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“それ” は劣化チートおじさん  作者: バンブー
青少年編(前編)

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第128話 幸運へ導けよ

「はあぁぁぁぁぁ!!」


 先にアンセムへ飛びかかったのは闘気の籠もったロイスだった。

 彼は体勢を崩していた奴に光の如く剣を振るっていくが、アンセムはその場で回避していく。


「調子に乗るなよ人間!」


 剣撃を難なく避けていたアンセムは、持っていた剣でいなし始める。

 避けているのに、わざわざ火花を散らしながら剣と剣をぶつけにいく。

 違和感を抱きながら、魔法の展開を始める。更に、獣の姿のコハルがロイスが駆けていく。


「ロイス! 加勢するよ!」

「ありがとうコハルちゃん!」


 竜巻のような速さでロイスの斬撃の間に、アンセムの身体を爪とアギトで削り取っていく。それと同時に、アンセムも剣で弾くが手数が足りていないのがわかる。


「僕達を舐めるなよ吸血鬼!」

「私たちが本気を出せば、どんな相手でも負けないんだから!」

「……小賢しいぞ!! この虫けら共が!!」


 赤い眼光が大きく揺らぎ、鈍い残光が幾多に放たれる。


「うッ!」

「きゃ!?」


 ロイスとコハルは風圧で飛ばされ、身体の所々に傷を負う。2人を振り払ったアンセムの動きが止まった所へ、彼の背中に太い弓矢が刺さりよろける。


「かはッ!」


 矢の位置は恐らく心臓の位置。

 今まで切られても血を吹き出さなかったアンセムが吐血した。


「……」


 血を吐く彼は射線を睨む。

 その先には、石柱の後ろでボウガンに矢を装填するシャルが見える。アンセムは即座に、シャルの前へ躍り出る。


「ッ!?」


 シャルが武器を構える前に首を掴まれ持ち上がる。


「中々の腕前だ人間。この中で力を感じない家畜だろうと思ったが」

「ッ!!」


 宙吊りのシャルは声を出せない様子で、必死に動く足でアンセムを蹴るが彼は微動だにしない。


「残しておく気でいたが、先に消化させてもらう。血を頂く」


 彼は先ほどの様に今度はシャルへ噛みつこうとする。


「このヘンタイ野郎ですわ!!」


 回転する鉄板の板が、シャルを掴み上げていた腕に直撃し手を放した。

 盾を回転ノコギリの如く投げ飛ばしたルドはアンセムと間合いを詰め、レイピアで突き刺す。


「そうやって女性を食い物にしていたのですわ、このケダモノ!」

「ケダモノ? それは貴様等の方だ家畜!」


 突かれるレイピアを回避していたアンセムは、また()()()()()()()()()()()()


「千年我々は大人しく暮らしていた。魔王軍とのしがらみを断ち、この自惚れた人間界の平和の中で大人しくしていただけなのだ」

「何が大人しくよ! 人間達を捕食しておいてよく言えますわ!」

「それは当然だ、人間は我の供物。人間界との均衡を保つ為に貴様等が制定した条約であろうが!」


 何だ?

 何か話が噛み合っていない。

 それに気づいたのは俺だけでなくロイスもだったらしい。彼が問いかけた。


「さっきから僕達を供物供物っと言っているがどういう意味だ!」

「低脳が。言葉の意味もわからぬのか? 貴様等は、我の腹を満たす為にイダンセから送り込まれた食料だ。たかだか数百年前に交わした我と村の条約ではないか」

「イダンセとの……条約?」


 ロイスとの会話で、何かコイツにも人間を襲う理由があるのかもしれないが、良い時間稼ぎになった。俺がそう思ったのと同時に、ポンと肩を叩かれる。横目で見るとソマリが、準備が出来たと頷いた。

 それを確認し、俺は声を上げる。


「ルドにシャル! そこから離れてこっちに来い!」


 彼女等が反応できるかはさておき、こちらへ気づかせるように声をかける。

 そして、両手で魔法元素(キューブ)を回転させ魔法の展開を行う。


誘導炎弾ホーミング・ファイア・ブラスト!」


 火力のある炎の魔法。

 それに弾速と追尾能力を持たせ殺傷能力全開になった火の玉を俺は撃ち出した。

 一瞬アンセムの動きが止まるのが見えた。

 恐らく察したのだろう。

 この火の玉は、高速で逃げても追跡してくる魔法なのだと。

 だがその一瞬の間に魔法は彼へ近づき爆発した。

 爆煙と熱風が、安全圏のこちらまで来た。

 不死の身体だろうが、今の攻撃では一溜まりも無いはずだ。


「……やったか?」


 煙の中、俺は目の前を確認しまた魔法元素(キューブ)た取り出したその刹那だった。


「よくここまで我を追い詰めたな。魔法使い(ウィザード)よ」


 俺とソマリの目の前に、片腕の無いアンセムが、爆発を背に立っていた。

 アンセムは続ける。


「腕を自ら切断しなければ防げなかった。あそこの若造が勇者と言っていたが、まさか己のことではなかろうか?」


 俺に向けて薄ら笑みを浮かべアンセムは残った片手で握っていた剣を横に構える。


「だが所詮は人間の浅知恵よ。僧侶(プリースト)が最も我にとって驚異だというのに手薄にするとは間抜けなものだ」


 とっさに後ろのソマリが唱えた。


『偉大なる祖よ! 我らを――』

「確実に息の根を止めてくれる!」


 ソマリが言い終える前に、アンセムの剣が風を切る。


『幸福に導きたまえ!』


 剣は俺等を通り抜けた。

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