第129話 混沌螺旋撃よ
「なっ!?」
薙ぎ払ったアンセムは驚愕の声を漏らす。
手応え的にすぐ気づいたのであろう。
「間抜けはお前の方だったみたいだな。お喋り野郎」
俺は思わず笑みを浮かべ、高速で完成させた渾身の魔法元素を前に構えた。
更に追い打ちの如く、剣を持ったアンセムの手を切り落とされ、残った腕にロイスの剣で串刺しにされる。
「お前が終わりだ吸血鬼!」
「き、貴様……がはっ!?」
更に更に、後頭部から眉間にかけて矢が貫通する。
「脳の活動の停止を試みます」
後方からシャルの声が響く。
これでもかと言わんばかりに両足にコハルが噛みつき、ルドがレイピアで突き立てた。
人力でアンセムの動きを封じにかかる。
「これで良い、イット!」
「不服ですが、今回ばかりはアナタに花を持たせてあげますわ! さあ、惨たらしくやりなさい!」
ここに来る前に、コハルとソマリに作戦を伝えていた。
相手は吸血鬼という情報を聞いていたが、Sランク任務である以上ただの魔物では無いことはわかっていた。
この世界でただの魔物ではないと言うと、俺に思い当たる物は一つしか無い。
魔神だ。
城の前で奇襲を受けた糸の件で、正直俺は確信に思えた。
真偽は未だ定かでは無いが、魔神と仮定してオーバーキルしてでもあの魔法を当てるしか無いと考えていたのだ。
なので、ソマリは魔法の射程圏内に入れつつ足止めに専念。機動力のあるコハルに分離されたロイス達に作戦の伝達を頼んだ。
「どうして……我は、確実に……攻撃を」
辛うじて声が出せるのか生気の抜けた様子のアンセムに少しだけ教えてやる。
「今のは人間に幸運をもたらす奇跡だ。手元が狂って、お前の剣は俺達を空かしたんだ。奇跡的にな」
ソマリからこの奇跡のことを教えてもらった。詠唱内容が長く、効果時間が少し短いものの奇跡的な幸運を一度だけ引き起こすものらしい。
天文学的ラッキーも無理矢理引き起こすことの出来る力なのだ。
使用後、大きな疲労感と一日一回で一人まで、奇跡の直後でかつ一つの事象しか使えない等……
デメリットがあり、僧侶達もここぞという場面でしか使わないみたいだが、デメリットと不釣り合いな程効果が強力過ぎる。
デメリットの大きい魔法と比べてしまうと、やはり奇跡という概念は強すぎる。
冒険者達に重宝されるのも納得してしまうが、それは今度だ。
ここまで頑張ってくれた皆に俺は答えなければならない。
俺は魔法を唱えた。
「混沌螺旋撃!!」
魔法元素を中心に黒い霧が回転しながら凝縮されていく。
凝縮されたそれは黒く光る鉱物へと瞬く間に変化、やがて円錐状の俺達の世界でいう削岩機、言わばドリルへと姿を変えた。
俺も魔法を調べていて、確実に動けなくなった魔神を確実に殺す為に特化し開発されとさせるたこの射程が1メートル程の魔法を使うことは無いだろうと思っていたが、一度は使いたいという心の内があった。
それを今、実現させてもらう。
「くだけちれぇぇぇぇぇぇぇええええ!!」
俺の腕に装着された魔法の大型ドリルを思いっきりアンセムの胴体に突き立てる。
ドリルが、けたたましい音を上げながら回転し皆に三肢一頭を封じ込まれた少年吸血鬼アンセムの肉体を中央から破壊していく。
「があああああああああああああああ!?」
うがいをする様な唸り声を上げ、アンセムの口と目から血を吹き出す。
すぐさまドリルは貫通し、徐々に風穴を広げていく。
「……ねえさん」
血を吹きながら、アンセムは何かを呟くのが聞こえた。
最後の言葉のように悲壮感が沸き起こり始めるが、殺しきらなければ殺される。
俺は力一杯前へ前へと押し込んだ。
その時だった――
「ねえさあああああああああああん!!」
アンセムは空洞全体に響き渡らせる様に大きな声を上げた。
耳を塞ぎたくなる断末魔かと思ったが様子が違った。
上半身と下半身が文字通り皮一枚でつながたった状態のアンセムの背からおびただしい糸が放出された。
「な、何だ!?」
ロイスの驚く声を掻き消すように、アンセムの残った背中からサナギを破り出るように異形の存在が抜け出してくる。
角の生えた動物の頭蓋骨の頭部。
足の無い女性裸体のような胴体。
乱雑に黒い羽毛を生やした羽。
悪夢としか言い表せないその異形の存在は、アンセムから逃げる様に糸を垂らし後方へと羽ばたいた。
乳房を見せる身体は人間の腕も付いており、手の指から白い糸とそして、脈打つ心臓を大事そうに抱えていた。
「あ、あれは……あれは何ですの!?」
「あ、あああ……」
ルドとソマリ……いや、この場に居る皆が驚愕する。
だが、コハルだけは俺に話しかけてきた。
「イット! あれってもしかして!」
彼女の言葉に俺も我に返った。
似ているのだ。
今までに俺は、本能から感じ取るあの邪悪さを目撃したことがある。
形は違えど、俺の恐怖の奥底から言葉が漏れ出してしまった。
「魔神だ……」
俺とコハルが捉えられていた昔、城主が使役しあのベノムも一体でやられてしまった驚異の存在を。
俺は最悪の感を当ててしまったのだ。
「ロイス様! 心臓が!」
遠くにいるシャルが声を上げる。
すぐさま魔神の持っていた心臓に目を向けると、徐々に肉片のような物が浮き上がり肉の塊として大きくなっていくのがわかる。
「マズい再生するぞ!」
俺は魔法元素を展開。
ロイスも同様で魔法元素を展開し投げ込む。シャルも遠くから心臓に向けて狙撃。
だが――
「……え」
俺達は驚愕する。
どこからともなく、どこの誰かもわからない裸の女達が闇の中から空中に現れロストと俺の魔法、そして矢を肉の壁の様に防ぎ、着弾した手足や胴は玩具のように吹き飛んでいった。
「あれは……」
俺は気づく。
宙に浮く女達は生気のない死体のようで、俺達がロイスを追いかけていた時のあの狂った女達であることがわかった。
混乱していると、いつの間にか魔神の持っていた肉塊は人間の形となり、裸の少年の姿へと戻っていた。
魔神は少年の身体に糸の束を雁字搦めに纏わり付かせていくと器用なことに衣服の様な物を作り出していた。
少年は徐々に身体を再生させ元の姿に戻っていく。
「恐怖だ……今、我は恐怖を感じたのだ」
完全に身体が修復されたアンセムは宙に浮き、俺達を見下ろしていた。
俺は思わず舌打ちせざるおえなかった。
「……仕留め損なったのか」
俺の言葉にアンセムは返す。
「いや、完全に我は負けていた。認めなければならない。姉上が居なければ、心臓を破壊され間違いなく死んでいたのだ。おっと、うっかり我の殺し方を教えてしまったか? いや、もうすでに気づいているのだろ? 人間よ?」
俺に笑みを浮かべたアンセム。
自身の後ろにいる、姉上や姉さんと呼んでいた異形の魔神へ目を向け何かを合図したように見えた。
「まあ、そんな物を知ったところでよもや関係はない。ここからは仕上げだ。お前達が勇者だろうが関係ない。血袋の女もろとも八つ裂きにしてくれる」
アンセムの言葉と共に、俺等の周りから無数の気配が沸き上がってきた。




