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“それ” は劣化チートおじさん  作者: バンブー
成人編(開示編)

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第182話 死の間際

 感覚が加速し、額の手前に飛んできた弾丸の速度が遅くなる。

 周りに飛び交う弾丸も空気圧で線を描きながら空中でゆっくりと進み続ける。

 銃を乱射しつつ姿勢を低くし、マントを翻すベノムも動かなくなる。

 久しぶりにここへ来た。

 音速の世界。


「時間が無い」


 俺は魔法を展開する。


氷弾(アイス・ブラスト)!」


 氷が圧縮し剣のような形状へ変わると音速の世界で動き出す。

 すぐさま、ベノムが乱射する銃へと向かっていき彼女の腕に直撃、切断する。


「すまないベノム……」


 機関銃は握った腕ごと離れていき、弾を発砲しながらゆっくり飛んでいく。

 だが、更に俺は攻撃を続ける。


風弾(ウィンド・ブラスト)!」


 空気が圧縮され大きな矢の形状へと変形し動き出す。

 ゆっくり進む弾の進路を変えるほどの風圧でベノムの片足へ当たり、その力で片足がもげる。

 これで確実に彼女の動きを封じた。


「待ってろよベノム」


 俺は足を引きずりながら、どかしきれなかった弾丸を避けつつ、迷路のように迂回しながら彼女の背後に付く。

 ずるいかもしれないが、これしか彼女を止める手立てが無い。

 俺はすぐに使えるよう回復薬の準備をし、ベノムの腰からナイフを一本借りておき、彼女の身体を押さえた。


「よし」


 早く戻すぞ。

 魔法元素(キューブ)を自らの胸から取り出し、強化設定を元に戻していく。短時間の情報拡張であった為身体への負担も少ないはず。

 手足を吹き飛ばしたベノムならさすがに力で押さえつけられると確信する。


身体の情報拡張ステータス・エクステンド


 時間がゆっくり加速を初め、元の流れへと感覚が変わっていく。

 これで何とか終わった。

 俺が安堵したその時だった。


「……え?」




 パアン――!!




 羽交い締めにしているベノムの背後と俺の隙間から破裂音が響く。

 俺は目線を下に向けると……


「あ……」


 自分の胸、心臓があるであろう位置から血が滲んでいる。

 火薬の臭いが立ち上ると共に血が上ってくる感覚が込み上げてくる。


「かはっ!?」


 思わず口から血を吹き出すと、俺は足下から崩れ落ちる。

 用意していた回復薬の瓶が割れ、液体を背に倒れ込んだ。

 痛い。

 だが、手で胸を押さえる力が全く出ない。

 まずい……

 これは本当にまずい……

 このままじゃ本当に……

 本当に……


「フフ……はははははははははははははははははははははははははははは!」


 片腕と片足がなくなったはずのベノムがガスマスクが外れ壊れたように笑う。


「私の勝ちだ……イット!」


 ズリズリと引きずる音が響き、やがてベノムの奇跡が聞こえる。


『偉大なる祖よ。器を直したまえ』


 傷や欠損を治す奇跡が聞こえる。

 きっと吹き飛んだ自分の手足を治しているのだろう。


「君の動きが予想の範囲内で良かったよ。あれほど、私を殺せと言っているのに取り押さえようとしてくるだろうってね。たとえ加速したとしても、予想が出来てしまえばたいした問題じゃない」


 そして、今度は足を引きずりながら移動する。


「まだ意識はあるかい? だから言っただろう? 殺す気で来ないと死ぬ。イット、君の慢心だよ」


 慢心……

 自分より能力が低い相手でなければ、捕縛することが出来ないと聞いたことある。

 そうか……俺は、いつの間にかベノムを超えていると思っていたんだ。

 そんなことはなかった。

 だから今こうして俺は死のうとしている。


「こうやって、幾多の勇者を狩ってきた。奇襲や、強奪、腕や足、仲間の命を犠牲にして私達は戦ってきた。そこまでしても勝てないんだよ。規格外(チート)な奴らにはさ」


 そう言いながら血の滴る音がかすかに聞こえながら彼女は歩く。


「だから私らは騙すのさ。本気を出せば簡単に殺せるかよわい存在だと認識すれば、一瞬でも手を抜く。それが強者を倒す唯一の方法。力を持たない私らが勇者達を……魔王共に抗う唯一の手段さ」


 俺は遠のいていく意識の中、必死に打開する手段を考える。

 何か無いか、何とか出来ないかと身体に力を入れる。


「……」


 左手に力が入った。

 ほんのわずかに意思で動かせる。

 意識をそこだけに集中し、辺りに何か無いか探る。

 これが本当に最後のあがきになりそうだ。見付けられなければ……本当に死ぬ。

 家族に……会えなくなる。


「……ッ」


 自身のポケットにある感触を感じた。

 見付けた。

 これが最後の勝機だ。


『偉大なる祖よ。器を直したまえ』


 遠くでベノムが奇跡を唱える。

 きっと腕を繋げたに違いない。

 本当にトドメを刺される。



・イット君こそ、遠慮しているのかと思っていたけど本当に出来ないのかい?

・強い奇跡じゃ無いにしろ、簡易的なものなら出来るんじゃないのかい?

・僕達はサナエル様に会っているから多少は祝福を受けてるはずだと思うのだけど



 ロイスの言葉が脳に響く。

 あの時から俺は気づいていた。

 俺にもそれが使えるのだと。

 でも、使わなかった。

 意地を張っていた訳ではない。

 使()()()()()()()()()()()()


「……」


 意識が遠のいていく。

 使うしかない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()かもしれない。

 だけど、ここを乗り切らなければ、俺に未来はないのだ。

 コハルを……

 子供達の未来の為に!

 俺はポケットにしまった聖印を握りしめる。


『……偉大なる……祖よ』

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