの手に握った日本刀の感触を確かめ、もう片方の手に魔術を即座に出せるよう、意識を集中する。

「遠慮するな」

「そちらこそ」

 俺たちは言い合い、遠慮なんて一切なしに次から次へと溢れてくる兵士たちを切り倒し、打ち倒し、焼き焦がした。

 俺たちにとってここまではウォーミングアップでしかない。出てきたのは魔術なんて物を使えないただの兵士たちだ。

 そろそろ魔術を使う兵士が出てきてもおかしくは無い。

「魔術兵!」

 月夜が叫んだ。

 どうやら魔術師が出てきたらしい。

 そんな俺の思考を妨げるかのように、遠慮無しの魔術が降り注ぐ。そして同時に一般兵の弾丸までもが襲ってくる。

 おれは土で壁を作り出し、月夜は分厚い鉄板を作り出し、お互いに敵の攻撃を防ぎきる。そしてその二つの壁が崩れるのと同時に俺たちは駆け出した。

 銃弾をかわし、斬撃を受けとめ、魔術を相殺する。

 そして敵を屍に変えて進んで行く。

「ふぅ、これで大方終わりましたね」

「そうだな。そろそろ奴が出てくることを祈ろうぜ」

「祈ってくれなくても出て行くぜェ、心配すんなよォ」

 大八木は口角を持ち上げ実に楽しそうに笑いながら登場した。

 あのときのような圧力も恐怖も感じない。これはきっと向こうが意図してやっているんだろう。つまり、今はまだ殺しあう気など無いのだ。

「いやァ、ホントに来るなんて思ってなかったぜェ。お前らがあの女見捨てて逃げ出して、あの女は絶望の底に叩き落され、オレ様があの女をいたぶりながら殺す。なんてシナリオを考えてたんだけどよォ、台無しだぜェ、責任とってくれんだろうなァ」

「……」

「はァ、また無視かよ。オレ様悲しいぜェ」

 大八木は実に楽しそうに話している。

 何が楽しい?

 この状況のどこが楽しい?

 自分の部下が死んで、自分が死ぬかもしれないというのにどうして笑う。

「まあ、オレ様はお前たちが無口だってことは知ってるからよォ、前回みたいには怒らないんだ。ちょっとは感謝してくれよォ?」

 新しいおもちゃを見つけた子供のように笑う大八木を見ていると、背筋に嫌なものが這う感覚が俺を襲う。

「でよォ、オレ様は考えたんだ。なにをしたら楽しいかってなァ、そしたらやっぱり殺しあうのが面白ェに違いねェと思ったわけだ。だーかーらー、オレ様はお前たちと殺しあいてェ。つゥかころーす」

 大八木は更に口角を持ち上げた。その粘っこく邪悪で嫌悪感しかもたらさない笑顔を俺たちに向けると、地を蹴った。

「始まりだァァァ!」

 最大限低い姿勢で俺たちとの距離を詰めた大八木は、姿勢を戻すと同時に足を蹴り上げ、俺の顎を砕かんとつま先が迫り来る。しかしそれを危なげなく避けた俺は、何の属性も威力も持たない魔力の塊を前方で足を蹴り上げたばかりの大八木に叩き込み、姿勢を崩させる。そして後ろに回りこんでいた月夜の斬撃が大八木を見舞う。

 しかし、大八木が月夜の持つ刀の腹に打ち込んだ手刀によって中ほどから真っ二つにされ、一切の傷を負わせることなく終わってしまう。

「いいねェ、最高だァ」

 大八木は心の底から楽しそうにそんなことを言った。

 こいつまだこの状況を楽しんでるのか?

 ふざけるな、こっちは体が震えそうなのを我慢してここまで来たってのによ。

「もっと楽しませてくれよォ」

 本当にこいつは俺たちと遊んでいるつもりなのだろう。ならば今のうちにケリをつけてしまいたい。こいつがキレでもしたらその瞬間に勝てるチャンスを失う。と同時にこの世に生きていられる時間も奪われる。

 月夜も俺と同じことを考えたのだろう。月夜はその手に握られた回転式拳銃に込められた六発の弾丸を全て大八木に向けて放出した。

 六発の発砲音が耳に届くと同時に、俺は大八木に電撃を放つ。

 放たれた弾丸は、急激な軌道修正が施され、大八木に当たる直前で九十度方向を下に変え、大八木の足元に六つの穴を開けた。そして俺の手から放たれた電撃は、同じく大八木によって放たれた電撃と相殺し合い、そのエネルギーを宙へと散らした。

「オレ様から攻撃をさせてもらってもいいんだよなァ」

「いいわけねぇだろ」

「やっと喋ったなァ、ガキィ」

「喋らないほうが良かったか?」

「いいや、喋ってくれたほうがいいぜェ。オレ様はこう見えても寂しいの苦手でなァ」

「そうかい」

「覚えておいてくれェ、今日死んじまうけどよォ」

 ククッ、と喉を鳴らし大八木は右手を俺の顔面めがけ突き出す。しかし俺はその右手を自分の右手で受け止める。

 ただ受け止めるだけではもちろん無い。

 直前で右腕に魔力を掻き集め、大八木の右手に触れたそのタイミングで魔力を炎へと変換する。

「っちーなァ!」

 大八木は驚くべき速さで左腕に水を纏わせ俺の鼻と口を塞いだ。

 ただ塞がれるだけでも苦しいってのにそれを水でやるとか酷いな。このままだと意識が飛んじまう。

 薄っすらと視界が赤く滲みだしたとき、俺の首筋をかすめながら一本の刀が出現し、大八木の手首めがけて直進する。

「チッ」

 舌打ちをしながらも自分の手を惜しんで俺から距離をとった。

「ナイス」

「いえいえ」

 短く俺と月夜は言葉を交わす。

「オレ様少しだけ手を抜くのを止めてやることにしてやるよォ。そのほうがお前たちも本気になれるだろォ、必死に、死に物狂いで、全力で、全身全霊をかけて戦えるだろ。なァ」

 大八木は言うと本当に少しであったがあのときのような空気を身に纏う。空気中に大量の電気が漂っているかと錯覚をしてしまうほどに全身の産毛が逆立ち、肌を刺激する。

「じゃあ、第二ラウンド開始だなァ」

 あとなんラウンドあるんだよ。

 俺のそんな声が届くわけも無く、大八木は俺の目の前から忽然と姿を消した。

 周囲を見渡してもその姿などどこにも見えない。

「ガキィ、世界には空があるんだぜェ」

 そんな声は空から降ってきた。俺たちを見下ろすように、押さえつけるように、空から降ってきた。

 恐る恐る顔を上げると、大八木は浮いていた。

 そしてまるでそこに床でも存在しているかのように歩いて見せた。

「ククッ驚いてやがるな。そんな風に驚く顔をもっと見せてくれよなァ」

 大八木は三十メートルほどの高さから、弾丸の如きスピードで落下してきた。足の先が向いているのはもちろん俺。

 気づいたらそこにいる。

 そんな言葉がとても似合う。落下したと思ったらその瞬間には目の前につま先があったのだから。

 人間の体で耐えてはいられないほどの速度だったはずだ。しかし、あの笑みを浮かべたまま俺の目の前に足を向けて見せた。

 この状況に驚かずに即座に対応できるほど俺は戦場に慣れ親しんではいない。

 だから動き出すのが遅れた。

 辛うじて急所への直撃は避けたが、左肩に直撃してしまう。その足は俺の肩を抉り取るように、そぎ落とすように、突き刺さりそのまま地面へと着地した。

 そして俺は数メートルも吹き飛ばされる。

 そう、着地したのだ。俺の肩に巨大な穴が開くかと思うほどの速度でぶつかってきておきながら、自らは砂煙一つ上げずに着地したのだ。重力が完全に消滅でもしていない限りそんなことは無理だろう。

 そして今起きた現象を実に冷静に、他人事のようにさえ思えるほどに冷静な俺だったが、起き上がろうと左手を地面につくと、

「いっっってぇぇぇぇぇ!」

 痛み。

 そんな言葉で例えてしまっていい物か?

 そんな風に疑問を抱かせるほどに痛かった。

 痛覚が二倍にも三倍にも膨れ上がっていて、余計に痛く感じているだけじゃないのか?

 そんな風に思考してしまうほどに痛かった。

 別に左肩から下が消えてなくなったわけではない。まあ、動かせないほどに痛いのだから、動かせないと言ってしまっても過言ではないかもしれないが、見た目には何も変わっちゃいない。

 別に穴が開いてるわけでもないし、ぐちゃぐちゃになっていて年齢制限がかかってしまいそうなほどにグロテスクということも無い。

 見た目は健常者のそれとなんら変わらない。

 ただ、異常に痛い。

 しかし、痛すぎて脳がそこの感覚を切り離そうとまでは至らないギリギリのライン。もし、これを狙ってやっているのだとしたら、大八木という人間はまさに悪魔と呼ぶに相応しい生き物だ。

「ああ、いっってぇぇぇなぁぁぁ!」

 喉が潰れてしまいそうなくらいに大声を出し、同時に右腕に魔力を総動員し、それを岩石へと変えながら大八木が背にしている施設に叩きつけた。

 俺が投げた岩石は轟音を立てながら施設を破壊していく。これで兵器の破壊は成功するだろう。ついでに伊勢も上手いこと逃げ出すに違いない。

 これで三分の二の仕事は完遂した。

 あとは大八木を殺すだけ。

「大丈夫ですか」

「大丈夫なわけないだろ」

 すぐさま駆け寄ってきた月夜の手を借りてどうにか立ち上がる。

「建物壊さないでくれよォ。結構金掛けたんだからなァ?」

というわけで、19話でした。

至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。

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