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0号〜峠雪  作者: すずみ
1/1

1速

このお話には、クルマに関する表記が数多く登場します。出来る限り説明を入れますが、知らない方には閲覧をお勧めしません。

 ¨1速〜テストと宿題¨




 ピピピ……ピピピ……ピピピ……

 規則正しく鳴り響く電子音。朝の始まりはいつも無機質だった。

 もう朝は肌寒い10月。男は布団にくるまり、目覚まし時計に急かされつつも、なかなか起きる事が出来ない。

 布団の中の彼、小林天人こばやしたかと、21歳。大学3年生で、アパートに一人暮らしである。

 若い男の一人暮らしで、きちんと時間通りに起きて朝御飯を食べ、前日から準備しておいた鞄を掴み、一駅歩けるくらいの余裕を持ちつつ家を出る──なんて芸当は、余程のしっかり者か、お手伝いメイドロボを所有していなければ到底出来ない。

 彼、小林天人もまたその例に漏れず、朝はいつもドタバタである。


「ああっ! もうこんな時間じゃないか!」


 天人は突然布団を蹴飛ばし、先程からしつこいくらいに警告を発していた功労者である目覚まし時計をひっ掴むと、責めるような口調で言った。

 目覚まし時計にしてみれば、切れかけな電池で必死に仕事をしているのに、理不尽もいい所だろう。

 しかし、遅刻寸前の学生はいつの時代も自分の寝坊を棚に上げ、理不尽に責任を他の事に転嫁するものなのである。

 そうこうしているうちに、天人は寝巻きを脱ぎ捨て、いつもの白いシンプルなパーカーとユーズド加工の薄青いジーンズに着替え、急いで荷物を準備する。


 彼が準備をしているうちに、彼について少し説明をしておこう。

 彼、小林天人は、親元を離れ、実家から遠い大学に通っている。9月に21歳になったばかりで、兄弟はいない。親から月10万の仕送りを受けているが、それにはほとんど手をつけず、貯金をし、この家賃2万9千円のボロアパートに住んでいる。

 家賃や光熱費、生活費はバイトの掛け持ちで捻出している、今時にしては素晴らしい若者である。 

 勉学にバイトに、毎日を多忙に過ごしているために、疲れ果てて眠ればなかなか起きられないのには同情の余地はある。

 サラサラした女の子のようなショートカットが似合う爽やかな顔立ちや、明るく屈託のない性格を持ちながらも、交友関係がほとんどないのは、その多忙さが原因になっているのだろう。

 誰とも関わらず、勉強とバイトだけの毎日。これが、現時点での、いつも寝癖を直せない小林天人の青春である。 


「今日の単位取らなかったら、またギリギリだよ! 急げー」


 こうしてまた、天人は寝癖を直せないまま、黒い合皮の鞄をひっ掴み、使い込んだ白のスニーカーの踵を踏みながら、部屋を飛び出していく。

 2階にある部屋から金属製の階段を半分ほど降りた時、天人は立ち止まり、ポケットをまさぐる。しばらくそうした後、あちゃー、と額を叩き、天人はまた自分の部屋へと引き返す。 部屋へ戻るなり、天人は何かを探すように視線を巡らせ、目的の物を探し当て、大事そうに握り締めた。それは、ホンダ車である事を意味する¨H¨マークが誇らしげに描かれた、天人の愛車のキーであった。

 天人は改めてキーに視線を移し、確認するように微笑む。これもまた、いつもの事である。

 ただ、この時一つだけいつもと違っていたのは、ふと鏡を見た天人が、寝癖を手櫛で直していた事だった……


 天人は部屋を出て再び階段を降り、アパートの小さな車庫へ向かう。

 その一番端に停めてある白い乗用車こそ、彼の愛車、CR-Xデルソルである。

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