第64話 できたよ
あれから一週間。
情けないが、ロイスに立て替えて貰い図書館へ通い、またロイス家に招かれ役職診断機を取り寄せてもらった。
至れり尽くせりで、本当に申し訳ない気持ちになる。
だが、ここで遠慮する訳にはいかない。
付加魔法技術を学び、役職診断機の構造理解、改造をしていく。
ついでにギルドカードの元となるカード達の性質も理解し、俺はほぼ不眠不休で《《とあるレジシステム》》を開発した。
そして、それがついに完成し何回かのテストの結果、運用可能と判断。
本当はもっとテストしたいのだけれど、時間が本当に無い。
「イ、イット君、重そうだけど大丈夫かい? 僕の持っている奴と交換しようか?」
「い、いや……大丈夫だ……」
「イット! ガンバレー!」
改造した役職診断機とカードの束を抱えながら俺とロイス、そしてコハルの三人はガンテツ屋に戻ってきた。
筋力の少ない俺だけが汗を垂らしながら、店の中へ入っていくと、俺達に気付いたガンテツとアンジュのドワーフ二人。
俺を見るなり、アンジュは目を吊り上がらせ近づいてくる。
「ア、アンジュ、た、ただいま――」
「ただいまじゃないわよ! いったい何処でほっつき歩いてたのよ!」
確かに彼女とガンテツの顔を見るのは数日ぶりだった。
コハルはちょくちょく帰らせて、図書館とロイスの館に居座っていたから怒られるのも無理は無い。
アンジュは一緒にいたロイスを睨む。
「それで、そこのお坊ちゃんは?」
「お、お坊ちゃん?」
突然指されたロイスはたじろぐ。
「色白だけど長耳ではなさそうだし見た感じ人間ね。イットと同い年かしら? フフン、と言うことは私より年下」
「えーっと……君はもしかしてドワーフ?」
「そうよ! アタシの名前はアンジュ。そして35歳! 身長差で決めつけちゃダメよ、アタシの方が年上! だからちゃんと敬いなさい!」
鼻を長くしたように偉そうな相変わらずのアンジュに俺は溜め息を吐く。
ロイスの正体や立場を知らないのは仕方ないが、失礼だと注意してやろうと思った時だった。
「アンジュ、お前さんこそ無礼をするな。その少年は貴族じゃ。しかも王族の側近程の立場じゃ」
ガンテツは白髭を撫でながらアンジュを静止させた。
「お、王族の側近!? あの剣と盾の一族の!? この子が!?」
「ああ、腰に差したその剣を見れば分かる」
ロイスの持ってきた剣に注目する。
鞘から柄まで装飾は豪華と言えないシンプルな物だ。
ガンテツが続ける。
「その剣は、王族を守る剣の一族のみが持つことの許されるもんじゃよ」
「え、凄い!? よくわかりましたね!? 何でわかったんですか?」
「何でってそりゃあ、ワシが作ったからな」
ガンテツの言葉にロイスは驚く。
「え!? ほ、本当ですか!?」
「ああ、お前さんらん所の使いから依頼がきてな。ワシの身分的にも公表できんかったんじゃろう。だが紛れもなくその剣はワシが打っとる。信じるかはお主に任せるが」
「感激です! まさかこの剣を打った方にお会い出来るなんて!」
彼等が握手を交わした所で、俺は改めて持ってきた魔道具をレジ上に設置する。
「話を進めて良いか? まあ、ロイスに関しては後で二人に説明する。今は時間が無いんだ、一刻も早く導入しないといけない」
「ん? ロイス……まあ良いや。で? その変なやつは何なのよ?」
アンジュの質問にようやっと答えられると口元がニヤリと歪んでしまう。
「よくぞ聞いてくれました。こいつは――」
待っていましたと意気込みながら話始めたその時……
『失礼する』
入り口から籠もった男の声が掛かる。
聞き覚えのある声と、足音と共に聞こえる金属音。
見ると全身に鎧を身につけ、そしてウチで買ったドラゴンフェイスの兜を被った常連のロジャースさんだった。
更に、彼の後ろにはもう一人鋼の鎧を待った人物……というかトカゲ? ドラゴン?
二足歩行する緑の鱗を見せたトカゲ人間を連れて入ってきた。
『……ワーウルフの娘はいるか?』
「あ! おじさんだ!」
コハルにとって初めて買ってくれたお客さんであるロジャースだが、商売人として少し嫌な予感がする。
まさか、あの後冷静になって、例の兜を返品したいとか……
ロジャースさんが近寄るコハルに視線を合わせしゃがみ込む。
『久しぶりだな……』
「久しぶりだねおじさん! 元気だった? そう言えば後ろの人は誰?」
『ああ……実はな……』
気になる後ろのトカゲ人間に、ロジャースさんは顔を向ける。
『……彼女は……初めての仲間だ』
「ホント!? おじさんにお友達が出来たんだね! 私凄く嬉しい!」
『ああ……君が選んだこの兜を見て、リザードマンの彼女が声を掛けてくれたんだ。最初はただ、同じリザードマンだと勘違いして声を掛けたみたいだったがな』
ロジャースの軽い笑い声に、リザードマンは頬辺りを赤らめ彼を睨んでいた。
なるほど、アレがリザードマンか。
しかも彼女ということは雌……いや、女性なのか。
それなら、リザードウーマンではないか? とどうでもいいことを考えていると、ドワーフの面子も彼等に集まる。
「ロジャースさんに仲間!? しかも、女性ってマジなの!? もしかして付き合ってるの!?」
「ほほう、鱗の綺麗さからしてリザードマンの新米じゃな。ロジャース、お主の年を考えると仲間というより弟子ではないか?」
『ああ……確かに彼女は里から抜けてきた駆け出しだが、腕は中々だ。種族相性もあるが防衛戦士としての素質が十分あると俺は見ている』
いつの間にやら、今度はロジャースさんの話で持ちきりになっていた。
ヤバイ、この話を聞いている場合では無い。確かに彼等の馴れ初めも気になる所だが、このまま話に巻き込まれたら俺達の四日間が有耶無耶にされてしまう。
俺は一つ咳払いをし話を切ることにした。
「あー、皆さん聞いてもらえるでしょうか? せっかくロジャースさんも来てもらったので、新規システムの運用を解説しようと思います」
俺の言葉に「あ、忘れてた」と皆は耳を傾けてくれる。その中のアンジュが代表のように聞いてくる。
「それで? その施策とアンタ達の持ってきた機械が何か関係あるんでしょ?」
「ああ、そうだ。俺の居た世界でもこのシステムを採用している所はかなりある。そしてこの世界のサービス形式として見かけないシステムだ。それをここに居るロイスの力を借りて作ってきた」
「まったくもう! 数日帰って来ないと思ったらそんな物作ってたなんて……ちゃんと報告しなさいよアホイット! し、心配するでしょ!」
「う……それは、ゴメン……」
本来なら、何をしたいのか、いつ頃出来るのかを話しておくべきだった。
やはり、焦りで周りが見えていなかったのかもしれない。
反省しなければならない。
溜め息を吐くアンジュが続ける。
「別にいいわよもう……それで、そのよく分からない魔道具はなんなのよ?」
ようやくこの話に入れると思いはりきって説明に移った。
「これから導入するこれは、ポイントカードシステムだ」
「「「……ぽいんとかーど?」」」
皆首を傾ける。
やはりこのシステムを知らないということは浸透していない物なのだろうと改めて確認できた。
「ああ、具体的な内容より先にやりたいことを言うよ。それは――」
一呼吸置き、その意志を告げる。
「10%ポイント還元だ!」




