第47話 人間の奴隷よ
俺達は硬直してしまった。
俺等と同い年ぐらいの少女が、男達に集られ犯されているのだ。
「……」
甘い匂いと共に異様な汗の臭いが混じる中、俺は目が離せなくなった。
日常から一変、地下牢の出来事を思い出す。大切な人々が、理不尽な扱いを受けていたあの時を……
何もしなかったあの時の自分を……
「イット……」
「コハル……この匂いは何かおかしい。お前も急に発情したんだよな?」
「う、うん……」
俺は自分の鞄を弄った。
「俺も変な気分になってきた。これはもしかしたら媚薬ってやつなのかもしれない。さっき買った薬を渡すから何とかは憲兵を呼んできてくれ。俺はアイツ等をやる」
「で、でも……」
「嫌でも、その薬を使わないと助けを呼べないだろ?」
「そうじゃなくて! イットはどうするの?」
「大丈夫。あれぐらい何とかして――」
コハルを宥め、鞄から薬を出そうとしたその時だった。
「誰が何とかするって?」
「え……」
それは急だった。俺は後頭部を殴られ、更に蹴り飛ばされる。
「イット! んん!?」
コハルは後ろから体を拘束され、口を押さえつけられていた。視界がブレる中、何とか俺は顔をコハルに向ける。
彼女の後ろには、モヒカン頭の如何にもな男がニヤッと笑った。
「おい何だ?」
奴隷少女に群がっていた柄の悪い男達がこちらに気付いてしまった。
最悪だ……
ほんの少し感情的になってしまったが故にと後悔が押し寄せてくる。
コハルを拘束したモヒカンは、俺の顔に唾を吐きかけ嘲笑う。
「俺が戻って来たらよお、このクソガキが俺達の便所の最中にちょっかいしてこようとしてたんよ」
「は? おいおい、お楽しみの最中に水を差してくるっちゃあ見過ごせねぇな?」
「なんだ? 可愛そうな女の子を見て助け出そうと思ったのか? 残念、これは俺等のもんなんだよ」
男の一人は奴隷少女の腹を蹴り飛ばす。
「うっ……」
少女は痛みに悶え、そして嘔吐する。それを見て更に男達は腹を抱えて笑い飛ばしていた。その中の一人が、少女の髪を掴み上げ俺達へと顔を向けさせた。
「坊主、このガキはな。近隣に潜んでいた盗賊達の玩具にされていた所を俺達が助けてやったんだ。俺達冒険者の善行に寄って命を救われたんだぜ」
「あの時はもっと酷かったよな? 本当に家畜以下に扱われていた感じだったしな。慈悲深い俺達は衣食住を与えて、しっかり奴隷として飼ってやってんだよ」
「ま、処女じゃなかったから高く売れねぇし。娼館に行くより金の節約になるって話になったんだけなんだけどな!」
「おいおい、取り繕ってやったのに正直に言うなよ。聞こえが悪くなっちまうだろ!」
和気藹々と男達が談笑し、笑い飛ばした。
何て理不尽なんだ。
彼女は盗賊に捕まった後も、助けられた後ですらも……
俺は地下牢に居た時の頃を……昔のことを思い出していく。
立場の低い者を蔑む醜い心を……
勝手に価値を植え付けられ、その価値を理由に理不尽な仕打ちをしてくる奴らを!
俺は痛みを押さえながら身体を起こす。
「自分の……」
「ああ?」
「自分の欲望の為に……誰かを踏みにじるのが……そんなに楽しいか?」
「はあ? 何言ってこのガキ?」
「おいおい、誤解してるみたいだからちゃんと教えてやっからよ」
男の一人が、奴隷少女の首を掴み上げる。
「う……」
少女の苦悶の表情をこちらに見せる。
男は言い放った。
「良いか? コイツは俺達が危険な冒険で得た報酬なんだよ! 性欲処理ぐらいにしか使えねぇガキだが、すでにコイツは俺達の物なんだよ! 俺達の所有物だ、分かるか?」
「……」
「奴隷になった時点でコイツは人じゃない。物なんだよ! コイツをどういう風に使おうが物である以上、お前にとやかく言われる筋合いはない! この国も奴隷制度は認めてるからな!」
奴隷制度?
法律も奴隷の存在を認めているのか?
奴隷に何をしても良いというのか?
そんな理不尽が通って良いのか?
そうこうしていると、コハルを羽交い締めにしていたモヒカンが声を上げた。
「おいお前ら見ろよ! このバンダナのガキ、中々良いからだしてるぜ! いっちょ前に乳もデカくなってやがる!」
「イヤ! さ、さわらないで!」
「おほー! コイツ生意気にすげぇ発情してやがる! すげぇ感度だ!」
「ほほお、いいじゃねぇか。貧相なソイツには、ちょっと飽きてた所だったんだ」
「いいや、コイツこそ奴隷として売っちまおうぜ! 高く売れるんじゃねぇか?」
「そうか、なら処女かどうかを確かめてやらねぇとな! ハッハッハ!」
この下卑た笑いには本当にウンザリしてくる。コハルも、この甘い匂いの影響でいつも以上に発情してしまった状態らしい。
力が入らず、好きなようにされてしまっているようだ。
すまないコハル。
俺が迂闊だったばかりに……
「いい加減に――」
俺は鞄から、先ほどコハルに渡そうとした瓶に入った薬を取り出し――
「しろおおおおおお!!」
それを地面へ叩きつけた。




