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第3章 3話

「えー、Neon Constructってお兄ちゃんが聴いてたCDのバンドなの!?」


ポスターを見上げたまま、美羽が目を丸くする。


その声に、伸也の鼓動が一瞬跳ねた。


「……ああ、たぶん」


平静を装って答えるが、胸の奥ではさっきからざわつきが止まらない。


そのとき、ライブハウスの扉が開き、数人の若者たちが笑いながら外へ出てきた。

楽器ケースを抱え、どこか解放されたような顔をしている。


「あっ! 先輩!」


美羽がぱっと表情を明るくして手を振った。


その中の一人が気づき、驚いたように目を見開く。


「え、美羽ちゃん!? 来てくれたの?」


メンバーが近寄ってくる。

思っていたより大人びた雰囲気に、伸也は少しだけ身構えた。


「ごめんね、美羽ちゃん。千佳は今、買い出しに行ってくれててさ。ちょっと席外してるんだ」


「あ、そうなんですね」


バスの中で美羽から聞いた話を思い出す。

千佳――美羽の友達。

そして、その彼氏がこのバンドのボーカル。


「はじめまして。兄の伸也です」


軽く頭を下げると、彼は気さくに笑った。


「どうもどうも。千佳の彼氏です」


同年代くらいだろうか。

けれどステージ衣装を身に纏っているせいか、いくつか年上に見える。

黒を基調にしたジャケットに、細身のパンツ。

さっきまでステージに立っていた余韻がまだ残っている。


「いやー、美羽ちゃん初めて来てくれたし、かっこいいとこ見せたかったんだけどさ」


彼は肩をすくめて笑う。


「対バンがNeonじゃなー」


その一言に、伸也の意識がぴくりと反応する。


顔には出さない。

けれど確実に、胸の奥が強く打った。


「そんなにすごいバンドなんですか?」


思わず、口から出ていた。


彼は一瞬だけ目を細め、それから楽しそうに笑う。


「ん? ああ、すごいってもんじゃないよ。昔プロ目指してた資産家の人がさ、腕のあるプレイヤーだけ集めてるらしくてね。演奏技術はもちろんなんだけど……」


少し言葉を探すように空を見る。


「世界観作りがえげつないんだよ。音も照明も、空気まで全部Neonになる感じ」


そう言って、メンバーの一人――一番気の弱そうな青年の肩をばん、と叩いた。


「こいつなんてさ、さっきリハで軽く音出し聞いただけで怯えてるの。な?」


「だ、だって……あれ反則ですよ……」


周囲がどっと笑う。


冗談混じりの空気。

けれどその奥に、本物への敬意が透けて見えた。


伸也の喉が、無意識に鳴る。


イヤホン越しに聴いていた音。

夜に溶け込んでいた旋律。


それが、今この建物の中にある。


「やば、そろそろ出番だ」


誰かが時計を見る。


「じゃあ、また後で!」


軽く手を振り、メンバーたちはライブハウスの中へ戻っていった。


そのとき、美羽がふと思い出したように辺りを見回した。


「……あれ?」


「どうした」


「夏海ちゃん、このバンド好きって言ってたよね」


言われて、伸也も視線を客の列へ向ける。


ライブハウスの前には、いつの間にか人が増えていた。

学生らしいグループ、仕事帰りらしき大人、黒いTシャツを着た常連らしい客。


その中に、

どこか見覚えのある姿がいないか、つい探してしまう。


「来ててもおかしくないよね」


美羽が背伸びして、入口の奥を覗き込む。


「……さあな」


伸也もなんとなく視線を巡らせる。


けれど、

それらしい姿は見当たらなかった。


「まあ、ライブハウスの中かもしれないけどね」


美羽が肩をすくめる。


そのとき――


低く震えるベース音が建物の奥から響いてきた。


低く震えるベース音。

床を通して伝わる振動。


美羽が、小さく息を吸った。


「お兄ちゃん、はじまるね」


伸也は、ゆっくりと頷く。


人生で初めての生ライブが、

今、幕を開けようとしていた。

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