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第2章 2話

午前を終えるチャイムが鳴る。


教室が一気に緩む。


俺は弁当を持って、さっさと席を立った。


昼休みは屋上。


誰かと群れるでもなく、ただ少し静かな場所に行きたかっただけだ。


階段を上がる。


踊り場を曲がったところで、声が聞こえた。


高い声。


聞き慣れている。


その隣に、低い声。


朝、隣で聞いた声。


足が止まる。


「わざわざ紹介されなくても、もう会った後だ」


落ち着いた声。


「えー、もう会ったの?どこで?」


「どこでも何も、隣の席だからな」


少し間があって、夏海が笑う。


「そっか」


「夏海がそこまで気にする意味は、俺には分からなかったけどな」


その一言に、なぜか胸がざらつく。


俺のことか?


扉を押す。


金属音が響く。


二人が同時にこちらを見る。


夏海が「あ」と小さく声を上げる。


優弥は静かに目を細めた。


「伸也。昼、ここなんだ」


「悪い?」


少し強くなる。


自分でも分かる。


優弥は肩をすくめる。


「別に。縄張りなら帰るけど」


「違う」


夏海が間に入る。


「なんで二人ともそんなピリッとしてんの」


「してない」


俺と優弥の声が重なる。


一瞬の沈黙。


夏海が吹き出す。


「ほんと似てる」


「やめろ」


優弥が小さく笑う。


「ちゃんと話してなかったな。篠崎優弥」


「……伸也」


軽く頷き合う。


風が吹く。


フェンスが鳴る。


「夏海が言ってたやつか」


優弥が言う。


「音楽、聴いたんだって?」


視線が向く。


逃げるわけにもいかない。


「……聴いた」


「どうだった?」


夏海が聞く。


少し期待を含んだ目。


言葉を探す。


昨日の音を思い出す。


「……まとまってた」


「まとまってた?」


夏海が首をかしげる。


「ギターも、ドラムも、ボーカルも、それぞれ目立つのに」


言葉がゆっくり出てくる。


「ちゃんと一つの塊になってた」


優弥が黙って聞いている。


「特に、下」


「下?」


「ベースとドラム。ベードラっていうのか知らないけど」


自分でもまだ慣れない言葉。


「どっしりしてた。派手ってより、ちゃんと地面になってる感じ」


昨日感じた感覚を、そのまま出す。


「上がどれだけ動いても、崩れないっていうか」


少し沈黙。


優弥の目が、ほんの少しだけ変わる。


評価する目。


「へぇ」


短い相槌。


「ギターじゃなくて、そこにいくんだ」


「別に、ギターもすごかったけど」


慌てて付け足す。


優弥はふっと鼻で笑う。


「面白いな」


からかいではない。


ただ、興味を持った声音。


「ちゃんと聴いてる」


その一言が、やけに重い。


夏海が嬉しそうに言う。


「でしょ?」


優弥はそれには答えず、俺を見る。


「音楽、やってんのか?」


「いや、全然」


即答。


「でも、ちょっと興味はある」


口に出した瞬間、自分で驚く。


優弥は少しだけ視線を細める。


「ふーん」


風が吹く。


「まぁ、聴ける耳してるなら、悪くない」


それだけ言って、フェンスにもたれた。


上から目線なのに、嫌味がない。


なぜか悔しい。


けど。


その言葉が、妙に残る。


屋上の空は青い。


まだ何も始まっていないはずなのに。


少しだけ、何かが噛み合い始めた気がした。

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