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“それ” は劣化チートおじさん  作者: バンブー
成人編(開示編)

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第184話 お願い

 ベノムの腕を掴み起き上がらせる。

 所々やけどを負っているがそれでも立てるほどではあった。

 傷を見て思わず謝ってしまう。


「ベノム、すまなかった」

「私が仕掛けたことさ。それに勝った奴に謝られるとムカつくから止めてくれ。奇跡を使えばこんな物すぐに治るんだから」


 そう言いつつさっそく彼女は奇跡を使い身体の傷を直し始める。

 俺はそれを眺めながら質問する。


「改めて……ベノムは神官だったんだな。気づかなかった」

「そう、聖印を見せたことないからな。ほとんど使わんのさ……って言いつつ、君と出会った時に持ってきていれば魔神に食われることもなかったんだけどな」

「いつも持っていないのは自分の正体を隠すため?」

「うーん、まあそんな所かな」


 濁しつつ彼女は続ける。


「……立場上はガブリエル教の神官だけど、信仰心があるかと言うと内心は微妙な立ち位置なのさ。昔はもっと誇らしく神官だと名乗り、弓を引きながら冒険者を手助けしている初々しい時代もあったと思うんだよね」


 そう聞くと、新米冒険者の美少女エルフが仲間の為に一生懸命支援している姿を想像してしまう。

 どうしてこんな風になってしまったのだろうと時の残酷さを感じてしまった。

 俺は彼女の顔を見ていると埃をはたきながらベノムは話し出す。


「それじゃあこれで、お互い対等な立場になったということで私からのお願いがある」

「お願い?」

「そう、命令じゃなくてお願い。私達スカウトギルド……この世界の裏で平和を祈る旧ガブリエル教団の代表として、イット、転生者である君に頼みがあるんだ」


 すると、いつもの悪戯な笑みをベノムは見せる。


「暴走したロイス……魔王化したロイスを一緒に止めてほしいんだ」

「……」

「私より強くなった君が拒否すれば、もう私は止めることが出来ない。だから、友人としてのお願いだ」


 友人……

 ベノムは性格が悪い。

 そんな風に俺のことを呼ばなかった彼女から言われるとは思わなかった。

 一度決めた事なのにまた考えが傾いてしまう。

 ……


「……とりあえず、家族に会わせてくれ。話はそれからにしよう」

「……はいはい」


 とにかく今は家族に会いたい。

 話はそれからだ。





 エレベーターでスカウトギルドのアジト内部に戻り、ベノムに案内される。

 長く続く廊下と壁に沿って並ぶ扉。

 それをいくつも通り過ぎ、何の変哲も無い一つの扉の前でベノムは止まる。

 彼女は扉をノックし躊躇無く中へ入り、俺も続いて中へ入る。


「イット!!」

「コハル!?」


 先ほどとは違う服を着た人間姿であるコハル。俺を見るなり駆け寄って抱きしめられる。

 俺も良かったと強く抱きしめた。


「良かった! 本当に……良かったああああああ!!」


 泣きながら俺の胸に顔を埋めるコハル。

 心配かけたみたいで申し訳ない気持ちになる。


「すまないコハル。心配かけたな」

「無事で良かったよ……本当に心配したんだよ!」


 俺もコハルが無事で安心した。 


「ウィムとサニーは?」

「それなら――」

「ここにいるわよ」


 コハルの言葉に被るアンジュ。

 彼女の声の方へ向くと、用意された椅子に座り娘のサニーを抱えたアンジュ。そして抱っこしながらウロウロと歩きキョトンとした息子のウィムとニコニコのソマリがいた。


「パパが帰ってきましたよ~」


 ソマリがウィムの手を軽く掴みながら優しく手を振らせてくる。

 とりあえず、皆落ち着いた状態のようで良かった。


「イット!? 服に血が付いてるよ!? それに服に穴!? と言うかこげ臭いし! え? それにベノムさんも血まみれ服ボロボロ!? 二人とも大丈夫だったの!?」

「あーいや、これは……その……」


 さっきまで殺し合いをしていた何て言えない。

 言葉を濁しているとベノムが割り込む。


「時間が無い。今イットの命をロイスが狙っている」


 その言葉に場が静まりかえる。

 それを無視してベノムは続ける。


「今、私達スカウトギルドが総力を結集しロイスの進行を追っている」


 彼女の言葉に反応したのはコハルだった。


「ロイスって……あのロイス君が? イットを殺しに……」

「そうだ。奴は今腕の立つ魔法使いを探し殺そうとしている。私達が把握している限りで重態の状態でも蘇生処置によって死者は出していない……たぶんな」


 そう言いつつ、ベノムは俺の肩を叩いた。


「そこでもう一人の勇者、イットに力を借りたい」

「イットに……」

「ああ、今の彼はあの戦闘向きで無いと言われた付加魔法使い(エンチャンター)でありながら、本気を出せば私以上の戦闘力を持っていることがわかった。私達と協力して一緒に魔王となったロイスを倒そう! な! イット!」

「……」


 俺だけでなく、またも皆が静まりかえる。

 そうだ。

 皆、ロイスを倒してほしいなんて思ってはいない。

 未だに、彼が暴走しているという話を信じたくないぐらいだ。

 俺は子供達を見る。

 この子達を巻き込むわけにはいかない。

 やはり家族を連れて逃げるのが妥当だと頭の中で結論付いた時だった。


「別に王都ネバから逃げても構わない」

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