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第2章 4話

次の週末、俺はなぜか駅前のロータリーに立っていた。


改札の外。


待ち合わせなんてする予定は、本来なかった。


CDを返すだけなら、学校でよかったはずだ。


それなのに、俺はここにいる。


理由は、昨日の夜。



部屋で借りたCDを流していた。


そろそろ返さないとな、と思いながら、スマホを手に取る。


時間を確認しようとして、指が滑った。


発信中。


「……は?」


夏海。


慌てて切ろうとする。


その前に繋がった。


『もしもし?』


「……悪い」


『伸也?』


「間違えた」


正直に言う。


一瞬の沈黙のあと、笑い声。


『なにそれ』


「触れた」


『いいよ。ちょうど暇だったし』


軽い声。


『何してたの?』


「CD聴いてた」


『ほんとに?』


「返す前にもう一回くらいな」


少しだけ嬉しそうな声がする。


『どの曲?』


曲名を言う。


『あー、それ好き』


短い会話。


音楽の話。


学校の話。


他愛もないやり取り。


数分で終わるはずだった。


そのとき。


『ねえ』


「ん?」


『明日ってさ、予定ある?』


「いや、特に」


ほんの一瞬の間。


『じゃあさ、駅前出ない?』


「なんで」


『……CD、直接返してほしいなと思って』


少しだけ笑っている。


「学校でよくないか」


『休みの日に外出る理由ほしいじゃん』


意味が分からない。


「理由って」


『嫌ならいいけど』


少しだけ声が下がる。


「別に嫌とは言ってない」


沈黙。


数秒。


「何時?」


『昼くらい?』


「じゃあ十三時」


『改札出て右のベンチ』


「分かった」


それだけ。


たったそれだけで、決まった。


通話を切ろうとした、そのとき。


コンコン。


ドアを叩く音。


「ちょっと待て」


スマホを手に、ドアを開ける。


美羽。


「あ、夏海ちゃん?」


声が漏れていたらしい。


「電話中か」


「間違い電話」


「へぇー」


にやっとする。


でも、その笑顔が一瞬だけ消える。


「なんかあった?」


聞くと、美羽は少しだけ迷った顔をした。


本当に、ほんの一瞬。


「……ううん。いいよいいよ。たいしたことじゃないから」


「なんだよ」


「ほんとに」


笑ってごまかす。


「ごゆっくり」


そう言って、自分の部屋へ戻っていく。


ドアが閉まる。


その背中に、何かあったかもしれない。


でも。


『伸也?』


スマホの向こうの声。


「ああ、悪い」


すぐに意識が戻る。


さっき決まった約束が、頭の中を占める。


美羽の一瞬の間は、そのまま流れた。



翌朝。


なんとなく、美羽の部屋をノックする。


返事はない。


ドアを開けると、もういなかった。


ベッドは整っている。


机もいつも通り。


「早いな……」


昨日の顔が、少しだけ浮かぶ。


でも今日は約束がある。


それ以上考えるのをやめて、家を出た。



そして今。


駅前。


人混みの向こうに、夏海の姿が見えた。


昨日までなかった約束。


それが、今日になった。


俺は手を軽く上げる。


その瞬間。


美羽のことは、頭から抜け落ちていた。


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