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ギフト  作者: 菓子の木
15/25

15話

 俺は昨日から何もせずに何も思わずに過ごしている。

 月夜はといえば今朝から忙しなく駆け回っている。何をしているのかはまったくの謎だが、まあ興味もないし別にいいだろう。

「影千代さん」

 月夜が俺の部屋へと入ってきた。

 今日もいつものようにかまぼこを置いていくのだろうか。

「影千代さん」

「ん」

「ちょっと来てください」

「嫌だ」

「早く来て下さい」

「嫌だ」

「黙ってついて来て下さい」

 そう言って月夜は俺の頭を殴った。

「……分かったよ」

 しぶしぶ付いて行くと、月夜は俺に鋸を手渡しこう言った。

「この家を解体してください」

「はい……はい!?」

「さあ、早くやっちゃってください」

「いやいやいや、待てよ。なんで解体なんかしなきゃならないんだよ!」

「彩がいないうちにやっちゃうんですよ」

「家主の許可ぐらい取らなきゃダメだろ」

「大塚さんの許可は取っておきました」

「伊勢の許可はどうするんだよ」

「たぶん許してくれます」

 こいつなに言ってんだよ。なんで壊さなきゃならないんだよ。馬鹿じゃないのか、いやこいつは馬鹿だけど、それにしたってそこまでする馬鹿じゃないだろ。

「安心してください。影千代さんが解体したこの家を食べて建て替えるだけです」

「おい、そんなことしたら俺の血液が……」

「今日まで影千代さんが眠るのを待って少しずつ血を集めておきましたから、少し目眩がする程度で済むはずですよ」

 それって結構な危機じゃないの、俺の生命の危険が迫ってるんじゃないの!

「さあ、早くやってしまってください」

「お前俺を殺そうとしてないか」

「何を言っているんですか。わたしが影千代さんを殺すわけがないでしょう、わたしたちは亀山くんと右京さんと同じ相棒なんですよ」

「お、おう」

 なぜに相棒で例えたし。しかも最初のコンビ、俺のあの二人が好きだけど別に二人ほどいたよね。

「じゃあ、やっちゃってください」

「あのー、全部鋸で?」

「嫌なら爆弾が残ってますよ」

「あーうん、自分でやるわ」

 流石に爆弾という選択肢は無いわ。無理だって、絶対無理、巻き込まれたら死んじゃうからね、たぶん見るに耐えない姿になってると思うよ。

「それにしたって手動でこれは無理があるな」

 魔術的なものを使ってしまうか。

 炎は絶対厳禁だから、水で壊していくか。

 俺は鋸に水をまとわせ、それをとにかく振り回す。これが案外切れるもので、三十分もしないうちに家は木片や鉄片になっていた。

 まあもちろん俺は疲れきって今にも倒れてしまいそうだが。

 この野郎、このために鋸を買ったのか。自分で作れよ。

「じゃあここからはわたしの番ですね任せてください」

 月夜はそう言うと、手当たり次第に口の中に家の破片たちを放り込んでいく。もちろん冷蔵庫をはじめとする様々な家電は一時的に道路に置いてある。ここにはネズミ一つ迷い込んでこない仕様のため、たとえ道路を塞いでしまおうが知ったこっちゃ無いのである。

「それにしても凄い食いっぷりだな」

 胃が直接ブラックホールか何かに繋がっているようなきがしてならない。俺がそんなことを暢気に思いながら眺めていると、月夜が全てを食べつくす。

「じゃあ、血を下さい」

「いや用意してあるんだよな?」

「嘘です。頂いた血は半分食料として、もう半分は既に飲んであります」

「つまり、俺は本当に気を失いかねないレベルで血をお前に与えないといけないんだな」

「そうなります」

「お前今晩はレタス一玉だけな。俺は血を作るために肉とか食うけど、お前レタスだけな」

「影千代さん」

 上目遣いに俺を見て月夜は心の底からのものであろうお願いを口にした。

「かまぼこを追加して欲しいのですが」

「それならまあ、良し」

「影千代さん、屈んでください」

 俺は月夜のことに従い、姿勢を低くする。

 そして俺の首筋に牙が侵入してくるのを感じながら俺は思う。こいつかまぼこ好き過ぎるだろ。

「あー月夜もうそろそろどうかな? なんか俺軽く目眩がしてるんだけど」

「そうですか、じゃあもう終わりで大丈夫です。もう少しおやつを楽しみたかったですが」

「お前余計に吸ってたんだな!」

 大きな声を出した途端に頭が痛くなる。

「影千代さん、大きな声は出さないほうがいいですよ、静かに落ち着いて。これが大事ですから」

 お前に言われなくたって分かってるよ。

 まあいい、流石に大声を上げられるほど俺の体は元気ではないらしいからな、ちょっと家が完成するのを眺めて待っていようか。

「じゃ、あとは頼んだ」

「合点承知です」

 月夜はメモ帳のようなものに、何かを書きなぐっている。設計図かなにかだろうか? それにしてもこいつは楽しそうだな。いつでもどこでも笑っている気がする。

 俺はまどろみの中で月夜に声を掛けた。

「なあ月夜」

「何ですか」

「お前に怖いものってあるのか」

「ありますよ」

「例えばなんだよ」

「ピエロは初めて見たときは驚きましたね、今でも急にピエロが現れると驚きますよ。他にも食べ物が世界から消えちゃうのも怖いですね」

「なんだよ、そんなんばっかりか。お前らしいけどさ」

「他にもありますよ。一人になるのは怖いです。わたしがこの世に存在してからすぐに影千代さんに会ってますからね、一人になったことが無いんですよ。だから怖いです」

 月夜は俺に背を向けて言った。

 そういえばそうだったな。

 新米隊員の俺が、新米妖怪の月夜に出会ったんだったな。

「そうか」

「そうです」

というわけで、15話でした。

至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。

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