16話
『ボッ』
一つ炎が宙を舞う。
『ボッボッボッ』
更に三つ炎が宙を舞う。
『ボッボッボッボッボッ』
続けざまに五つの炎が宙を舞う。
舞った炎たちは足並みをそろえて一人のギフトの周りを囲む。
「なんのつもりですか」
まだ朝靄がかかる時間に僕は一人のギフトを前にする。
「君には誘拐されてもらう」
「かっ――」
僕の目の前に立つギフト、月夜ちゃんは主人である影千代君のことを呼ぼうとしたが、僕がその喉元に十手を突き立てることで強制的に声を出せないようにする。
「もし大声を上げれば、このまま僕の十手が君の喉に穴を開けるよ」
僕は手に握った十手の懐かしい感覚に少し頬を緩ませて言葉を続ける。
「じゃあ、一旦眠ってもらおうか」
十手の柄の部分で首をトンと叩き、気を失わせる。
「久々の仕事がこんな小娘相手とは……」
「文句を言わないでくれよ」
僕は苦笑いしながら頭の上に乗っている九尾の頭を優しく撫でる。
頭の上で九尾が満足そうにあくびをしたあと、月夜ちゃんを抱え上げ、この場から一先ず離れるために移動を開始した。
「君はここまでだな」
とある場所で車を止め、僕のギフトである九尾を預ける。
「次の仕事は何年後になるのやら」
「我慢してくれよ、頑張って時間作って会いに行ってるんだからそれで許してくれないかそれに、運転中にもかかわらず頭に乗せてあげてたんだから」
「次会いに来るときにはちゃんと土産を持ってきてくれるか」
「持っていくよ」
まったく、わがままな狐様だな。
わがままな狐になんらかの土産を約束し、そのまま月夜ちゃんを目的の場所に運搬する。
「さてと、とりあえずこの子を運ぶかな」
僕はぐっすりと寝ている月夜ちゃんの手に、伊勢さんと同じ腕輪を付ける。これで能力は押さえ込めるはずだ。そして、抱えて部屋の中に運びこむ。
部屋といっても仕事場の僕の部屋でしかないことは言うまでも無いだろう。
さあ、次はこの子と話し合いか、なんだか気が重い。
「ああ、山田君。大量の食べ物を用意しておいてくれるかな。十人前は必要になると思うけど、頼むよ」
「了解しました」
山田君はそう言って厨房へと駆け足に向かった。
「ご飯ですか、ではいただきましょう」
すっと音も無く立ち上がった月夜ちゃんはそう言う。
「月夜ちゃん、あまり急に起き上がらないでくれるかな。僕の心臓に悪いから」
「その割には驚いてないですね」
「それはそういう風に見えるだけで、実際はとても驚いているんだ」
「まあそういうことならいいです。影千代さんのように、笑いを生んでくれそうにもないですし」
「僕にそれを求めるのは間違いだね」
「で、なんでこんな事をしたんですか」
「影千代君にもう一度大八木の前に立ってもらいたくてね」
「それでわたしを誘拐したんですか?」
「そうだよ」
これで少なくとも行動は起こしてくれるだろう。後はそれをどうやって大八木を倒すという方向に向けるか、ってところか。
「それだけで影千代さんはホイホイと動きませんよ」
「どうかな?」
ギフト所持者にとってギフトというのは半身のようなものだ。それが無くなって焦らないわけが無い。
それもこの二人ならよりそんな気がする。
「ところでご飯はどこですか」
「今作っているところだよ」
「どうせ冷凍のものなのにどうして時間がかかるんですか」
「冷凍のものだったとしても、温めるのに時間がかかるからね」
「じゃあパンの耳でいいから下さい」
「僕に言われてもなあ」
「じゃあ誰に言えばいいのです」
「山田君に頼んであるから山田君に聞いてみるのがいいかな」
「じゃあその山田を呼んでください」
「山田君今料理をしていると思うよ」
「なら様子を見てきてください」
「僕が君から目を離すわけにはいかないからね」
「なら連れて行ってください」
「君をここから出すわけにはいかないんだ」
「大人が子供を苛めていいんですか」
ムスッとした表情でそんなことを言っているが、子供の姿をした別の者だからね。それに、
「君は脱獄犯だろ」
「それを言い出したら、犯罪者の逃亡を手助けしたあなたも犯罪者です」
「それでもちゃんと捕まえたからそれぐらいはチャラじゃないかな」
「ズルイです」
こんな子を相手に日々を過ごしている影千代君は尊敬に値するよ。僕じゃ一日でもきつそうだ。
「僕に言われても困るな」
「大人はのらりくらりと問題を回避してばかりでズルイです」
「それこそ僕だけに言われても困るかな」
「山田が料理を運んでこないせいで空腹に殺されそうです」
「それも我慢してもらうしか……」
「お菓子ぐらい無いんですか」
「残念だけど」
「まったくお菓子も常備していないくせにわたしを誘拐するなんて生意気ですね」
「申し訳ない」
なんで僕が責められてるんだ。
確かに誘拐したことに関しては責められても仕方ないけど、なぜ問題が摩り替えられているんだろう。
「月夜ちゃん、一つしかないけどこれならあるよ」
僕はポケットに仕込んであった飴を月夜ちゃんに差し出す。
「飴ですか、仕方ないですね。わたしからしてみれば、呑むものですがこの際仕方ありません、ちゃんと舐めましょう」
「まあもう少しで食事の準備も整うはずだから」
「そうですか」
幸せそうに飴を舐めながらそう答えた月夜ちゃんに一つ質問をする。
「影千代君はもう起きているのかな?」
「ええ、起きているはずです」
「ありがとう」
僕はここで一度言葉を区切り、少しの間を空けて新たな言葉を口にする。
「それと君にお願いがあるんだ」
「なんでしょう?」
月夜ちゃんは可愛らしく首をかしげた。
というわけで、16話でした。
至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。




