第30話 人族への道よ
外で眠っていた兵士や、ここの争いで隠れていた使用人達を全員皆殺しにする。
ここで働く人達に罪がないことは分かっているが、ここでの目撃者を生き残らせる訳にはいかないというベノムからの願いだった。
魔物達の捕虜や口止めの為にベノムの配下に付かせても、食糧の問題や反逆されても困るということで殺したのだ。
中には食人族の魔物もおり、彼らの糧にもなってもらった。
館内の金品財宝、そして食料や薬品等を皆で外へ持ち出し、残った死体全てをマチルダの屋敷と共に燃やし証拠を隠滅することにした。魔物達には屋敷内の食料と薬品類を全て渡した。
ベノムは金品や魔道具、そして俺が着いていくこととなった。今後この人にどう扱われるか分からない。下手したら殺されるかもしれないが仕方ない。
そういう約束だったから……
「それじゃあ、これで取り分けは終了。館も盛大に燃えてるし私の部下共も来るから、そろそろアンタ達も逃げな。死人が出るよ」
適当に手を振るベノムに、マチルダが魔物を代表して前に出る。
「この度は、その子どころか魔物達全員を救って頂き……本当にありがとうございます」
「ああ……本当はここまで盛大にやるつもりはなかったし、それに勇者の存在を知った奴は殺した方が良いんだけどね。今回口封じするのは免除しておいてあげるよ」
偉そうなことをベノムが述べると、俺の頭に肘を乗っける。
「貴方の可愛い息子さんは、私がもらっていくよ。そういう約束だからね」
「はい……話は聞いてます。この子が生きて、ちゃんと人として幸せに生きてくれるなら……」
マチルダは後ろを振り向く。
奇跡的に性奴隷だった魔物達は全員生き残り、皆俺を見て笑顔を見せた。
彼女は続ける。
「本音は私達と共に来てほしいという気持ちでいっぱいです。ですがこの子の本当の幸せを考えれば、こうするのが最善ですから」
「本当に? 私がこの子を殺すかもしれないけど?」
「その時はどんな手を使ってでも貴方を殺しに行きます。あの城主のようにね」
「おー、こわ」
笑いながら、ベノムは俺を前に出す。
「ほら、最後に何か言ってやりな。もう一生会わないかもしれないしね」
俺はマチルダ……いや、魔物達皆の前に立つ。俺の言葉は決まっていた。
「皆……本当に、一緒にいてくれて……その……本当にありがとうございました!」
心が詰まって上手くまとまらなかった。
でも、それでも精一杯の感謝の気持ちを伝えたつもりだ。
頭を下げる俺を呼び、マチルダはしゃがみ込み、俺と同じ目線になった。
「私達の方こそ貴方が居てくれたから、今ここに居られた。ありがとうイット」
「マチルダ……そのオレ……」
「……」
「その……迷惑かもしれないけど、貴方のこと、本当の母親だと思っているんだ。凄くオレにとって大切な存在なんだ」
「イット……」
「だから、もう何かのために死のうと思わないでほしい。生きていてほしいんだ! その……死んだら悲しいから」
そう言うと、マチルダはまた俺を優しく抱きしめた。
暖か温もり。
体温ではなく、本当に心の底から暖かい気がした。
「私もよイット。貴方が死んだら私も凄く悲しい。私も後を追って死ぬかもしれない。だから生きて。絶対に生き延びて」
「……わかった!」
俺も彼女……最愛の母を強く抱きしめた。
荷物を持った魔物達は手を振りながら離れていく。
これからの魔物のことは、まだ決めていないらしいがしばらくは20体の魔物達は一緒に逃げるそうだ。
心配だが、俺にその行く末を見守る権利はなかった。
「それじゃあ、そろそろ迎えが来そうだ」
「……はい」
「魔物の中にも、あんな奴らがいたんだね。私も勉強になったよ」
欠伸をしながら燃える屋敷を眺めるベノム。俺はずっとマチルダ達の後ろ姿が消えるまで見送っていた。
が……
「ん?」
何かがこちらに近づいてくる影が見える。
月明かりに照らされ、正体を見ると身に覚えのある犬が近づいてきた。
「イットオオオオオオ!!」
人語を叫びながら近づいてくるその犬に、俺は驚く。
「コ、コハル!?」
「イットオオオオオオ!!」
「ぐはっ!?」
走っている途中で人間の姿に戻った裸のコハルは、そのまま飛び上がって抱きついてきた。ベノムもその様子に気づき、コハルに話しかけた。
「どうしたんだい君? ちゃんとお別れしただろ?」
「いやあ! イットとお別れやだあああ!」
裸のコハルが頭を擦りつけてくる。
それをゆっくりと引き剥がし、俺もコハルに言う。
「コハル……でも仕方ないんだ。オレも寂しいけど、ベノムとそういう約束だから」
「いやだ! イットと一緒にいたい! 着いていく!」
「そんな、わがまま言われても……」
『良いんじゃないか? 別に連れてきても良いよ私は』
「え!?」
いつの間にかガスマスクを付けていたベノムは、適当に答えた。
『君がちゃんと世話をしてやるなら別にどっちでもいいよ。無理なら早く追い払いな』
「え、で、でも……いいの?」
『別に君だけしかダメとは言ってないし、そのチビっ子一匹ぐらいならペットみたいなもんさ。犬の姿になれば万が一でも誤魔化せるしね』
予想外でどうしたら良いか分からず、コハルにも聞いてみる。
「コハル。これからオレに着いていくってことは、凄く大変だと思うんだ……」
「うん大丈夫! これからよろしくね!」
返事が早すぎるので、もう少し続ける。
「この世界は君達魔物を嫌がってる人が沢山いるみたいなんだ……」
「わかった! がんばるね!」
「いや、本当にわかってるか!? きっと、マチルダ達と一緒に居た方が君にとって幸せに……」
「イットが助けてくれたから! わたしもイットのこと助けたい!」
「え……」
彼女は小さいからだだが真っ直ぐこちらを見る。
「イットのこと助けたい! 良い子にするから、一緒に……連れてって……」
上目遣いの女の子に、俺の男心は折れた。
「……ああ、わかったよ。これからよろしくなコハル」
「うん! ありがとうイット!」
『ちゃんと責任を持って世話しなよ。それと私もこれからよろしく! 勇者イット』
「は、はい……よろしくお願いします。ベノムさん」
「はいはい、よろしくおねがいしまーす!」
こうして、俺は外の世界へと旅立つ。
これでようやく、この世界の魔王を倒す旅が始まりそうだ。




