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宵、夏音の中で  作者: ぽんこつ


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4/6

好きのむこう

『東京 東京 大東京 サテ

咲いて咲かせて いつまでも ソレ いつまでも~……』

ドドンドドン。

カラッカッカ……

『大東京音頭』は練習している時、一番難しかった。

他の二曲と比べて少しテンポが速い。

それに、なんか振りが多いというか、動きも多い。

この踊りでも宥羽は『東京音頭』と同じことするんだ。

ひじを曲げた右腕を外側から大きく巻き込んで。

グッと上に伸ばしながら手首をくるって回して。

手で何かを掴むような仕草をして。

しかもこっち踊りの時は、少し飛び跳ねる。

そこで、左手で右の袖を掴む。

左手を上げる時は右手をひじあたりに添えるだけ。

これが、最初は難しくて。

特に飛び跳ねる動作と手とかがリンクしなくて。

でも、今はいい調子。

宥羽の友達の望や里菜も一つ外の列で踊っている。

二人も宥羽に負けじと上手い。

それもそのはず、仲良し三人組は小さい頃から揃って舞台の常連。

三人の中で一番背が高い望の踊りは逞しさがある。

腕を目一杯に使って、動作に合わせて右に左に軸を傾けて。

里菜は小柄だけど、バネがあるような躍動感がある。

それでいて表情がどこか儚げで、常に少し上を見ている。

それにしても、浴衣を着てるからか。

髪型が違うからか。

二人とも少し大人びて見える。

まあ、宥羽ほどじゃないけど、かわいいとは思う。

望とはクラス委員が一緒だから話す機会があって、盆踊りのことやコンクールのことを教えてもらった。

その時、

「もしかして宥羽のこと好きなの?」

って聞かれて誤魔化したけど。

なんでそう思われたのかは分からない。

それ以上聞いてこなかったし。

逆に突っ込まれても困ったし。

でも、宥羽は今年のコンクールで優勝したいって、気合が入っているというのは聞いた。

去年は準優勝だったからかな。

少なくとも俺の中では宥羽が優勝なんだけど。

じゃあ、何で太鼓なの?

ドドン、ドドン。

ドン、ドン、ドン……

弾ける太鼓に射抜かれそうになって。

いやいや集中。

でも――

視線が流れて、太鼓叩いて笑っている宥羽。

その姿もめっちゃかっこいいし。

かわいい。

もう反則だろ。


挿絵(By みてみん)


                  ☆


ドドンドドン。

カラッカッカ。

ドン、カラッカッカ。

ドン、カラッカッカ……

体全体で太鼓の音を浴びながら。

やっぱり好きだなって。

このリズム。

太鼓をやってみたいと思った理由は、くーちゃんの楽しそうに叩くその姿に純粋に憧れたこと。

私の中で踊りに対する楽しさは一ミリも減ってないんだけど。

前回、優勝できなかったもやもやがあったのは確かで。

去年のコンクールが終わった後の食事の時に、

「太鼓叩きたいの? 叩いてみる?」

ふと、くーちゃんが言ってくれた。

「どうして分かったの?」

「ゆーちゃんのことなら、少しは分かるよ」

くーちゃんは、もんじゃを焼きながらニコッと笑って。

「ゆーちゃんはね、踊りだけじゃなくて盆踊りが好きなんだと思う。それにさ、違うことに挑戦したら、踊りも、もっと好きになるよ。きっと」

それは、くーちゃんの言った通りだった。

太鼓を習っている時は、それに一生懸命で、踊りのことを忘れていた訳じゃないけど、手が回らなかった。

でも、太鼓に自信がついてきて。

ある時、くーちゃんのお父さんが、

「基礎は大丈夫。体が覚えてくれる。あとは宥羽ちゃんらしさで楽しめばいい」

って、声を掛けてくれた。

それを聞いた時。

急に踊りたくなって。

上手く言えないけど踊りに対する初心に戻れたというか。

さらに、自分らしく楽しもうって思わせてくれた。

だから、今こうして叩く太鼓も私だけが奏でる夏音で。

聞いている人がワクワクするようにって、叩いてる私みたいに。


「末永さんは、上手いね相変わらず」

後ろから、くーちゃんの声が聞こえた。

「色気だな」

「もう、お父さんったら」

くーちゃんが話しているのは、去年のコンクール優勝者の人。

私は準優勝だった。

悔しかったけど、あとでビデオを見たら。

納得だった。

うっとりするような表情に、静と動のメリハリが美しくて。

そして、くーちゃんのお父さんが言う女性の色気。

女性らしい体のラインが強調されていて、見惚れてしまったから。

私には出せないもの。

でも、私だって。

今の私なら私らしさを出せる――

「のんちゃんも、りーちゃんも、年々上手になってる」

「そうだな、宥羽ちゃんとその三人は決勝進出は固いんじゃないか」

「そうだね、今年こそ、ゆーちゃんに取って欲しいけど、私的には」

くーちゃん。

ありがとう。

頑張るよ。

ドドン、ドドン……

「あれ? あの子、ゆーちゃんの踊り方に似てない?」

ん?

「そうだな、確かに似ている」

「男の子だから若干違うけど、上手いな。あんな子いたかな」

「どうだろ、大体上手い人は覚えてるけどな」

「そうだよね、私も記憶にないな」

私の踊り方に似ている男の子?

誰だろ?

すると――

視界の中に岩崎くんが入ってきた。


挿絵(By みてみん)


あ?

私はくーちゃん親子が話している男の子が岩崎くんだって思った。

だって。

私の癖を。

私が真似たおばあちゃんの踊り方をしていたから。

浴衣の袖をしゅっと掴む。

誰に教わったんだろ……


                  ☆


どうして、あの子なんだろう。

私だって自信はあるのに。

去年もあの子より下だった。

浴衣も髪型も髪飾りも。

踊りだって練習してるのに。

櫓の上で太鼓を叩いているあの子を見つめた。

「なにまた、飯坂さんのことライバル視してるの?」

「え? 別にしてないけど」

「もう、なんでそんなにあの子にこだわってるの?」

「は? だから関係ないし」

和佳奈は私を見て小さくため息をついた。

愛里めりはさ、勉強も一番。運動も一番。水泳も一番。一等じゃないと我慢できないのは分かるよ。その分努力してるのも」

「なによ」

「いや、盆踊りで優勝したいなら分かるよ、なんであの子なのよ」

「だから、関係ないってば……」

嘘って分かるもんだね。

確かに、飯坂さんは踊り上手だし楽しそうだし。

だって。

慎吾くんが、あの子のこといいよねって。

話してたの聞いたから。

浴衣で踊る姿がかわいいって。

輪の中で友達とふざけながら踊っている彼を見た。

「私って、あの子より可愛くないかな?」

「ああ、牧野のことがあったのか」

にやっと笑う和佳奈。

「え? なに?」

「愛里は分かりやすい」

和佳奈は、横目でジロジロと私を見ている。

「ち、ち、違うし」

浴衣の袖を握りしめた。

「なに? で、あの子に勝ったら牧野の気持ちが愛里に向くって?」

「べ、別に……いけない?」

「あのね、漫画の読み過ぎ。好きなら好きって言っておいで」

「あ? なんで? なんで私が言わなきゃいけないの?」

「だめだ」

なぜか首を振ってうなだれる和佳奈。

「何がダメなの?」

「あのね、待ってるだけじゃ他の誰かに取られちゃうかもよ」

「なによ」

そんなことない。

あの子に勝てたら、慎吾くんは、きっと私に振り向いてくれるはず。

ドドン、ドドン。

ドン、ドン、ドン……

負けないから……

私は浴衣の袖を握りしめながら輪の中に飛び込んだ。


お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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*人物画像は作者がAIで作成したものです。無断転載しないでネ!

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