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第2章 18話

朝の光が、薄く差し込んでいた。


カーテンの隙間から、柔らかな光が部屋に落ちている。


まぶたが重い。


身体のあちこちが鈍く痛む。


「……っ」


息を吸っただけで胸が軋む。


肋骨の奥がじんと痛む。


見慣れた天井。


自分の部屋だと理解するまで、数秒かかった。


昨夜の記憶がゆっくり戻ってくる。


路地。


拳。


地面の冷たさ。


そして――


そこで、途切れている。


ベッドの横で、小さな寝息がする。


視線を向ける。


ベッドにもたれかかるようにして、夏海が眠っていた。


腕を枕代わりにして、椅子に座ったまま。


無防備な顔。


髪が少し乱れている。


制服のまま。


ずっとここにいたのだと、すぐに分かる。


伸也がわずかに動いた瞬間、


ベッドが小さく揺れる。


その気配で、


夏海のまぶたが震えた。


「……ん……」


ゆっくり目を開ける。


まだ寝ぼけた視線が伸也に向く。


一瞬ぼんやりして、


次の瞬間、顔が明るくなる。


「よかった……起きたんだ」


心底ほっとした声。


肩の力が抜ける。


伸也はゆっくり体を起こそうとして、


痛みに顔をしかめた。


胸に鈍い痛みが走る。


「無理しないで」


夏海が慌てて体を支える。


背中に手を回す。


「今日、ご両親病院に泊まり込みって聞いたから」


少しだけ照れたように笑う。


「心配で、泊まっちゃった。ごめんね、無許可で」


伸也は小さく首を振る。


声がまだ出にくい。


「……ありがと」


短い言葉。


それだけで、胸の奥が少し温かくなる。


少し間。


記憶が途切れている。


路地。


拳。


倒れる感覚。


そこから先がない。


「俺……途中から、覚えてなくて」


視線を落とす。


布団の皺を見つめる。


「ごめん」


夏海は首を傾げる。


「篠崎の声が聞こえたような気がするんだけど……」


その言葉に、


夏海が思い出したように言う。


「あ、優弥から伝言」


伸也が顔を上げる。


「“貸し一な”だって」


一瞬、意味が追いつかない。


そして、


理解する。


助けられた。


あのあと。


自分は、最後まで立てなかった。


胸の奥が熱くなる。


悔しさと安堵が、同時に込み上げる。


そのとき、


スマートフォンが震えた。


机の上。


母親からの着信。


夏海が取って手渡す。


「もしもし……」


まだ掠れた声。


数秒、話を聞く。


眉がわずかに動く。


目が少し見開く。


「……自分から?」


通話を終える。


静かにスマホを下ろす。


夏海が不安そうに見る。


「昨日の人」


伸也はゆっくり息を吐く。


胸の奥に残っていた重いものが、


少しだけ軽くなる。


「警察に出頭したって」


部屋の空気が静まる。


窓から入る朝の光。


外で鳴く鳥の声。


本当に終わったのだと、


ようやく実感する。


伸也は拳を握りかけて、


ゆっくり開いた。


力の入らない手。


「……俺、まだ弱いな」


ぽつりとこぼす。


夏海は少しだけ考えて、


それから小さく笑う。


「でも、逃げなかったでしょ」


その一言が、刺さる。


昨日の路地。


倒れても、


腕を伸ばした感覚。


離すまいとした足。


伸也は窓の外を見る。


朝の光が差し込んでいる。


昨日より、


ほんの少しだけ眩しく見えた。

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