第3章 10話
「めっっっっっちゃやばかった!!」
ライブハウスの前。
外に出た瞬間、美羽が叫ぶように言った。
伸也は思わず周りを見回す。
「声でかい」
「だってやばかったんだもん!」
美羽は両手をぶんぶん振りながら続ける。
「なにあれ!?
普通にプロじゃん!!」
語彙力はほとんどない。
だが言いたいことは、痛いほど伝わってきた。
「特に夏海ちゃん!!
え、あの歌なに!?
めっちゃ上手かったんだけど!!」
「落ち着け」
そう言いながらも、伸也の頭の中には、さっきのステージが何度もよみがえっていた。
照明の中で立つボーカル。
張り上げる声。
会場を飲み込むような歌。
バンド全体の演奏も、言うまでもなくレベルが高かった。
ドラムも、ベースも、隙がない。
だが――
やはり一番耳に残っているのは、ギターだった。
優弥のギター。
派手に弾きまくるタイプではない。
けれど、音の一つ一つがやけに鮮明だった。
メロディの隙間に滑り込むフレーズ。
歌を押し上げるようなコード。
そして、その上に乗る夏海の声。
気がつけば、自然と耳がそちらへ引っ張られていた。
あのバンドの中心は、間違いなくあの二人だ。
そう思わされる演奏だった。
「ねぇねぇ!」
美羽が伸也の腕をつつく。
「ん?」
「今度さ、夏海ちゃんカラオケ誘おうと思うんだよね!」
「……は?」
思わず間抜けな声が出た。
「いやだからカラオケ!
一緒に行きたくない?」
「いや……」
伸也は少し言葉を探す。
「今のライブ見たあとで、
カラオケ誘うのか?」
「うん!」
即答だった。
伸也は思わずため息をつく。
あの歌唱を聞いたあとで。
あのステージを見たあとで。
普通の人間なら、まず思うはずだ。
――レベルが違う。
そう感じて距離を置くか、少なくとも気後れする。
だが美羽には、それがない。
むしろ逆だ。
「だって絶対楽しいじゃん!
あんな歌うまい人とカラオケ行ったら!」
目を輝かせている。
恐れとか、遠慮とか、そういうものが一切ない。
伸也は小さく笑った。
確かに。
そこが美羽のいいところでもある。
「……まあ、誘うのは自由だけど」
「でしょ!?」
美羽は満足そうにうなずく。
そのときだった。
ふと、ライブハウスの入口の方に視線を向ける。
ドアが開き、二つの影が外に出てきた。
背の高い影と、その隣に並ぶもう一人。
街灯の光に照らされ、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
見覚えのあるシルエットだった。
「……あ」
美羽が小さく声を漏らす。
さっきまでステージに立っていた二人。
優弥と夏海だった。




