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“それ” は劣化チートおじさん  作者: バンブー
青少年編(前編)

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第99話 酒場よ

 更に数日かけて移動し、王都ネバ程立派ではないが石造りの城壁で囲まれている。

 ここはイダンセと言われる北の王都。

 雪は降っていないが、ネバよりもほんの少し涼しく感じ取れる。

 城壁前まで着いた所で、入り口より前にテントが立ち、城門に対して荷馬車や人が並んでいた。


「どうやら検問があるみたいだね。皆、準備しよう」


 王都ではだいたい検問があり、ネバは比較的緩い所だったが、ここイダンセはこの列を見る限り厳しいのかもしれない。


 いざ検問に差し掛かると城門前でいろいろな手続きを行う。

 主に通行税なのだが、武器の所有を取り締まっているそうだ。

 何でも、王都周辺には魔物や獰猛な動物が生息しており冒険者や傭兵界隈の仕事が盛んだが、その分治安も悪くなったらしい。

 人族同士の殺人事件も多発したそうで、武器に対する税を重くした経緯があると検問の人が言っていた。俺達は文句を言うことなく税を支払い、城門へと進んで最後荷物検査を行っていった……





「いや~検問の最後、コハルちゃんが魔物だってなった時は大変だったね」


 時間が経過し夜。

 馬小屋と宿舎を確保した俺達6人は、ようやく冒険者ギルドの近くにあった酒場で夕食にこぎ着け卓を囲む。

 酒酔いの騒ぎや笑い声の中、皆はようやく安堵した。そんな中、ロイスが検問時のこと思い出すように話し出すとコハルは少し不機嫌に頷く。


「もー、本当だよ。魔物だからって理由で念入りに検査するのはわかるけどさ……ホント恥ずかしかったよ」

「更衣室に連れて行かれた時はさすがのシャルも心配しておりました。大丈夫だったんですかコハル様?」

「大丈夫じゃなかったよお! 女の人の検問員だったけど脱がされて恥ずかしかった!」

「脱がされた!?」


 端の席でソーセージを頬張っていた俺は反応する。ルドが嫌そうに吐き捨てる。


「脱がされたことに何を反応しているのかしら? 汚らわしい男ね」

「どういう意味で捉えたか知らんが、お前が考えている意味じゃないから安心しろ」

「それはどういう意味ですの!」

「それより、大丈夫だったのか? 何か変なことはされなかった?」


 ルドは無視して、コハルに視線を合わせると露骨に目線を逸らされる。そして、視界へ再びお怒りの彼女が入ってくる。


「ちょっとアナタ! こんな公共の場で女性にそんなことを聞くなんてデリカシーがないのではないかしら!」


 無視して俺はコハルを見続けると、彼女は頬を膨らませて話す。


「優しいお姉さんだったから変なこととかはされてないけど……少しはイットに助けてほしかった」

「助けてほしいって……検問なんだから仕方ないだろ。とりあえず、ちゃんとした検査だったんなら良かったよ。治安は悪いらしいけど公安はしっかりしてるんだな」


 一安心した所で今度はここでもメイド姿のシャルが聞こえる様に呟く。


「……殿方として、もっと気の利いたことを言えないのでしょうか?」


 目線をこちらに向けていないが、ボソッと十中八九俺に向かって放たれた一言が耳に入る。何だ? これは俺が悪いのか?

 三人の女子から目の敵にされ非常に居心地が悪い。

 ふと、残りの僧侶女子のソマリと目が合う。彼女は俺を見るなり生暖かい目線と笑みを浮かべた。

 女の子達の言っている通りだぞ、って意味なのか?

 はたまた、ドンマイと慰めの顔なのかわからない。


「おい兄ちゃん! 可愛い女の子引き連れてずいぶん偉そうじゃねえか!」


 突然後ろから肩に腕を置かれる。

 気持ちが沈んでいる所に暑苦しい筋肉隆々の男が食事中の俺達へ絡んできた。

 後ろには何人か立っているらしく、へへへと品の無い笑い声が聞こえてくる。


「何なんですの貴方達? 今私たちは食事中なのだけど?」


 嫌な目で睨む女性陣の中で、ルドが更に喧嘩腰で俺へ絡む男を睨む。

 すると口笛混じりに男が返す。


「オレはお前みたいな強気に女好きだぜ! どうだ? こんな小さくて細い野郎よりオレみたいな太くて大きいのは?」

「お生憎様、ワタクシお猿さんには興味ありませんの。せめて人間の男性なら考えてあげたのだけど」

「言うじゃねえかお嬢ちゃん。ますます気に入ったぜ!」


 すると男達は「俺はあの子にしよう!」などと各々お気に召した女性陣に近づいていく。王都ネバにも中々いない傍若無人な冒険者達。検問の厳しさが理解できた。

 そんな流暢な事を考えていると、荒くれ者の一人がコハルに近づく。


「おほ! この女、でけぇ乳してるじゃねぇか! ちょっと揉ませろよ」

「ちょっと止めてよ!」


 胸に伸びる手を咄嗟に食い止めるコハル。

 俺も思わず席を立ちコハルへ近づく。


「止――」

「止めろ!」


 コハルに近づいた直前、席が近いロイスが男の腕を掴む。


「僕の仲間達に手を出すな!」

「ああ? ナヨナヨした坊ちゃん共はすっこんでろ!」


 ロイスと男は取っ組み合いになる。

 男の腕を掴もうとしていた俺は、行き場を無くして手を下ろした。


「コ、コハル、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。それよりロイスを助けて上げなきゃ……」


 とロイスを見るとすでに、彼の手によって男が組み伏せられていた。


「いてて!? は、放せ! はなせえええ!」

「力の差は歴然だ! わかったらこれ以上僕達に近づくな!」


 その様を見た男達がたじろぐが、最初に絡んできた屈強な男は一歩前に出る。


「歴然だ? ソイツは聞き捨てならねぇな。ここイダンセの数少ないSランク冒険者の俺に力で勝ったとでも?」


そう言うとロイスに捕まっていた男の襟首を片手で掴み上げ、無理矢理助け出す。

 軽々と成人男性を持ち上げる姿に、言葉だけでは無いことをこれ見よがしに証明してくる。すると、ロイスが首を傾げた。


「Sランク……冒険者? 授業では聞いたこと無い言葉だ」

「はぁ? おいおい兄ちゃん冒険者ランクも知らないなんて、ビギナーみたいだな」

「申し訳ないけど知らないな。イット君は聞いたことあるかい?」


 嘲笑う男の剛力よりも、その単語が気になる様子の彼に俺から説明する。


「武具屋に居た時に聞いたが、冒険者界隈の隠語で、格付けみたいなもんだ。FからAまでのアルファベットで表している指標で、主に報酬額の高いクエストをクリアすることによってランクを自称出来るんだよ」


 だが、問題点は高額報酬と依頼の難度は比例しないということ。

 依頼主の立場や価値観によって金額が変わってしまい、貧困集落から出る魔物退治よりも、貴族が出す鼠の駆除の方が高額な場合も考えられるぐらい曖昧な物で、正直この自称ランクは恥ずかしくて自称するのは、相当な自信家で承認欲求の塊ぐらいだと俺は思っている。

 しかし、Sランクと自称するのは少し事情が違うのだ。


「それだとあの人が言っているSランクって……FからAまでしか無いし、そんな物無いんじゃ」

「いや、Sランクってのも隠語だ。さっきのランクよりも更に上のランクってことだ。冒険者ギルドが直々に出している依頼を成功させた冒険者が自称できる称号だよ」


 冒険者ギルドはそもそも国営事業であり、つまりギルドからの依頼というのは国に危機的影響を与える内容がほとんどである。


「ギルドからの依頼ということは難度が間違いなく高い。その依頼を成功させたのなら実力は本物ということになる。依頼受注の履歴を見れば真偽もすぐ分かるから、こんなチンピラみたいな奴等でも下手に嘘をつける内容でも無い。たぶん本当なんだろう」

「……へー、なるほどね」

「へっへっへ! そっちの兄ちゃんは詳しいみたいで説明が省けたぜ!」


 そう言うと、近くにあった机を俺達の前へ叩き置く。

 机の上に男は肘を置いた。


「俺と腕相撲しようや。俺が勝ったら女達は頂くぜ」


 屈強な男は唐突な挑戦を申し出てくる。

 俺達は一方的な申し出に唖然とするが、酒場の客達は湧き上がる。

 外野から「ああ、可愛そうに」や「やっちまえ!」など無責任なヤジが飛び、雰囲気を一気に作られてしまう。


「ふ、ふざけないで下さらない! とんだ茶番だわ! 皆、こんな所早く出るわよ!」


 さすがのルドも、雰囲気を察しこの場から退くことを提案する。

 こんなのに乗る必要はないと、俺も珍しく同意し出入り口を向く。

 だが……


「おいおいお前等、逃げられると思ってんのかよ?」


 と、男の取り巻き達が入り口に立ち塞がる。力ずくで抜けられるだろうが、小競り合いは避けられなくなった。


「本当の力の差を見せてやるよルーキー共。たっぷりと俺が教え込ませてやる!」


 女性陣に狙いを定めた様な視線で舌舐めずりをする巨漢の男。

 この面倒くさい状況をどうするか、俺は思考を巡らせる。

 その時、俺の視界の横をロイスが通り過ぎていく。


「……」


 ロイスは無言で巨漢男の向かいに立ち、肘を机に突いた。


「パーティーの代表として、僕が勝負を受ける!」


 腕まくりした彼に周りが沸いた。


「お、おいロイス! お前正気か! やるメリットがないだろ! 女の子達が危険な目に遭う!」

「大丈夫だよイット君。僕は勇者だ。負けるはず無い」


 対した自身だが相手の力量が分からない以上リスクがある。

 俺達の遣り取りに、巨漢男は笑う。


「がっはっは! 良い度胸だ勇者の兄ちゃん! 世間知らずの甘ったれは教え甲斐があるぜ! お前が勝ったら何を俺の尻でも貸してやろうか? はっははあ!」

「そんなものいらない」


 ロイスが吐き捨てた瞬間、互いに手を握りしめ力が籠もった。

 巨漢の男が驚愕の表情を浮かべる。


「は……う、うそだろ……」


 徐々に、自分の手の甲が机へ向かっていく様が信じられないと言わん顔も傾いていく。


「ふ、ふざけるな! 俺が、俺が負けるかよ!!」


 顔を真っ赤にしながら、身体を反対に傾けるが、腕だけは反対に倒れていく。


「ク、クッソおおおおおお!!」

「フンッ」


 最後ロイスが息を吐く、巨漢男の身体毎引っ繰り返す程に机へ叩きつけた。酒場には「信じられねぇ!」と喝采が沸く。

 手を放し立ち上がるロイスは言い放つ。 


「アナタの負けた顔が見れれば僕は十分です」


 汗一つ、息一つ乱れずそのまま離れるロイス。分かってはいたが、無事勝てて良かったと安堵する。

 すると、ルドが彼に怒る。


「もう! 勝てたから良かったものの、ロイス様はもっと冷静になって下さらない!」

「え? ああゴメンよ。腹が立ってつい」


 更にシャルやソマリ、そしてコハルも彼へ近づく。


「シャルはロイス様の功績を称えます。とても……カッコ良かったです……」

「ロイス君やるね~スカッとしたよ!」

「やったねロイス! イエーイ!」


 きゃっきゃっわいわいと騒ぐ女の子達。

 俺は何も役に立たなかったが、とりあえず皆に被害がなくて良かっ――


「もう一回勝負しろ!!」


 倒れ込んでいた巨漢男が立ち上がり、怒声を上げる。

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