第95話 野営よ
野営。
いわゆる野宿だが、メイドのシャルのお陰で生活レベルが高くなっている。
テントはもちろん、かまどに食事場、トイレも設営してくれる。
火の番も調理も彼女一人でこなしていく。
因みに馬の世話もだ。
これがシャルの本業であり、彼女を引き入れて良かったと思える瞬間である。
俺は彼女に尋ねた。
「シャル、何か手伝えることはないか?」
「……」
聞こえなかったのか反応を返さない。
いくらか話しかけるがやがて……
「……結構です。何度も話しかけないでください」
と返される。
相変わらずだが、これは無視をしていたとのことなのだろう……
コイツもコイツで、何故そこまで俺に嫌悪感を持って接してくるのかわからない。
何か俺……悪いことでもしたのか?
モヤモヤするが仕方ない。
全てを任せて皆の方に向かう。
シャル以外の皆は野営を完全に任せて各々の時間を過ごすこととなった。
「ワタクシは少々休ませてもらいますわ」
どことなく暗い雰囲気のルドは、女性用で設置されたテントへと赴く。
「ウチは、サナエル様の祠作らなきゃだから、何かあったら声かけて」
と僧侶特有の習慣を行い始める。
残るは俺とコハル、ロイスの三人だが……
「イット、またロイスと特訓してくるよ!」
「え? ああ、またか?」
最近のコハルは組み手に夢中らしく、野営となるとロイスかルドが相手になってくれている。旅に出る前、俺とコハルが行っていた戦闘の予行演習だ。
「ロイスは大丈夫なのか? 疲れて……」
「僕は大丈夫! 彼女の体術は我流だけど戦っててとても参考になるよ! 人間では真似が出来ない動きだから、対魔物戦に僕も活かせるからさ」
まあ、俺よりも間違いなく練習になるだろうな。互いに。
「行ってくるねイット! ロイス、あっちが開けてたからそこで戦おうよ!」
「わかった!」
と二人仲良く行ってしまった。
俺は一人取り残される。
さてと、俺のやれることは防具の整備ぐらい。その後は、魔法の練習でも……
「……」
「ふふんふふーん……」
鼻歌交じりのソマリが、近くの木元の地面で作業をしているのが視界に入る。
枝やら石、土を組み合わせて例の祠とやらを作っているのだろう。
……
そう言えばちゃんと聞いていなかったな。
・スカウトギルドのお仕事だから。
・このことは内緒だよイット君。
・バレたらウチと一緒に消されるかもしれないからね。
・ベノムさん全然優しくないからさ。
彼女の裸体と共に焼き付いた言葉。
スカウトギルド。
ソマリは俺と同じベノムの指令で動いているスカウトギルドのメンバーの一人だった。
俺は出発前にベノムが言っていた言葉を思い出す。
・ロイス率いるパーティーの中にスカウトギルドの密偵を潜り込ませるのさ。
まさにそれが彼女のことだった。
まさか、同じ教会出身で同い年ぐらいの年の少女を密偵にするとは……
事情を知らなければ恐ろしい話である。
とにかく、彼女からいろいろ聞くか。
「なあ、ソマリ」
「ん? 何、イット君?」
……
視線をこちらに向けずしゃがみ込みながら、応答するソマリ。
「あー、集中してる所だったか? 忙しいなら後でにするけど」
「大丈夫だよ。馴れてるから話だながらでも出来るし、ちょっと最後だけお祈りするだけだから」
彼女の言うとおり馴れた手つきで作成していく。
「ながらで話すけどゴメンね。ちゃんと祠を作っておけば、奇跡の力も強くなるからさ。皆もより安全に過ごせるようになるんだ」
「へー、そんなもんなんだな……でもそれって、何か元々その祠って奴を持ち運び出来るよう予め作っておくのはダメなのか?」
「ん?」
「つまりその……携帯できる祠みたいな……」
それを聞いたソマリはキョトンとするが、すぐにこちらへ笑顔を向ける。
「そうだね! 確かにそうすれば祠を作る時間が節約出来るかも! イット君頭良い!」
「そ、そうだよな? それなら効率良く……」
ソマリはおもむろに首にかけていた十字架をかたどったネックレスを見せた。
「という訳でジャジャーン。すでにウチは携帯用の祠を持っているのでした!」
「……」
「どう? 驚いたイット君? やっぱり昔の人も同じ事を考えてこの『聖印』っていう物を作ったんだ。本来崇拝する大天使様の偶像の側でないと奇跡は使えないんだけどね。祠っていう偶像の簡易版を使ってその範囲を増やしているんだよ。そして、それを最小限まで縮小したのがこの聖印ってこと」
上げて下げられた気分になり、何とも言えない気持ちになる。
だが、今の長い説明で俺は祠を作る理由は想像がついた。
これは携帯電話とかの電波と同じような考え方で良いと思う。
基地局……まあ、大きな電波塔があれば遠くまで電波は飛ぶが通信速度も遠くなればなるほど遅くなっていく。
なので小さいアンテナで中継地点を作るといった感じか。
「中々良い所に気付いたねイット君。興味あるならサナエル教に入信しちゃう? 大歓迎だよ!」
「いや、それはまた今度。それよりも聞きたいことがあるんだが……」
一応周りを確認し切り出す。
「スカウトギルドに関してのことなんだが」「……ちょっと待ってて」
ソマリは、作り終えた簡素な祠らしきオブジェに祈りを捧げる。
それを終えると立ち上がり、土を払いながら俺へ向き直る。
「そう、ウチは君と同じスカウトギルドの密偵だよ。本当はイット君に話をするつもりじゃなかったけどね」
俺がスカウトギルドに所属しているかは、微妙な立場だがそれはまあいい。
「ならソマリに会わせる為に仕向けたのはベノムの仕業か。荷物を減らされていたのも」
「たぶんその算段だと思うよ。どちらにしろ君やコハルちゃんがあの教会の存在に気付く可能性は高いってことだったんじゃないかな? そこでウチがロイス君達と出会い、加入するという流れってこと。少し強引な交渉だったけどね」
俺は以前の夜這いを思い出す。
「もしそっちに行かなかったどうしてたんだ?」
「その時は次の街で、別の人が同じことをしたんじゃないかな? どちらにしてもこうしてウチの方に来てくれたのは、計画的だけど御縁ってことだよ。久しぶりに君やコハルちゃんと会えて嬉しいし」
「そ、そうか……ありがとう」
俺が頬をかくとニコと笑みを浮かべるソマリ。質問を続ける。
「ソマリ、ズバリ聞くが目的はなんだ?」
「ん? ベノムさんから聞いてないの?」
「俺達の監視役だと聞いている。でも、俺はベノムのことだからまだ何かあるんじゃないかと思っているんだ」
勘ぐりすぎかもしれないが、今までのベノムの動向を考えると更に裏が有りそうだ。
今まで後手に回りすぎていて、自分が操られているような錯覚すら感じる。
このままでは、最終的に彼女の手の平に転がされ続け悪い方向に……何て可能性も考えられる。
少しは、彼女の真意を知りたいのだ。
そう考えていると、ソマリは答える。
「うーん……主にロイス君の動向を窺ってくれって言われてる」
「ロイスの? 俺とロイスの二人ではないんだな?」
「そう。君はベノムさんに信頼されているから大丈夫ってことなんじゃん?」
好意的に解釈してくれるが、そんな感情的な解釈をして良いのかは疑問に持つ。
彼女は続ける。
「後は君達のサポートとギルドへの定期連絡でしょ? 主にそれぐらいなんだけど……あ! あと二つあるんだけど……」
「だけど?」
「これ言って良いのかな~?」
「隠さなきゃいけないことなのか?」
「いや、たぶん大丈夫なんだけど、聞きたい?」
やたら溜めるソマリに俺は頷く。
彼女も「わかった」と話す。
「一つは、君の懺悔を聞いて欲しいって言われてるよ」
「……え?」
懺悔?
懺悔ってあれか? 罪を告白して許しを請うっていう奴か?
「でも、俺は別に犯罪なんかしてないぞ。たぶんこの世界の法律も気を遣っているつもりだし。たぶん……」
俺は自分の手で実質殺した、昔俺や魔物達を捕らえていた城主のことが脳裏を過った。
「そんなに重く捕らえなくても良いんだよ。都心で修行してたシスターさんの話だと、お悩み相談ぐらいの内容が多かったって。仕事場の上司がウザいだとか、夫が浮気をしてるんじゃないかってな具合で」
「はぁ……」
「何か話したいことあったら言ってね。ウチ、懺悔を聞くの得技の一つだから」
と彼女は自身の胸を叩いた。
まあ、メンタルケアみたいなものか。
確かに俺とソマリと親しいかと言われると、そこまででは無い。
だからこそ、話せる内容って言うこともあるかもしれないしな。
「ありがとう……それと後もう一つの任務ってなんだ?」
「それはイット君の童貞を捨てさせろって頼まれたの!」
「ブフッ!?」




