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ギフト  作者: 菓子の木
11/25

11話

「はあ」

 昨日は月夜で今日は俺かよ。

 俺はまったく眠くならないという非常事態をどうにかするため、なんとなく夜風に当たりに外に出ている。

 けど眠くはならない。

 いや、一瞬だけ夢の世界に落ちることが出来たが、残念ながらかまぼこに追いかけられるという悪夢によって即座に起こされてしまい、それ以降まったく眠くならない。

 かまぼこに追われる夢とかどんな悪夢だよ。

「明日は月夜が騒ぎ出さないことを祈ってるしかないな」

 そうすればきっとかまぼこの悪夢もどうにかなるはずだ。いや、どうにかなってもらわなきゃ困る。

 毎晩あの夢にうなされるなんて考えただけで泣けてくる。

「影千代君、なににしてるの?」

 後ろから伊勢の声が飛んできた。

 お前も眠れなかったのか?

「今日は俺が眠れなくてね」

「何か悩んでるのかな? おねぇさんが相談に乗ってあげよう」

「歳一つしか変わらないだろ」

「それでも、おねぇさんであることには変わりないんだよ」

「ついでに、相談に対して返ってくる答えが、どうしようもなくためにならない気がしてならないんだよ」

「それは酷くない? 一つぐらいまともな答えを期待しようよ」

「いや、一つだってまともな答えが返ってくるとは思えないな」

「じゃあ試しになにか相談してみてよ」

 いいだろう、やってやろう。

 そしてお前が相談相手として如何に能力不足かを思い知らせてやる。

「かまぼこに追いかけられる悪夢を見ました、どうすればいいでしょうか?」

「ふふ、えーっと、そのー、月夜ちゃんに、その夢を食べてもらったら……」

 こいつ、絶対に笑いを堪えてるな、ふざけんなよ。しかもなんだよ、月夜に食ってもらえって、あいつは獏じゃないんだぞ。あいつが食えるのは形があるものだけだ。

「ぷっ……あっははははは、無理、もう無理、なにそれ、かまぼこに追いかけられる悪夢って、凄く可愛いじゃん」

 目じりに涙をため、腹を抱えながら大笑いした。

「そこまで笑うことはないだろ」

「だって、かまぼこだよ? かまぼこ」

「あのな、実際追いかけられてみろよ、子供の頃ピエロが微笑みかけてきたときの恐ろしい記憶が蘇るぞ」

 顔が真っ白で赤いアフロで鼻がでかいおじさん。

 なんて恐怖の化身に微笑みかけられて、風船を渡されたときの恐怖は色あせることなく残ってるからな、流石に今怖がることはないとはいえ、あれは今まで生きてきて一番の恐怖体験だった。

「ピエロって、ピエロ怖かったの?」

「お前だって怖かったろ? ピエロ」

「これっぽっちも怖くなかったよ」

「……へーソウナンデスカ」

 こいつは人の子じゃない。

 ピエロが怖くない子供なんてこの世に存在しないんだから。一度はあいつに泣かされて成長していくんだよ、子供ってのは。

 それを経験していないやつらはみんな人間じゃない。

 これは絶対。

 この法則に当てはまらないやつは、一度ピエロに泣かされてから人間を名乗って欲しいもんだ。別にサーカスにいるようなのじゃなくても、某ハンバーガーショップにいる奴を見て泣いたっていいんだから簡単なはずだ。

「ほらな、まともな答えが返ってこなかったろ。それどころか笑われて終わりだったしな」

「流石にこんな悩み相談は受け付けてないよ」

「やっぱりお前に悩み相談はしちゃいけなかっただろ」

「だから、かまぼこに追いかけられる夢の相談なんてされても困るよ」

「じゃあどんな相談なら自信があるんだよ」

「恋愛相談?」

 なぜ疑問系なのかとてもとても気になるが、仕方ない。

「恋愛する相手がいないから無理だな」

 うん、無理だったわ。

「ここにいるじゃない」

 ん?

 えーっと、ここにいる、ここにいる、ここにいる……。

「ああ、月夜ね。あいつは駄目だろ」

 あんな銀髪幼女に興味はないし、そもそも人じゃないし。

「なんで!? どうしてそうなっちゃった? 今の絶対わたしでしょ、むしろ今のでどうして月夜ちゃんが出てきたの?」

「いや、恋愛相談をする相手に恋してるってのはおかしいかと思って」

「ああそういうことね、うんそれならいいや。てっきり捻くれた性癖を持っているのかと心配になっちゃったよ。じゃあ、他の相談をしてよ」

 まったく、どうして一人で慌ててるんだよ

 やっぱり、ピエロで泣いてないとこういうときに大人の対応が出来ないんだな。ピエロには感謝してもしきれないな。

 それにしても他の相談か、別に悩んでることなんてないんだけどな。

「ピエロで泣いたことのない子供ってなんなんでしょうか?」

「ただ怖くなかっただけだと思うよ」

「いや、だからな、子供ってのは一回ピエロに泣かされて大人になっていくんだよ」

「怖くない子供もいるよ」

「なんで分からないかな、ピエロに泣かされるとそれから大抵のことには対応できるようになるんだよ」

「むしろその理論のほうが良く分からないんだけど」

「お前ほんとに人間か?」

「人間だよ、どこからどう見ても人間でしょ?」

「とか何とか言って実は全然違う生き物なんだろ?」

「いやいや人間だよ、世界に溢れかえってる人間だよ」

「またまたー」

「影千代君、残念だけど世界にはピエロで泣かない子供が一杯いるんだよ」

 伊勢は俺の肩を持ち、しっかりと俺と視線を合わせてからそう言った。

 へ、へぇーそうなんだ。

 へぇー……。

「これでわたしが相談相手として優秀だと分かったでしょ」

「クッソ、ピエロ、ピエロだぞ」

「おーい。聞いてる?」

 何か聞こえるがまあいい、それよりもだ。

「ピエロが怖くない人間なんている訳ないだろ、あの恐怖の化身に恐怖を抱かないとか、もうそれ人間じゃねぇよ」

「じゃあわたし寝るね」

「え、ああ、お休み」

「お休み」

 さて、じゃあ俺も寝るか。

「それにしてもピエロが怖くないやつは病院に行くべきだよな」

というわけで、11話でした。

至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。

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