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ギフト  作者: 菓子の木
18/25

18話

 俺は今大塚さんがいると予想される刑務所までやってきた。

 きっと脱出したときに手を回していたんだから、こうしてここに来ることも分かっているんだろう。そして俺が易々と侵入できるようになっているにちがいない。

 ならば、

「正面突破でも仕掛けてやろうか」

 俺は壁に火球を叩きつけ、大穴を開ける。

 そして足を踏み入れる。

 が。

 なぜかそこにはきっちり整列した警察の関係者の方々であろう人たちが、敬礼をして俺を出迎えた。

 銃弾が飛び交うでも、魔術が暴れ狂うでも、血しぶきが跳び散るでもなく、ただただ俺に視線が集まっているだけ。

 それも俺に向けられる視線は一つとしてマイナスの感情が無い。

 なにこれ、新しい罠か何かですか?

 それとも、新しい罠か何かですか?

 結局罠なんでしょ。

「やあ、影千代君」

「大塚さんですか」

 大塚さんがずっと向こうからゆっくりと歩いてくる。

「これは一体どういう思惑が隠されてるんですかね」

 未だ敬礼をしたままの人たちに視線をやりながら言う。

「いや、一切思惑なんてものは無いよ。みんな君に期待しているだけだ」

「期待?」

「そうさ、期待だよ」

「俺に何を期待するって言うんです」

「大八木の暗殺だよ。まあこの際暗殺でなくてもいいんだけどね」

「どうしてこの人たちが俺にそんなことを期待するんですか」

「君だって元は自衛隊の一人だろ、なら知ってるはずだよ」

「ん?」

「聞いた事は無いかな、毎月十何人かが特殊な部隊に引き抜かれているって噂」

「ええ、そんな噂もあったかもしれませんね」

 正直、自衛隊にいたのはほんの一瞬だったから覚えちゃいないが、きっとそんな噂があるのだろう。

「引き抜かれた人たちは大八木の元へと行くんだ」

「それで?」

 その俺の言葉を聞くと同時に今まで敬礼をしていた人たちが、俺に向けて殺意のこもった視線を持って俺を見るようになった。

 大塚さんがいなければ一人二人は俺に飛び掛っていただろう。

「その人たちがどうなったと思う」

「兵隊にでもなったんですかね」

「屍になったんだよ」

 大塚さんは今までと同じ柔らかな口調で言ったが、明らかに目が死んでいる。気力が無くなってのものとは違う、怒りと恨みとが大量に練りこまれた目。いざとなれば人ぐらい遠慮もなしに惨たらしく殺してしまえるような目をしている。

 大八木はすぐさまに死を感じられたが、この人にはまったく感じない。確かに怖い目をして入るが、まあそこまでのお話だ。

 たぶんこの人に本当の恐怖を抱くのはこの人によって殺されたそのときだけだろう。殺されたことを理解してから恐怖が遅れてやってくる気がする。

 それを想像するするとかなり怖い気がする。

「彼らは大八木の実験動物になったか、才能に溢れる兵士の人形として人を殺す練習にでも使われたんだろう。そしてここにいるのは命からがらそこから逃げ出したもの、友人や恋人、家族を殺されたものたちだ。もちろん僕もね」

 この唐突な話に俺はどんな言葉を返すべきなのか迷っている。というか、言葉が浮かんでこない。

「出来ることなら僕たちの手で大八木を葬ってやりたいところなんだけど、僕たちはそう簡単に動けないんだよ。だから自由に動ける君にみんな期待してるんだ」

「そんなこと言われたって……」

 期待するのは自由だが、いくら期待されてもあの男の正面に立って叩き潰そうなんてのは俺には難しいお話だ。

 出来ることなら国内外の実力のあるギフト所持者に頼んでくれ。

 あれは俺の手に負えない。

「影千代君安心して欲しい。僕たちだって無能じゃない、大八木を倒すための理由ぐらいは用意してある」

 その言葉が合図であったかのように女性が月夜を背負ってきた。月夜はぐったりとしていていつものように自由気ままなに動き出す様子は無い。

 明らかにおかしい。泣いて駆け寄ってくるなんてことは絶対にないと断言できるが、流石に反応すらしないというのはおかしい。

 眠らされているだけにしたって、実は寝言が凄い月夜の癖にまったく寝言を言い出さない。普段ならこんな人の背中なんて不安定な場所で寝ると確実に大声で騒ぎ出すというのに。

「何をした?」

「ただ眠ってるだけだよ。たぶんもうそろそろ起きるんじゃないかな」

「影千代さん、遅かったですね。待ちくたびれて食料を食べつくしてしまいましたよ」

 いつものように本当に寝ていたのか? と疑いたくなるほどの寝起きのよさで俺に挨拶をする。

「何もされてないか?」

「食事に毒を盛られていない限り何もされてないですよ」

「大塚さん、大丈夫なんでしょうね」

「影千代君、僕がなんて言って月夜ちゃんをここに呼んだか覚えてるかい」

『影千代君安心して欲しい。僕たちだって無能じゃない、大八木を倒すための理由ぐらいは用意してある』

 そう言って月夜が運び込まれてきたはずだ。

「――っ!」

 ここに来てなんとなくではあるが今がどういう状況なのか理解する。

 きっと月夜には毒でも盛られたんだろう。それも一定の期間はまったく体に影響が無く、ある日突然ぽっくりと死んでしまうようなそんな都合のいい毒。そしてその期間以内に大八木を倒せたら解毒薬を貰える。

 そんな条件で、俺が絶対に大八木の下へ行かないと行けない状況を作ったんだろう。

「なるほど」

「大体のことは分かったのかな? 理解が早くて助かるよ」

「当たっているとは思いたくないですけどね」

「じゃあ僕の言いたいことも分かるよね?」

「あいつのところにもう一度いってこい、と言いたいんですよね」

「その通りだよ。君は本当に頭がいいみたいだね、じゃあこれから取るべき行動は分かるよね?」

 少し威圧的で、高圧的な雰囲気を持っているのは気のせいではないだろう。

「分かっているつもりですよ」

 月夜を受け取って素直に自宅に帰って、翌日にでも大八木の下にでも行けばいいんだろう。

「ちなみに、期限は?」

「あと四日だね」

 偶然にしちゃ出来すぎじゃないか?

 伊勢に残された時間もあと四日のはずだ。

 いやまあ偶然だろうと必然だろうとどっちだって言いが、なんにせよ俺はあと四日以内に大八木を殺してこないといけないらしい。

 正直悪人を殺すということ自体は大して躊躇も無いし、怖くも無い。今までも仕事として何度もやってきたことだ。

 ただ、相手があいつだ。

 圧倒的な問題として『殺される』というなかなかに面倒な恐怖心を抱かずにはいられない。といかあいつのことを考えるだけで若干足がすくむ。

 そんな状態の俺にあいつを殺せるのか?

 もちろん殺すだけの理由は揃ってしまっている。

 月夜の死。

 伊勢の死。

 この二つを回避するのには絶対にあいつを倒さないといけない。殺さないといけない。いや、伊勢だけならば隙を作って逃がせばそれでいい。ただ、月夜はあいつを殺さなければ助からない。

「じゃあ影千代君頼んだよ」

「はい……」

 そのまま俺は考え事に夢中になりながら月夜を連れ家に帰りついた。

 途中であれが食いたいこれが食いたいと騒いでいたが、完全に無視してやった。いや、俺のこの決断は仕方なかったんだ。なにせどれも高そうな店ばかりだったからな、このマナーなんてものをこれっぽっちも知らない月夜を連れて行ったら大量の料理を腹の中へと流し込んでいって、俺の財布と店の食材を全て消し去ってしまうに違いない。

「月夜、俺風呂入ってくる」

 家について早々に俺はそう言う。

「はい」

 そんな声が聞こえてくるのを確認した。

 さて、湯船にでも浸かりながらゆっくりと考えを煮詰めることとしますかな。

 さっと体を流し、暖かいお湯の張った湯船に浸かる。

「ふぅぅぅ」

 なかなかに大きなため息だ。

 まあ仕方ないだろう。なにせあと四日で二人の命が消え去るのだ。しかもそれを阻止できるのは俺だけ。

「なんだよ、この出来損ないの王道漫画みたいな展開。俺には荷が重過ぎる」

 それでもやらなければならないんだけど。

 まあこんな事をうじうじと考えていたって仕方が無い。なんだって時間の猶予が恐ろしくないからな。

 俺よ、よく考えろ。卑怯でいい、ずるくていい。ただ、あの男を葬ることさえ出来れば。

 眠り薬でも飲ませて眠っている間に殺すか?

「却下」

 潜入するのに時間がかかりすぎる。

 じゃあ自宅に帰るところを襲うか? 俺がやられたみたく。

「却下」

 街中でそんなことをしたら一般市民にどれだけの犠牲者が出るか分からない。

 となればあの施設ごと盛大に葬ってしまうというのはいかがだろうか。

「却下」

 どうせ防がれて終わりだ。相手はギフト所持者だぞ? いくらなんでも馬鹿にしすぎだ。

 ……、……。

 長距離からの狙撃、とかどうよ。月夜特製の、アンチマテリアルライフルでも使えば人間如き吹き飛ぶんじゃなかろうか。

「却下」

 うん、普通に却下だ。

 俺にそんな長距離からの狙撃能力はない。

「影千代さん、入りますね」

「んー」

 どうするかなー。

 結構重要なことだからな、出来るだけ確実なものを選びたい。

「影千代さん、なにを考えているんですか」

「大八木を殺す方法」

「正面突破に限ると思います」

「危険すぎる却下」

「下手な手を打つよりいいですって。注意がこっちに向けば彩の逃げ出す隙が生まれますし」

「そうは言ってもなー」

「最終的に直接殴りあうならこれが一番です」

「…………」

「どうしました?」

「…………」

「影千代さん、急にわたしに背中を向けて壁を見つめださないで、さっきみたいに膝の上に乗せてくださいよ」

「出てけ」

 いつ入ってきてたんだよ、まったく気づかなかったぞ。しかも気づいたときには俺の膝の上に座ってるしさ。

「何でですか」

「いいから早く出て行けよ」

「別に恥ずかしがらなくていいですよ、わたしはスク水着用してますから」

 紺色のスクールス水着を着用していたのは俺も確認していた。それもしっかりと胸元に『つきよ』と平仮名の名札をはっつけたやつ。

「俺は全裸なんだよ」

「気にしませんよ」

「俺が気にするんだ」

「でもわたしは気にしません」

 そう言って月夜は俺の背中に自分の背中を重ねた。

「影千代さん、思い切って明日決行しましょうよ」

「準備できないから無理だ」

「ろくに作戦も立てていないくせに何言ってるんですか」

「五月蝿いな、今考えてるんだよ」

「そんなことせずに、正面から突っ込んでいけばいいんですよ」

「それは出来ない」

「どうしてですか」

「俺もお前もついでに伊勢までも死んじゃうだろ」

「ついでは可愛そうです」

「じゃあお前がついででいいか?」

「ついでは影千代さんです」

「酷いな」

「お互い様です」

 お互いに少し笑い声が漏れたあと、月夜が呟いた。

「明日決行です」

というわけで、18話でした。

至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。

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