第51話 閉店のリミットよ
「何かあったら君達の力になるよ! お金の援助も父上に確認しないとだけど、何でも言って欲しい!」
ロイスはこれから用事があるとのことでおいとますることにした。
彼はいつでも来て欲しい何て言ってくれたが、貴族の館を友達の家感覚で訪ねる度胸は俺に無い。いずれまた行くことにはなるだろう。俺とコハルは一緒に日の暮れた帰り道を歩いて行く。
「イット! ロイスって凄い良い人だったね!」
「ああ、アイツは凄い奴だからな。優しいし、俺よりも強いし……」
俺は、ゴロつき冒険者達と戦った時のことを思い出す。
俺の今の力では不意を突けても、本当の戦いにおいては経験が浅過ぎる。
相手はこの世界における魔法という特性を理解し、陣形を組み、そして威圧や焦り……敵の心中を察し戦略を立てて戦ってくる。
「あの時だってそうだ……」
男達に挑もうとした自分は、魔神を倒したという自負が心の中にあった。
だが、あれはベノムの指示や魔物達の協力があったからだ。
俺自身の力ではない……
「俺は、まだ土台にすら立っていないんだ」
ロイスは剣を巧みに振るい、俺の知らない魔法を使っていた。
剣に解析魔法を使用し、浮かんだテキストを塗り替えていたように見えた。
・へー魔法ね。それじゃあ付加魔法武器とか出来るの?
・イット! アンタ付加魔法武器出来るんでしょ!
アンジュの言葉を思い出す。
ロイスの剣は魔法の使用後雷を帯びていた。物に魔法をかけたと言うより、あの動作は物の性質を《《書き換えていた》》ように見えた。
つまり解析魔法の応用編。それが付加魔法ということか?
俺の育ての親であるマチルダも、この魔法の重要性を言っていたような気がする。
「イット」
「……なんだよコハル」
「また、助けてくれてありがとう」
「助けた?」
「うん! 私が捕まった時に瓶を割ってくれたから、助かったんだよ!」
あの時は必死に考えて、コハルを解放する手段を考えた。
だが、最終的には俺の詰めの甘さで……
「ありがとうコハル……でも、最終的に俺が迂闊な行動を取ったから危険に……結局ロイスが来なかったら俺達はどうなっていたか……」
「でも!」
コハルが大きい声を上げた。
いつもの騒がしさではなく、強い声色に俺は少し驚いてしまった。
「それでも、イットが私を助けたことは変わらないよ! 私はそう思ってる!」
「いや、でも結果が……」
「ロイスが全部やっつけてくれたけど、イットが魔法を使ってくれなかったら、誰も来てくれなかったんだよ! あの女の子も、イットがやらなかったら、この先も奴隷だったかもしれないんだよ!」
コハル……
「だからイットも凄いんだよ! もっと自信持って!」
……いつもうるさいコハルが、真剣に俺のことを見ていてくれていたことに、何故か心が苦しくなる。
せっかく、こんな俺を肯定してくれているのに自分を否定し続けるなんて良くないな。
それは俺を褒めてくれているコハルを否定することになる。
「……ありがとうコハル」
「うん!」
「俺もコハルが居てくれて助かったよ。いつも一緒に居てくれてありがとうな」
「ん? えへへ、良いんだよ!」
無垢な照れ顔を見て、改めて思う。
今の俺は……魔法が使えるだけの無力な子供であることを自覚させられた。
強くなりたい。
魔王を倒せる程になれるか分からないけれど、せめて自分と……誰か一人でも救える力が欲しい。
ガンテツ屋に戻ると何やら騒がしかった。
すぐさま店の中に入ると、そこには睨むガンテツとアンジュ、そしてマスクを付けたベノムが向かい合っていた。
「ふざけないでよ! 閉店するってどういう意味よ!」
「言葉の通りさ。売り上げが少し上がってるのは理解してるけど、全然足りないんだよな~これは」
アンジュの怒声をあしらい、売上書のような紙に目を通すベノム。
それに対してガンテツもベノムに返す。
「童を二人入れた所で、現状が急変する訳ないじゃろ。まして一週間そこいらで変わるはずがない」
「やだなーガンテツ。イットは転生者だ。あの子の持つ技術と知識はこの世界に確変を起こす力を持っている。彼の居た世界の知識を引き出せれば、簡単にこの酷い売り上げも右肩上がりになる訳さ」
「イットの居た世界の……お主まさか!?」
ガンテツの手に握りこぶしが作られたのが見えた。
まずいと思い、俺は声を上げる。
「ベノム!」
店に響く俺の声を聞いた三人は、こちらを向く。
「イット! アンタ達ようやく帰ってきたのね!」
若干怒りをぶつけるように叫ぶアンジュ。
それにベノムが続く。
「ほほう君達、丁度良かったよ」
「ベノム! 閉店させるって聞いたけどどういうことなんだ!」
「簡単さ、君がちゃんと実績を上げなかったから閉店するって話だよ」
「さっきガンテツさんが言ってた通り、一週間で実績をなんて無茶にも程がある!」
「無茶も何も、君は勇者なんだ。勇者は私達の持たない技術を持っているだろ? それでこのボロ屋を何とかするという話じゃないか。それとも君には無理だって言いたいのかい?」
……何だ?
何かベノムに違和感を抱く。
彼女は少しおかしい所はあったが、こんなに現金な人間……いやエルフではなかったと思う。
まるで俺達を急かしているような口調だ。
彼女は続けた。
「そうさね……そこまで君達が言うなら、あと一ヶ月待ってあげるよ」
「い、一ヶ月……」
「一ヶ月待って結果を出せなければここは閉店さ。そしたらここに娼館を建てようか! 異種族の娼婦を集めて、マニア向けの店にすると他の所と差別化出来るだろうしね」
「一ヶ月で売り上げを上げろなんて、俺の世界だった無茶な問題だ! ベノム、アンタはこの店を潰したくて仕方ないのか!」
「まあ、ぶっちゃけて言っちゃうと、最初から無理かなと思って君を導入してみたんだよ。けれど、異世界の知識を持った君が一ヶ月じゃ無理というなら無理なんだろうね」
「……まさか」
ベノムがこの国に行く道中で言っていた「期待なんかしていない」の言葉の意味は、優しさからでは無く、元からここの再建は無理だと判断していたということなのか。
現代知識でも再建不能なのかを判断したかったからか。
完全にこの店を見限る理由が欲しかったからなのか。
「アンタ達! 勝手に話を進めないでよ!」
アンジュは今までに無いほどの怒りをあらわにした。
「ここは、アタシの父さんと母さんが残してくれた大切な店よ! 他人のアンタ達で勝手に決めないでよ!」
「アンジュ……」
「ハハハ、感情論なんて金の前では通じないよ。アンジュ、君達は今アタシ等のお荷物になっちまっているのさ」
「何がお荷物よ! 勝手にアンタ等がお父さん達の店と土地を買い取って、好き勝手してるだけじゃない! この卑怯者!!」
アンジュは近くにあったホウキを手に取り、ベノムに振り下ろした。
「アンジュ!?」
「アンジュちゃん!」
「止すんじゃアンジュ!」
しかし、その振るったホウキは空を切る。
ベノムは分かりきった様に軌道のギリギリを外れ、マントに隠していたであろう拳銃を取り出す。
銃口はアンジュの額へ向けていた。
「何よその鉄の塊は! 脅してるつもり?」
「何って……ハハハ! まさか知らないなんて冗談は止めて欲しいなあ」
アンジュの反応を見たベノムは笑った。
「止めろ! 止めるんじゃ!」
ガンテツが必死の表情で彼女等の間に割って入ろうとする。ベノムは笑いながら、引き金に指を掛けた。
「この拳銃はね、君のお父さんが勇者にそそのかされて作った悪魔の武器なんだよ」
俺はベノムの言葉に耳を疑った。




