少女は願い続けた。
※少年は願い、少女は求めるの第5弾。千歳の転生体。
とてもとても悲しい前世の記憶がある。
大切で、大好きで、守りたくて、血の繋がらない家族のように思っていた少女を殺してしまった記憶。直接手をかけたわけではないけれども、追い詰めてしまった記憶。
その大切な少女の妹は異常な能力を持っていた。
大切だった子を、由菜を追い詰めてしまった私と隼人は死後神と名乗る胡散臭いおじいさんにあった。私たちが哀れだから転生させてやると、もう二度と間違わないように能力をくれると。
正直私は、私たちが哀れだと思うのならばどうして由菜が知る前に何かしら行動をしてくれなかったのだと思った。神様ってものが本当に居たとしてどうしてあれだけの異常な状況で何もしてくれなかったのかと。
記憶をもったまま、生まれ変わった私は、神を信じていない。神様なんて、本当に助けてほしい時助けてくれるわけではない。だけれども、私の生まれた旅芸人の一座は、神を信じていた。信仰しているのは、自由気ままな風の女神様だ。風の女神で有名なのは、フウレイという神様だが、私たちが信仰しているのはウィントと呼ばれる女神様だ。
実際はどうかわからないけれども、ウィントは忘れられた神であり、信仰の大半をフウレイという女神様に奪われてしまったのだというちょっと悲しい神様だ。
ウィント様を信仰している人の数は本当に少ないのだという。
「―――カルッサ、出番よ」
声をかけられ、私は舞台に立つ。
私は踊りと歌を披露する。でも主に踊りだ。私は歌よりも踊りの方が得意なのだ。
前世ではこういう特技なんてさっぱりなかった私だけれども、現世では幼い頃から芸を仕込まれたため、こういう事は大得意なのだ。
踊る。
歌を歌う。
そういう事をしながら生活する中で、私はどうしてもしたいことがあった。
それは、由菜と隼人に会う事。
だってあの胡散臭い神様は、二度と同じ事を起こさないように能力をくれるといった。もらった能力は前世でいうゲームの世界のようなステータスを見れるというものだ。
……恐らくこの能力をあの神様がくれたのは、陽菜の、あの忌々しい子の異常なものがなんなのかを知るためであり、これを使えばそういう異常な力をもっている事がわかるからだろう。
――私は、陽菜が嫌いだ。嫌いだった。前世でも、由菜を悲しませる陽菜なんて大嫌いだった。でも由菜の妹を無下に扱うのも駄目かなと優しくした。優しくしていたら、いつの間にか、由菜と陽菜が入れ替わっていた。本当に自然に。由菜は、恐らくその事実に一人異常だと感じていたのだと思う。
だからこそ、あの日――、由菜が陽菜にぶちまけてしまった日、あれだけの言葉を吐き出したのだ。全て取られてしまうって。取らないでって。由菜からすれば果てしない絶望だっただろう。大切だったものが全て陽菜に取られてしまう。私だってもしそんな状況になったら絶望する。
そして絶望した由菜を追い詰めたのは、紛れもなく私たちだった。
――だって私と隼人は、小学生に入学する前、絶対に由菜の味方だよっていったのに。由菜を悲しませる陽菜から由菜を守ろうってそう決意していたのに。それなのに―――……、変な力が働いていたにしろ、私たちは裏切った。由菜の事を。
会いたい。由菜に。あって、謝りたい。ごめんって。大好きだよって。
会いたい。隼人に。あって、一緒にまた歩みたい。由菜を探す仲間がほしい。
二人共きっと此処に居る。この世界に存在しているはず。
そして、おそらく、あの忌々しい陽菜も。多分居ると思う。ただの直感だけれども。
ああ、色々と考えことをしながら芸を披露するなんて私は旅芸人の一座の一人として失格かもしれない。だけれども、いつでもずっと考えてしまう。
転生してすぐは、すぐに会えるんじゃないかって期待していた。
だけれども転生して十二年、私も十二歳。
まだ、会えない。会いたいのに会えなくて、焦る。
夕暮れの時、祈りの時間がある。
私はそこで毎日、同じ事を願う。
『陽菜からあの忌々しい現象がなくなりますように。由菜が幸せになりますように』
『由菜と隼人にはやく出会えますように』
毎日、毎日、ずっと願う。
もしいるなら、叶えてください。ってそんな思いを込めて。とはいってもこれが叶えられるなんては欠片も思っていないけれども。それでも、陽菜がどうにかなればいい(不幸になって欲しい)、由菜が幸せになってほしい。二人にはやく会いたい。そういうものを本当に叶えばいいと思って。ただ絶対に叶えるって思いを込めて、祈ってた。
――不幸になってほしいなんて、性格の悪い願いだろうけれども。それでも由菜を不幸にした分、陽菜も不幸になればいいってそう願い続けていた。
―――旅をしながら、ずっと願い続けた先、本当にその願いが届いているなんてその時の私はこれっぽっちも考えて居なかった。そしてその願いを叶えようとしてくれた神様が居る事も、その神様が接触してくるまで全然思っても居なかった。
――少女は願い続けた。
(陽菜に不幸を、由菜に幸福を。二人に会えますように。ずっとずっと。祈るようになってからずっと毎日)
中途半端に終わってるので、はやめに続き書きます。
千歳は旅芸人の一座で生まれ、ずっと願い続けていたのです。