ファーストピアスを君の手で
ピアスを開けたい。中学生の頃から、ずっと何年も何年も憧れている。でも、高校まではとてもそんなことはできなかった。
高校を卒業して、社会人になって、自由を手に入れたと思った。しかし、いざとなると、体に穴を開けるというのは怖いことなのではないか、と尻込みしてしまう。それでも、ピアスを開けたい、という気持ちはずっとある。
「……で、私にピアスを開けるのを手伝ってほしいって?」
「そうなの」
「……なんで私?」
「……嫌だった?」
「嫌じゃないけど、そんなに怖いなら、病院で開けてもらうのが安全だよ?」
「それはそうかもしれないけど、お金かかるじゃん?」
「別に大した金額じゃないと思うけど……。まあいいや、ミツキがそんなに言うなら、私が開けてあげるよ。その辺のドラッグストアでピアッサーは買えると思うけど、アクセサリーショップのがいい?」
「よくわかんないから、最初のピアスはなんでもいいよ。自分でも調べてはみたけど、最初のピアスは捨てちゃうんだよね?」
「そうだね。なんでもいいなら、今からその辺のドラッグストアにでも行く?」
「今、すぐやるの?」
「え、ダメ?」
「心の準備が……」
「そんなこと言ってたらずるずるとできないままになっちゃうでしょ。すぐ行くよ、ほら」
そう言って、サクラはグラスに残っていたドリンクを飲み干して立ち上がった。私も慌ててドリンクを飲み干して立ち上がる。お会計を済ませて喫茶店を出た。
「とりあえず近くのドラッグストアを見に行こうか」
サクラが言って歩き出す。私はその後をついていく。
ほどなくドラッグストアに着いて、ピアッサーを探す。大して時間はかからず、ピアッサーが置かれているところを見つけられた。
「どれでもいいなら、私が選ぶけどどうする?」
「任せるよ」
「じゃあ、これね。あと、消毒液とかガーゼとかは家にある? マーキングはアイライナーでいいとして……」
「消毒液だけないかも」
「そっか、じゃあ消毒液も必要だね」
そうして、選んでもらったピアッサーと、消毒液をレジに持っていく。少しドキドキしながらお会計を済ませて、待ってくれていたサクラと合流した。
「やるのはミツキの家でいい?」
「うん、いいよ」
「今から行ってすぐやるでいいね?」
「……うん」
「じゃ、行こうか」
私の家に着いて、さっそくピアスを開ける準備をした。サクラがテキパキと進めてくれる。私はずっとドキドキしていた。
「じゃあ、開けるよ」
言われて、私は緊張して目を閉じていた。
「……そんなに緊張しなくていいから。痛みはないはずだし、大丈夫だよ」
心配そうに言われて、私は力いっぱいこぶしを握っていた手を緩めた。
「……はい、できた」
「えっ?! 全然痛くない!」
私は思わずそう言いながら、耳たぶを触り、鏡を見た。確かに私の耳たぶにピアスが付いている。実際やってみたら一瞬だった。
「……ピアスを開けるのって、こんなに簡単にできちゃうんだね」
「拍子抜けだった?」
「んー……ずっと憧れてたのに、今までできなかった時間はなんだったんだろう、って……。サクラにやってもらえてよかったよ、ありがとね」
「どういたしまして。自分で調べたなら知ってると思うけど念のため、ファーストピアスは一か月以上は付けっぱなしだからね、外しちゃダメだよ、シャワー浴びる時も」
「ん、そういうことは調べてあるから、大丈夫だと思う」
「なんか違和感あったら私じゃなくて病院に行きなさいよ」
「そうだよね、なんかトラブルになるかもしれないんだよね。安定して付けれればいいなぁ」
「……そういえば、ファーストピアスが外れたら、その後に付けたいピアスは決まってるの?」
「……サクラが付けてるのとお揃いのがいい」
「私の? ……いいよ、じゃあ、同じの買ってあげる」
「え? プレゼントしてくれるの? いいよ、自分で買うよ」
「あげるって言ってるんだから、素直に受け取ればいいの」
「……ありがと」
そう答えると、サクラは満足げに頷いた。
私は、自分の耳たぶを触って、開けてもらったピアスの感触を確かめる。ずっと憧れていたものが、ここにある。なんだか気持ちが宙に浮いているような、変な感じ。
最初のピアスは、外してもいい時期になったら捨ててしまうものだけど、なんだか愛おしく感じて、ちょっと捨てがたいかもしれない。そんなことを思いながら、鏡を見た。
〈了〉




