はじまりの時
青く白く――白く高く――
繰り返し引き戻され――押し寄せる浅波
波は記憶に似ている
いつまでも消えず
繰り返し戻ってくる
キラリキラリと視界を過ぎる
遠い昔においてきた記憶のピース
丸かったり尖がっていたり
硬かったり柔らかだったり
君の瞳に映る記憶のピース
大海にピースが落ちていく
ジグソーパズルが埋っていく
あと一ピースが足りないと君が言う
最後のピースを埋めたいと思ったから
僕は言った
「一緒に住もうよ」
風が君の髪から甘い香りを運んできた
笑顔と一緒に――
君の瞳に僕が映った
怯えた顔で少しだけ俯いて――
「そしたら何が変るの?」
僕は答えを持っているだろうか
この手は小さすぎて君を包みきれるだろうか
君を捉まえておくのは無理なんだろうか
君の待つ一ピースは
コバルトブルーの底に深く沈んだまま
僕はそのピースになれない
足元を波の名残が掠めていく
砂浜が闇に覆われはじめる
去年の冬もその前の冬も
二人で繰り返して眺めてきた光景
君は大海の底ばかり見つめていた
「この距離感が変ると思う」
海と空はいつだって混じりあっている
夜は闇のベールに
朝は明るいベールに
同じ色に染まりながら
僕らを纏う闇が濃さを増していく
着ているコートの色が闇に溶け込んで
少しだけ伝わる温もりが
互いの居場所を教えあっている
「距離感―……」
一度沈んだら二度と浮かんでこないと
君は知っているはず
僕もとっくの昔にそれを経験したから
失くした者は違うけど
その穴の大きさは知っている
声を出さず、ぽろっぽろっと
拳に雫を落とす君に恋をして
癒えるまで待ったんだ
「そっか、温かくなるんだ」
最後の一ピースが埋って
君と僕のパズルが完成