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“それ” は劣化チートおじさん  作者: バンブー
青少年編(前編)

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第132話 エクステンドよ

 いつもよりキレの無い拳だった。

 ただ力任せに放たれた正拳突きで、コハルはバランスを崩しつつ俺へ体当たり気味に突っ込んできた。


「おい止めろコハル!」

「ダメ、身体が勝ってに動く! 止めたくても止められない!」


 そう言いながら、何度も蹴りを振り回してくる。

 俺も彼女の本気の脚力に当たればただではすまない。

 辺りを警戒しながら必死に回避する。


「コハルちゃん!? どうしたの!?」


 異変に気づいたソマリがこちらに声をかけると、コハルが動き出し今度はソマリの方へ向かった。


「ソマリちゃんどいて!!」


 ソマリに殴りかかるコハル、俺は彼女を羽交い締めにして押さえる。


「ごめん、イット……」


 暴れるが涙を浮かべ始めたコハル。

 俺はソマリに叫ぶ。


「ソマリ! コハルの様子がおかしいんだ! 何か止める方はないか!」

「そ、そんなこと言われても!」


 当然か。

 コハルが今どんな状態になっているのか見当が付かない。

 ゲームみたいに毒や麻痺みたいな単純なものではない。

 魔神が彼女の身体の中に入っていった。想像しただけでおぞましい内容だが、そう考えると奴はコハルの中にいまだいる。

 奴は中で悪さをしている。

 コハルを操っているのか?

 だとしたとしてもどうする……

 どうやって……

 思考する中、突然ルドが声を上げる。


「シャル、ソマリ。ここから離れますわ!」


 ルドは移動する準備を伺い始めた。


「お、おい!? ルド! 何処に行くんだ!」

「アナタは、コハルさんを何とかなさい。ほら貴方達行くわよ! ロイス様の加勢するわ!」

「え……え!?」


 戸惑うソマリを差し置いて、ルドとシャルは狂乱の女達をはね除け、包囲網を突破していった。


「アイツ等……ウソだろ……」


 迷い無く俺等を置き去りにしていく奴らに、もはや正気を疑う。

 俺どころかコハルとソマリを……特にソマリなんかこの場で置いていったら抵抗の術が無い。


「ソマリ逃げろ!! アイツらに着いて行け!!」

「そんな! 2人を置いていくなんてウチ出来な……きゃ!?」


 ソマリが女の一人に腕を掴まれる。

 ダメだ、このままでは彼女が……

 俺は奥歯を噛みしめコハルの拘束を解き、ソマリへ駆け寄る。


氷付加(アイス・エンチャント)!!」


 スタッフに付加魔法(エンチャント)をかけ、先端を鋭利にし形状を氷の槍の様に変える。

 ソマリを掴む女達の腕を断ち、彼女を守るが長くは保たない。


「う……ううううう」


 コハルが離れ、途端頭を抱え震えだす。


「コハル――!?」

「うああああああ!!」


 コハルは叫びを上げると、


「なっ!?」


 俺は絶句する。

 彼女は手から魔法元素(キューブ)を取り出した。

 そして、あろうことか彼女が魔法の展開を始める。

 あり得ない。

 コハルは今まで魔法を展開したことなんかなかった。

 魔法適正もかなり低い以上、魔法元素を取り出すことが難しい。

 魔神の力が加わったのか?

 そんなことよりこの場から離れなければ。


「ソマリ!!」


 彼女の手を無理矢理引っ張り女達の間を押し通る。

 すると俺達のいた場所へ案の定魔法が撃ち込まれた。


炎……弾(ファイア……ブラスト)


 苦しそうなコハルの言葉と共に炎の塊が飛んでいき女達へと着弾し爆発。

 女達は何も発さず燃やされていく。

 俺はコハルを見ると、鼻血を垂らしながら新たに魔法の展開を始めていた。

 魔法に魔法を当てて相殺することも出来るが、手元が狂いコハルに当たることも考えられる。

 彼女の展開速度も考え俺は、持っていた荷物をコハルに投げつける。


「コハル!!」


 わざと気づかせる為に声をかける。

 コハルが気づき荷物を避けるようによろめく。俺はソマリを放し、隙が出来たコハルへ駆け寄る。

 彼女の持っている魔法元素(キューブ)を指で弾き完成を阻止する。


「イット……早く逃げて……」


 俺が近づいたことで魔法を止め、コハルは殴りかかってくる。


「出来るわけないだろ! 絶対なんとかしてやる!」


 拳を避け、俺は彼女の身体に触れようと手を伸ばす。

 コハルが魔法を使えるようになったのはおかしい。身体の情報(ステータス)では彼女は魔法元素(キューブ)を取り出すことすら困難であるというこの世界のルールがある。

 彼女の身体の数字か何かが変化しているのではないか。

 もしかしたら、この魔神は身体の情報(ステータス)事態に干渉する能力を持っているのではないかと。

 なら、その変化を探る魔法を……

 解析魔法(アナライズ)を使うしかない。

 俺が彼女に触れようとするが、中々上手くいかず苦戦を強いられる。


「クソッ!」

「イット……ごめんね……」


 コハルはまたも涙を流しながら俺の手を避け、爪で引っ掻こうとしてくる。


「私、ずっとイットの足手まといで……本当にごめん」

「何言ってんだよ! そんな訳あるか!」

「牢屋で会ったときから、ずっと……ずーっと助けてもらってばっかりだった」


 彼女の動きが徐々に制度を増していき攻撃のキレが良くなってきている。


「人族社会でも、私を守ってくれて……私が失敗しても手助けしてしてくれて……いっぱいいろんなことを教えてもらった」

「な、何言ってんだ! 今、そんな話してる場合じゃないだろ!」

「ううん……ちゃんと話せば良かった。私……ずっとイットに助けてもらってばかりだから……だから……」


 話しながら蹴り回され、被弾率が上がっていく。


「私は、イットの役に立ちたかった……イットが苦手なことを私、必死で練習して……」


・イットがしっかり考えて、私が身体を張る。イットが頭で私が身体ってこと!


「イットは私の恩人で、とても大切な人……家族だから……」


・イットは役立たずじゃないよ。

・上手く言えないけれど……私はそう思ってるよ!


「イットにとって私は……私は」

「コハル! 絶対に助け出すから、安心しろ!」

「私がイットにとって、必要とされていないって考えるのが……一番怖かった」

「!?」


・――私のいる意味が……なくなっちゃうから……


 コハル……

 すまないコハル。

 俺はバカだ。

 まぎれもない大バカ野郎だ。

 ようやく、俺はコハルのことを見た。

 そこには全身血だらけで、虚ろな目で涙を流し、俺に拳を振るう彼女の姿だった。


「イット……お願い……」


 息を乱しながら俺に言葉を伝える。


「私を……殺して……」

「……」

「これ以上、イットに迷惑かけたくない……」



 ――カチッ



 今まで抱えていた頭の中のモヤモヤが一気に晴れていく感覚が巡る。

 仲間がとか、

 役割がとか、

 バランスがとか、

 能力とか、立場とか、地位とか、応援されたからとか、

 勇者だからとか


 そんなものどうでも良かった。

 自分を誤魔化していた。

 世の不条理と俺を引っ張る足枷達を大切にしすぎていた。

 全ては自分を守るため。

 自分の人間や社会の輪に溶け込むため。

 はみ出さないために。

 ようやく手に入れた立場。

 世界を救う勇者、他社に胸を張って伝えられ応援し認めてもらえる地位や名誉。

 俺はそれを守ろうとしていた。

 自分を騙し、騙しすぎて何が大切だったのかを忘れてしまっていた。

 向き合って考え合えれば……それで少しは変われたのかもしれない。


「そのツケがこれか……」


 今、コハルを失おうとしている。

 血も種族も違う。

 大切な家族を失ってしまう。

 もう……約束なんてどうでもいい。

 この瞬間。

 この最悪な状況になった時の為に今まで準備してきた秘策を使う。

 禁術を使う。


「ソマリ!!」


 俺は後ろでまた新たに囲まれかけているソマリへ適当な柱を指差し叫ぶ。

 

「あの柱に出来る限り、最大の奇跡をぶちこんでくれ!!」

「え!? 何を言って――」

「俺が全力でサポートする!! お願いだ信じてくれ!!」


 俺の羞恥心の無い無様で必死な叫びで思いが通じ、ソマリは「……わかった!」と敵の囲むど真ん中で祈りを始めた。

 ありがとうソマリ。

 お前には本当に助けてもらうばかりだ。

 俺は自身の胸に手を当て魔法元素(キューブ)を取り出し魔法を展開する。


身体解析魔法(ステータス・オープン)!」


 自身の身体の情報(ステータス)を開き操作する。

 この前の酒場と違い数字を大幅に変更する。今まで考えていた理論上生き残れるように数字へ変えていくが、それでも確実ではない。今度こそ本当に助からないかもしれないと、俺は覚悟を決める。

 数字を書き換え、後は発動させるだけ。

 やるぞ!

 コハルを……助けるために!

 ここが命の燃やし所だ!


 俺は魔法を展開した。


身体の情報拡張ステータス・エクステンド!」


 歯車が軋んでいくように、世界の音が止まった。

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