自分との対話
心の中の鬼と話す。
有名になりたい。何者かになりたい。己の欲するところを顕にしたい。
人の欲望には際限が無いと、他ならぬ俺は知っている。
俺は弱い。
大学を出て、就職して、仕事をしていても、創作の鬼が俺を掴んで離さない。
『言葉に出来ない何か』が俺の裡に在って、ただ、書くべきだ、と語る。
評価がされたいわけではない。俺は俺のために書く。
ただ、誰の目にも留まらないというのは、辛い。
己の心を曝け出して書くものが、素通りされるというのは、辛い。
けど、今は『辛い』とはそういうものだと、己を宥め賺すことができて、俺は創作の鬼と話し合って、俺の世界を形にすることを選ぶだろう。
そして、ふと、考える。
自分がもし、就職に失敗していたらどうなっていたか。創作に己の魂を全て注いで、その果てに得たものがこれだったら。
たぶん、俺は首の一つでも括っていただろう。
そうだろうな、という確信が俺の中にある。
己の命を削って生み出したものを世界という水面に投げて、それが何の揺らぎも起こさなかったら、果てしないほどの世界からの断絶と苦痛と悲嘆は、俺の胸を掻き毟って余りある程だ。
故に俺は恐怖し、同時に安堵する。
そうならなかった自分を、そうなったifで塗り潰すことができたから。
苦痛は消えることはない。断絶の悲しみも。
それを正面から食らって、許されるなら、俺も鬼になろう。
逃げることは許されない。俺が書く世界は道半ばだ。ここで途絶えさせるわけには行かない。
たとえ誰にも読まれなくても、見向きもされなくても、己の胸と、腹と、頭を割って浴びせ掛ける『血』が振り払われようとも。
俺は俺が逃げることを許さない。別の鬼だ。規範の鬼が許さないから、多分俺はここまで来た。
一度は諦めた筆を執って、自分の思考を見つめ直して、足りない経験を補って、己の心を形にする。
それしか出来ないと、俺は知っている。
俺の記すものが、俺にとっての最良であるという確信があるからこそ、俺はただ動き続けるのだ。
そしてそれが時流に合わないものだと知って、俺はそれを放つことを選んだのだ。
その選択から逃げてはいけない。創作の鬼と、規範の鬼は、俺の眸を通して俺を見つめているのだから。
苦肝を啜り、臍を噛み潰してもなお、俺の裡に棲む規範の鬼は俺を許してはくれない。自己責任論の鬼だ。
選択の結果は拭わねばならない。一度選んだものを、手放してはいけない。
俺はもう選択したのだ。向き合う道を。故に鬼に従い、鬼になろう。
地獄の様な道を進むとわかっていても、ただ進み続けるのだ。
そして、俺の中の創作の鬼は、
まだ俺に『書け』と命じているのだから。




