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第2章 14話

伸也は男の胸倉を掴んだ。


「離せって言ってるだろ」


拳を振る。


頬に当たる。


骨に当たる鈍い感触。


確かな手応え。


だが――


男は笑っていた。


口元だけが、ゆっくり歪む。


「そんな顔するなよ」


静かな声。


息も乱れていない。


「もう分かってるんだろ?」


伸也の動きが止まる。


その一瞬。


男の拳が腹に沈む。


鈍い衝撃。


空気が肺から一気に押し出される。


呼吸が潰れる。


体が折れる。


無駄のない踏み込み。


短い軌道。


振り抜かない拳。


それでも十分すぎる威力。


積み上げられた型。


経験者だ。


だが、どこか空虚。


感情が乗っていない。


ただ、殴っているだけ。


「俺さ」


殴りながら、男が言う。


「別に恨んでるわけじゃないんだ」


顎を打ち抜かれる。


視界が揺れる。


街灯の光がぐにゃりと歪む。


「好きとか、そういうのでもない」


膝が腹に入る。


胃が潰れる。


体が前に崩れる。


「ただ」


髪を掴まれ、無理やり顔を上げさせられる。


焦点の合わない目。


近すぎる距離。


男の瞳は、どこか遠くを見ていた。


「気づいたら、目で追ってただけだ」


ぞっとする。


「他のやつはどうでもよかったのに」


拳が落ちる。


頬骨に衝撃。


耳鳴りが広がる。


「なんとなく、あいつだけ残った」


もう一発。


視界の端が白く弾ける。


「消えなかった」


伸也が倒れる。


アスファルトの冷たさが背中に広がる。


男が見下ろす。


影が伸びる。


「だからさ」


口角がゆっくり吊り上がる。


「邪魔なんだよ」


拳が振り下ろされる。


一発。


頬に衝撃。


二発。


腕で受ける。


骨が軋む。


「お前みたいなのが間に入ると」


三発。


腕が痺れる。


感覚が消える。


「濁るだろ」


四発。


腕が跳ね上がる。


夏海が駆け出す。


「やめて!!」


叫び声が夜道に響く。


男の視線が一瞬で移る。


動きが止まる。


そして、首を傾げる。


「……やっぱり違う」


一歩近づく。


街灯の光の中へ。


「声も、目も」


小さく笑う。


「似せても、無理か」


伸也が足を掴む。


震える手で。


アスファルトを引きずりながら。


「触るな……!」


振り払われる。


蹴りが入る。


腹に衝撃。


意識が揺れる。


視界が暗くなる。


男が再びまたがる。


膝で体を押さえつける。


「終わりか?」


拳を振り上げる。


その瞬間。


軽いビニールの擦れる音。


かさ、と。


小さな音。


だが、この静かな住宅街ではやけに大きく響いた。


「……随分と楽しそうだな」


低い声。


拳が止まる。


男が振り返る。


街灯の下。


片手にレジ袋。


コンビニのロゴが揺れている。


無表情の男が立っていた。


「その手をどけろ」


男がゆっくり立ち上がる。


苛立ったように眉を寄せる。


「……誰だお前」


答えない。


街灯の光の中で、ただ静かに立っている。


片手にレジ袋。


無表情。


篠崎優弥は、ただ静かに佇んでいた。

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