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“それ” は劣化チートおじさん  作者: バンブー
青少年編(前編)

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第94話 休もうよ

 俺達は北西へと向かった。

 馬の力で四日程、道中で野営をし、山賊やゴブリンやコボルドの集団なんかに襲われるハプニングに会うが、見た目以上の強者が揃った俺達パーティーに壊滅され降伏を余儀なくさせていった。

 特に、生理痛を克服したルドは俺が思っていた以上の実力を見せ、盾職(タンク)であるにも関わらず相手を蹂躙していった。


 旅路を進む。

 本日もシャルが手綱を引き、そろそろネバ王国の隣に位置する街に着きそうな所だが、そろそろ日が暮れそうでもある。


「コハルさん? 貴方本なんて読めたの?」


 荷馬車の中からルドの声が聞こえる。

 前方の安全を確認してから中を見ると、コハルの手に本が握られていた。


「あはは、この本だけだけどね。でも、大体はそこに描かれている絵がみたいだけなんだけど」


 コハルがそういうと、持っている本の表紙をルドに見せた。


「その本は……」


 見覚えがある。

 アサバスカに住む生物の本。初めて図書館へ訪れた時に彼女が見つけた本だ。


「コハル、お前その本を何で持っているんだ?」

「え? あー、そう言えばイットに言ってなかったね! 実は出発する前にアンジュちゃんが取り寄せてくれたんだ。もちろん自分の稼いだお金で買ったやつだから!」


 いつの間にかそんな物をと思っていたが、定期的に図書館へ一緒に来ていた時、確かに何かを読んでいる所はちょくちょく見ていた。大半は寝ていたけれど。

 何にしろその本がお気に入りだったのは以外だった。

 ……いや、そうでもないよな。

 昔コハルがこの本を見ていた時、あの表情が脳裏をよぎる。


「コハル……やっぱり、産まれ故郷に帰りたいのか?」

「え?」


 彼女は驚く。

 綺麗な瞳に俺の顔が映り込むがすぐにコハルは下を向いた。


「ううん……そんなことはないよ。正直このアサバスカって場所の記憶もほとんど無いし。でも、どんな所かは気になってて……」


 すると、ハッと気付いたように慌てて手を振る。


「あ! ち、違うよ! 行きたいとかではないから! 魔王を倒した後でも行こうかなって思ってるぐらいの気持ちだから! 気にしなくて良いよ! アハハ……」


 長年の付き合いだからか、コハルが気を遣っているのがわかる。

 本当はもの凄く行きたいのだろう。


「ああ、そうだな……なら、この戦いが終わったら一緒に行かないか?」

「え? イットと?」

「何だよ……嫌か?」


 キョトンとしていたコハルは首を振り、笑みを浮かべる。


「行くよ! もちろんイットと一緒に! ありがとうイット」


 どれだけの月日が掛かるか分からないが、必ず連れて行ってやらなくてはな。

 そんな思いでいると横目で見ていたルドが溜め息を漏らす。


「まったく、ホームシックだなんて先行き不安ですわね。魔王を倒しに行く覚悟が足りていないのではなくてコハルさん」

「え? そんなことはないと思うけど」

「思う、では困りますわ。しっかり断言なさい。心の隙は敵が突いてきますわ」


 コハルを注意しだしたルド。

 コハルも「ゴメン……」と三角の耳を伏せた。また面倒くさい絡みをしてくるルドだが、少し今のキツい当たり方ではなかろうか

 そんな様子を見て俺は思わず口を出した。


「別に今はそこまで言う必要ないだろ。今は気を休める時だし、思いに浸ったって」

「良くありませんわ! いつなんどきでも警戒を怠っていけませんことよ! 盗賊や魔物がいつ奇襲に来るかわかりませんもの!」

「いや、それは分かるけれどもだ。旅の中で皆疲労しているんだ。少しの娯楽があったって良いだろ?」

「疲労って……貴方、このパーティーで一番役に立ててない癖によくそんなことが言えますわね? まったくもって()()()()


 その言葉に俺は止まった。

 急激に苛立ちが込み上げてくる。しかし、彼女が言っていることは正直本当だ。

 魔法の初速の遅さから、俺が攻撃する前に戦いが終わる。

 補助魔法も同じ理由だ。

 近接戦闘はエキスパートが3人も居れば前衛はいらない。

 確かに俺は何の役にも立っていない。


「ルド!!」


 俺達の間にロイスが割り込む。


「ルド、いい加減してくれ! どうして、皆に不快な思いをさせるんだ!」

「不快って……ワタクシは本当のことしか言ってませんわ!」

「正論を言うことは間違ってはいない。でも、それで人を傷つけるのは間違っている!」


 いつになく怒るロイスに、ルドは一瞬怯みを見せる。


「こ、これくらいで傷つくなんて、それこそ精進が足りませんわ! こんなんじゃ、魔王討伐なんて夢のまた夢……」

「ルド……」


 ロイスは彼女の言葉を遮った。


「君も疲れているんじゃないか?」

「え……ワタクシが……疲れてる?」

「うん、君は人とぶつかり合っても、他人を攻撃したりする人間じゃあなかった」

「……」


 彼の言葉に、彼女は沈黙してしまう。

 ルドの表情が暗くなり、しばらくして小さな声で話し出す。


「……ごめんなさい」

「うん! ちゃんと反省出来れば良いんだ! ゴメンよイット君にコハルちゃん。ルドもこの通り反省しているから許してあげてほしいんだ」


 笑顔を向けるロイス。俺は唖然としたまま口を閉じることを忘れてしまうが、コハルは彼女等に笑顔を仕返す。


「大丈夫だよ! 私こそゴメンね。あまり本は開かないようにする」

「そんな! 大丈夫だよコハルちゃん。今回はちょっとルドが神経質だっただけだから。そうだよね、ルド」


 俯くルドに話かけると、何や小さな声で呟いているのが聞こえる。


「ワタクシは悪くない……悪くない悪くない悪くない悪くない」


 聞き間違いか? 反省の色が見られないのだが……

 気付いていない様子でロイスは提案する。


「冒険は始まったばっかりだけど、皆疲れているみたいだし、ここら辺で休もうか。シャル、馬車を止めて野営の準備をお願い」

「かしこまりました。ロイス様」


 馬車を止め、日が傾く空の下へ俺達は出て行った。

 ふとルドを見る。

 すると彼女と目が合う。

 キッと睨み、視線を反らしてロイスの後ろを着いていった。

 どうしてそこまで人に当たるのだろうか。

 彼女のことは未だめんどくさいと正直思っている。


「イット! さっきはありがとう!」


 後ろから肩を叩かれ、振り向くとコハルがいた。


「別に気にするな。ルドのこともな」

「大丈夫! 私嫌なことはすぐ忘れるから!

 だからルドちゃんに怒られるんだけどね! アハハ!」


 相変わらずの明るい振る舞いに、何だか良い意味で力が抜ける。


「あとさ……イットは役立たずじゃないよ」

「コハル……」

「上手く言えないけど……私はそう思ってるよ!」


 そう言うと、コハルも降りていった。

 最後、静かにしていたソマリが俺に話してくる。


「ラブラブだね。焼けちゃいそう」

「うるさいわ」


 俺も降りることにする。

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