第123話 そういうところが良くないよ
一瞬、俺が叩かれたのかと思ったが痛みはなかった。
何かの奇襲でもない。
音の方へ向くと、コハルだった。
コハルは自身の両頬を両手で叩いたようだ。叩いた手を下ろすと、彼女の頬は若干赤くなっていた。
「コハル!?」
「……」
彼女は大きく息を整えると、
「……謝るのは私の方だよ。ごめんねイット。私、ウジウジしてばっかりで気持ち切り替わってなかった。ロイスやルドちゃん、シャルちゃんが捕まってるのに」
彼女は真っ直ぐ、真剣な眼差しで俺の目を見た。
「もう大丈夫、皆を助けに行こう!」
「あ、ああ……わかった」
コハルの突然の気合い入れに驚き、俺も暗い気持ちが飛んだ。
いつもみたいなハキハキとした彼女に戻ってくれただけで、精神的に楽になる。
「よし! それじゃあ、行くぞ!」
「「おー!」」
「あ、そうだ」
俺は、忘れる前にちゃんと《《ソマリの手を握っておく》》。
「よし! 行くぞ!」
「「えぇ!?」」
すると、女子二人は引いたように淀んだ声を漏らした。
何だ? また嫌な雰囲気になった。
「な、何だよ二人とも?」
「この流れで、ウチの手を握るのはどうかな……」
「はあ? いや、ほらさっきみたいに引っ張っていかないと大変だろ?」
「いや、だってさ……気づかない?」
「?」
「はぁ……ウチ、イット君のそういう所は良くないと思うよ」
「な、何だよ!」
とりあえずと言った感じで、手を払い退けるソマリ。
「イットォォォオ」
怨念の籠もった唸りを上げるコハル。
「ちょ、ちょっと待て! あれか! また誤解されているのか! でも、よく考えてみろ! 引っ張ってやらないと体力の無いソマリが着いて来れないだろ! 手を掴まなかったらどうすれば良い? また風の魔法か? 正直三人乗りは制御出来るか分からないんだぞ?」
俺は先ほどまでの追いかけっこ考慮して握ったのだと主張し代替え案を求む。
すると、俺とソマリの間にコハルが割り込んでくる。
「私がソマリちゃんをおんぶする」
「え? コハルが?」
「そう!」
コハルはソマリに背中を向け、乗るように促す。
「え? ウチのこと運んでくれるの?」
「うん! 私は動いてないから全然大丈夫だよ! これで解決だね!」
確かに彼女等の間でそれで良いならいいのだが……
「だ、大丈夫かコハル? 俺が代わっても……」
女の子に力仕事をさせるのは、その……男のプライド的にどうしても止めたくなる。
だが――
「いいの! これで大丈夫だから!」
コハルは全力で拒否。
挙げ句の果てに、犬のようにガルルと人の姿で威嚇して見せた。
……まあ、いっか。
とにかく、早く奥に進もう。
俺達は奥へと進み、最下層へと到達する。
最下層は、広く青白い光の灯火で照らされ、石柱で空間を支えられていた。
通気が良いのか息苦しさを感じない。
俺達が到着した時、広場の中心でロイス達三人が倒れているのがわかった。
糸は何処にも見当たらないが、彼を放置している不自然を無視する訳にはいかないと、ソマリとコハルに様子を見るように伝えるがすぐに事態が動く。
「ッ!?」
声を押し殺す俺達。
ロイス達が倒れる更に置くの暗闇。
そこから浮かび上がるように宙に浮いた少年の姿が現れた。
「な、なにあれ……子供?」
我慢できずにコハルが声を漏らす。
あれは完全に異質であることが分かる。
俺達は視認しているが、ロイス達は気配に気付いていないのかゆっくりと起き上がろうとしている。
これはマズい。
明らかにマズい!
「ロイス! 上だ!」
俺は大声でロイスに伝えた。
声が伝わり俺達を見るロイス、そして上を見上げようとした時だった。
「「え?」」
俺とソマリは間抜けな声を出してしまった。ロイスと一緒に地面へ倒れていた甲冑のルドが、何の予備動作もなく少年に首を掴まれ宙吊りとなっていた。
地面から持ち上げられた場面がなかった。
まるでそこの映像だけ切り取られた。そうとしか言いようのない異常な光景だった。
ルド本人も何が起こっているのか分からないと言った様子で唖然としていた矢先。
「え、なっ!? や、やめ――んッ!?」
彼女は寄せられ、少年に唇を奪われた。




