第92話 大天使の祝福よ
ロイスも奇跡が使える。
つまり剣技を扱い、魔法も最強、その上、回復……
今まで魔法剣士という肩書きだったから考えもしなかったが、奇跡が扱える時点で聖職者にもなれる。
魔法剣士であり神官戦士ってことか?
もう訳がわからん。
「ロイス、俺もそれは知らなかったんだが本当なのか?」
「え? う、うんそうだけど? えっと……イット君は出来ないのかい? ってさっきルドに聞かれてたね」
「あ、当たり前だ。魔法適正があるとはあのサナエルに言われた記憶があるが、回復術は魔法と全くの別物だ。それが出来るってお前……」
「イット君こそ、遠慮しているのかと思っていたけど本当に出来ないのかい? 強い奇跡じゃ無いにしろ、簡易的なものなら出来るんじゃないのかい? 僕達はサナエル様に会っているから多少は祝福を受けてるはずだと思うのだけど……」
……サナエルに会っていれば出来る?
そんな緩い条件で使える様になるのか?
だとしても、あの子からは何の説明もなかった。
……
今この件を深掘りしてもしょうがない。
「その話は置いとこう……俺はとにかく奇跡は使えない。正直、ルドに肩入れする訳ではないけれど、ロイスが回復役をこなせるなら確かに新たに同じ役職を入れる意味が……」
微妙になる。
先ほどの戦略も、ロイスとルドが居れば成立する。
ソマリがもし入ったとしても……悪くはないかもしれない。
しかし、彼女が機能しなくて事足りてしまう状況が多いなら食糧事情もある。
戦闘だけで考えても結局は移動したり旅生活をする時間の方が絶対に多いはずだ。
俺も考え込む。
すると、ロイスが言った。
「確かに僕はサナエル様の奇跡を使えるがソマリちゃん程万能じゃない。そして、僕の身体は一つしかない。万が一このパーティー全員が怪我を負ってしまった場合、僕が動ける状況だとは限らないんだ」
真剣な表情のロイス。
正直この強さのロイスがあってして、そんな窮地に陥る想像が出来ないが、確かに絶対ないとも言えない。彼が言う壊滅に陥ってしまった場合、確かに回復手段を多く、素早く持ち直す必要はある。
リスク分散の考えだな。
「コストか安定性、どっちを取るかってことか……ソマリを仲間に迎え入れるメリットとデメリットそれぞれあるな」
「イット君! 君ならわかってくれると思ったよ!」
「いや、俺も正直どっちが良いか迷ってる。人一人入れる上での経費は割と馬鹿にならない。食料だってあるし、今回ここに来たのも雑貨の問題だった」
「それは……そうだけど」
「ただでさえ、女性が三人いるのに間違いなくいろいろ荷物は増えるぞ」
デリカシーがないかもしれないが、荷馬車の中が生理品だらけになってしまう。
すると、ふとソマリが手を上げた。
「そろそろ、ウチも話して良い?」
「なんですの? 今冒険者同士の話をしてるのよ! 素人の貴方は引っ込んでなさい!」
「そんなこと言わないでよお。ルドラーさんの生理痛を無くしたのウチなんだから」
「な!? み……皆の前で何を言って――」
ルドの言葉を遮りソマリは続ける。
「ウチは冒険者御用達の回復の奇跡はもちろん、一般向け奇跡も使えるんだよね」
「……なんだそれは?」
「さっき言った生理痛とか二日酔いとか食あたりから、一般人の生活状起こりうる症状も奇跡で治せるんだ。その資格はまだ無いけど技術と知識はあるよ」
……治せる規模が小さくて凄いのかどうか分からない。
いわゆる外科と内科、両方診断できますよってことか?
俺は質問する。
「えーっと、つまり医者みたいなものか?」
「そう。病気についての知識が無いと治せないものがあるからさ。奇跡にも種類があるからね」
そこら辺は詳しくないのだが、回復だがシスターの役目では無いということか。
その時にならないとわからない問題だが、いれば心強いな。
俺が考えている間にルドはまだ噛みつく。
「納得いきませんわね! 病気を見極め、治す程の実力があるというのは王都でも通じる実力があるようだけど、貴方本当に見習いなの? 話を盛っているのではなくって?」
基準がさだかではないのだけれど、確かに冒険者からしてみるとほしいと思える能力が揃っている。
冒険者界隈で聖職者の数は割りかし少なめでかつ、新人でも引っ張りダコになる程の人気職らしいがそれゆえなのか?
ソマリは笑顔で答える。
「ありがとう。ウチに実力があるってわかってくれたみたいで」
「違いますわ! 怪しんでいるのよ!」
「ウチが見習いなのは、まだサナエル聖堂で行われる昇格の儀をしてないからだよ。近くに大聖堂がなくってさ」
知らない言葉が出てきたので詳しく聞く。
聖職者には段階毎の階級があるらしく、先程彼女が言っていた昇格の儀とやらで格付けされていくそうだ。
「どれだけ知識を付けても、その儀式をしないと見習いのままなんだよね。だからウチ、君達に着いていって聖堂へ行きたいって目的もあるよ」
「なるほどな。シスター業界もいろいろ大変なんだな……でもソマリ、ちょっと聞きたいんだがいいか?」
「何、イット君?」
「今いるここも教会だよな? ここでその儀式は出来ないのか?」
「うん……残念ながらここはガブリエル教会で、大天使ガブリエル様を信仰する場所だからさ。ウチが信仰しているのはサナエル様なんだよね。だからここでは昇格の儀を行えないんだ。同じ信仰の司祭様が居ないと出来ないことなんだよ」
そうか……そうだよな、当然だけれど意識していないかった。
このカブリエル教会はその名の通りガブリエルを崇める教会だよな。
サナエルとは「エル」の部分しか被っていないし疑問を抱いても良かったかもしれない。俺がどれだけ、聖職者に興味を持っていなかったのか自覚した。
「信仰宗派が違うってことだよな?」
「そうだよ。ウチもイット君達みたいにここで育てられたけど、ガブリエル様じゃなくて昔からサナエル様を信仰しているんだ」
「今更かもだが、こことは違う宗派同士で生活してたんだろ? 大丈夫だったのか?」
「それは全然問題ないよ。大天使信教っていう大きな括りがあるんだけど、前提の一つで対魔王軍への教えは共通だから横の繋がりが強いんだ。人族は皆味方って考えね。その中でも特にガブリエル信教とサナエル信教は仲が良いんだよ」
横にいたコハルが「へー」と感心。
だから民間医療みたいなことが出来るのに見習いという立場なのだなと納得する。
見習いからの昇格が目的で、その間同行してもらう。その区間で彼女が必要かどうかの判断をするのが落とし所ではないだろうか?
念押しするかのようにソマリが追加する。
「さっきイット君が言っていた食料費の問題だけど、確かにウチの分が増えるのわかる。その代わりに生理品や回復薬代が浮くって考えてくれると嬉しいかな? しかも、痛みもすぐ消せるから女性冒険達もスムーズに旅が出来るよ? どうかな?」
ソマリは、主に女性等に問いかける。
言葉のニュアンス的に、痛みとは生理痛を指しているのだろう。
確かに食料費は雑貨品や薬品代のコストを押さえる話で収まったであろう。
宿泊費等の問題もまだあるが、何より女性冒険者が抱える悩みを解消出来るのは彼女等にとって最も大きいと思う。
男の俺は女性の痛みはどうやっても分からないが、辛いということなら理解出来る。定期的にくる辛さが無くなることはやはりメリットが勝っているのでは。
勿論チーム全体のメンタル面で考えてもだ。彼女の問いに誰も反論しないのが、その答えで――
「まだ納得いきませんわ!」
いや、まだルドは納得出来ないらしい。
「貴方、先程聖堂へ行きたいって目的もあるとおっしゃっていましたわ。目的も……ということは、他の目的があるということでなのでしょ?」
「え? まあ、あるけど……」
「隠し事は無しよ! 全部洗いざらい話しなさい!」
何をそこまで問いただすのか分からないが、そう言われたソマリは「うーん……」と考えた後に「まあいっか!」と言いながら、おもむろに俺とロイスの腕を掴み、自分の方へと引き寄せた。
「え?」
「はぁ!?」
俺やロイスはもちろん、それを見ていた女性陣(主にルドとシャル)は驚きの声を上げる。男達を引き寄せ、彼女は腕を絡ませ俺達の間に入る。服越しからも伝わる柔らかさと暖かさを感じる。
ソマリは満面の笑みを浮かべる。
「ウチはこの勇者二人にもの凄く興味あるんだ。聞いたんだけど、サナエル様と直接会って話をした偉大なる勇者達だからね。あ~……今こうして触れているだけでもサナエル様の御加護を受けている気がする」
彼女はそう言いながら、ロイスの肩にトンと頭を乗せる。それを見て女性陣は爆発。
「何やっているの!? 早く離れなさい!」
「不埒者め……滅します」
「え~どうして? ちょっと腕を組んでるだけだけど? お二人はもしかしてロイス君にしたことないのかな? 彼等優しいから、お願いすればこれぐらいさせてくれるよ。ね、ロイス君」
ソマリの言葉に二人の火に油を注ぎ、そろそろ収拾が付かなそうだと判断したロイスがまとめる。
「と、とりあえず、ソマリちゃんをパーティーに向かい入れることにして良いかな? パーティーの安定感と今後の生活面を考えてメリットは大きいと思う。もし役に立たないという判断になったら旅の途中で切っても良いと彼女自身から聞いている。皆どうかな?」
俺とコハルは賛成だが、残りの二人が問題だ。鬼の形相の二人を横目で見る。
何とか自我を保っている様子で、
「その子を連れて行くメリットは確かに感じましたわ。でも……気持ちは納得いきませんけど」
「……シャルは、ロイス様にお任せします」
渋々二人は納得した。その様子を見てまた笑みを浮かべるソマリ。
「良かった! 改めてウチの名前はソマリだよ。皆よろしくね!」
それと同時に、俺とロイスに絡んでいた腕を解放する。
……少し惜しい気がするが良かった。
「……」
俺はコハルから視線を感じ、見ると彼女は俺から目を背けた。
少し機嫌が悪そうである。
せっかく仲の良いソマリが仲間に加わったのにどうしたのだ?




